第24話 王様の思惑
▶▶▶
酒場の隅で。
黒髪の若い王都騎士団の男性が、掌に収まるくらいの大きさの青い結晶石を取り出した。
これは、瞬間転移魔法が使える魔石なのだと、騎士が簡単に説明をしてくれた。
透き通った青色の魔石に金色の装飾があり、装飾の部分には何かの呪文だろうか。
見たことのない文字が刻み込まれていた。
オリビアは初めて見る魔石を、興味津々で見つめた。
馬車でここから王都に向かった場合、辿り着くまでに三日はかかるのに一瞬で移動出来るとは…。
一般的に市民には普及していないが、王族に関係ある者、王都騎士団の中でも緊急事態にならない限り、支給されないらしいのだが──。
(今私が置かれてる状況ってそんなに、緊急な事案なの……!?)
王都に一回も行った事のないオリビアは好奇心より戸惑いが勝っていて、表情には決して出さないが内心パニック状態だ。
(冒険者登録が剥奪になる可能性って!?
まだ旅に出たばかりなのに!?
どうしたらこの状況何とか出来るの……!!?)
「では、オリビアさん。宜しいでしょうか?」
「は、はい……!」
若い騎士に促され、周囲を他の騎士に囲われながらオリビアは近くに立った。
この転移魔法は人数制限があるようで、魔石の周囲にいる最大五名までしか、一度に転移出来ないらしい。
若い騎士はアキ達の方へ振り返り、
「オリビアさんのお連れの方には申し訳ありませんが、街の外へは一切出ず、待機してくださるようお願い致します。必要になった際には、証言者としてお呼び出しをしたりする事もありますので、ご了承ください」
そう告げると、魔石に向かって何か呪文の様な物を呟き始めた。
呪文を呟き出した途端、魔石が光り始め、青色の光がオリビア達を覆う。
オリビアもアキ達の方を振り返ると、不安そうな顔でこちらを見つめていた。
「すみません、必ず戻ってきますから」
オリビアが二人に向かって声を掛けたが、その返事を聞けることはなく、激しい光が瞬き、オリビアと騎士達は酒場から
▶▶▶
王都の中心部にそびえる、煉瓦で出来た立派な城の中。
ベルラーク王国、現国王ダグラス・ベルラークは玉座に座って羊皮紙に目を通している所だった。
王は眼鏡をかけた年配の男性で、眼鏡を少しずらしながら険しい顔で読み込んでいる。
「ほう……。冒険者ランク、適正外の魔物を討伐した疑いのある者か……」
羊皮紙を読みながら呟く声が、広い玉座の間に響き渡る。
大きなステンドグラスの窓から陽の光が差し込んで、白い大理石の床にたくさんの色が散りばめられていた。
玉座に座っているが、組んでいる足が長く、王様が背が高い事が座っていても分かる。
王が「うーん」と唸りながら顎に手をやると、今度は近くに立っていた男が言葉を発した。
「はい。調べによると、まだ冒険者になって
男は40代くらいの細身の貴族で、背筋を伸ばしたまま持っていた報告書に目を向けている。
「ほう……。一人で。それは、興味深い」
王は少し微笑んで言った。
「間もなく、その者が移送されて来るそうです」
近くに立っていた貴族の男がそう告げると、
「移送完了次第、その者をすぐにここに連れて来るように。そう伝えなさい」
と、不敵に笑いながら王は言った。
▶▶▶
王都にある城の敷地内にそびえ立つ、塔の中。
オリビアと騎士たちは、気付いたらその塔の中にいた。
煉瓦のような、石造りの狭い部屋に小さな窓が一つあるだけ。
「ここは……?」
オリビアが尋ねると若い騎士は魔石を懐にしまいながら、答えた。
「ここは王都、ベルラーク城内にある騎士訓練所の近くに立つ塔の中ですね。普段はあまり使われていません」
「そうなんですか……」
「ええ。こちらから降りますので、ついて来てください」
騎士が指差す方向を見ると、下に降りる為の螺旋階段があった。
「わかりました」
騎士たちに前後を囲まれる厳戒態勢の中、オリビアも階段を降りて行った。
▶▶▶
塔を出てまず見えたのは、二階建てで横に長い大きな建物と屋外で素振りや訓練を積む、他の騎士たちの姿だった。
石造りの大きな建物はコの字型に建っており、屋外の訓練場を囲う様な設計になっているようだ。
(ここがさっき言っていた騎士の訓練所か……)
オリビアは内心そう思いながらも、声に出すのはやめた。
(罪の疑いあって王都に呼び出されているのに、ジロジロ見ていたら怪しまれそうだしね……)
騎士の訓練所の近くを通り過ぎ、立派な城がある方向へ歩いて向かっているが、その大きさにオリビアは目を見張った。
石造りの城はいくつかの塔に囲まれていて、中にあるものを守るように増築を繰り返したのか?と思うくらいの大きさと高さがあった。
こんな立派な建物は、オリビアは今まで見たことがなかった。
(さすが王都にある城は違う……)
オリビアは表情に出さないように気を付けながら、歩きながら城を見上げていた。
城の裏口を警備している騎士に若い騎士が近付くと、警備していた騎士が深々とお辞儀している。
まだ朝なのに薄暗い裏口には、壁に松明が灯されている。
二人の騎士は、少し話をしているようだ。
(私より若そうな騎士なのに、結構階級の高い騎士だったのか……)
オリビアがそう思って見ていると、「こちらから入ります」と若い騎士に案内された。
「玉座の間にて、王がお待ちのようです。急いで行きましょう」
戦士オリビアの憂鬱 ~魔王を倒せる勇者のいない世界で、お前が倒してこいと師匠に家を追い出されたので、頑張って世界を救ってみせます!~でもまずはワンオペ戦闘は勘弁してくれませんか?~ 夜月 透 @yazuki77toru2
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