マレビトが来たりて、しかし穏やかなり

昔は生まれ故郷を離れるものは稀でした。ネットやテレビや出版など居ながらにして遠方を知る方法もありませんでした。故に身の回りにない物事を知る機会はほぼありませんでした。

そんな世で旅人はマレビトと呼ばれました。そこには「稀人」や「賓」の字も当てられ、旅をできるというのは位が高いお人だという認識も共有されていました。

本作の主人公「りん」は旅をしつつも、しがない薬売り、そう本人は申しますが、シリーズをお読みの皆様なら真に賓であることはご存じの通り。位は低そうですが……いやいや、分からぬ事は申しません。

そのような身分を隠した者が漁村に入って何が起きるかというと、凪いだ海のように穏やかなのです。作者御本人が安全運転の回と仰るように、大きな事件が起きないことが好ましく思えるエピソードです。

海の男は、海の如く大らかでした。賓の「りん」もそれを感じたでしょう。

読者にも同じです。疲れたときに海を見ているように、読んでいて心がほぐれてきます。

心騒がぬ、穏やかな読書も良いものです。

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