第7話

 大きく開かれた居間の窓の外。爽やかな秋風がカーテンを揺らすその向こうには、子どもたちが遊ぶ公園が広がっていた。

「シズさん、鮭が美味しく焼けましたよ。炊き立てのご飯にほうれん草のお味噌汁も作りました。一緒に食べましょう」

はなは、台所から窓際のダイニングチェアに座っているシズに声をかけた。居間からの返答はない。窓の向こうから公園で遊ぶ子どもたちの歓声が風に乗って聞こえてきた。

こんがりジューシーにフライパンで焼いた厚い切り身の紅鮭、女将さんに教わって作った煮干し出汁の味噌汁。漬物だけは、はなの手に追えなかったので、女将さんお手製の茄子の糠漬けを拝借した。

それらを盆に並べたはなは、「よし!」と指差し確認後、炊き立てご飯を茶碗に盛り付け、盆の左側へトンと置いた。そして、居間へと運んだ。

ダイニングチェアに座っているシズの視線は、窓の向こうに広がる公園に注がれていた、

「シズさん……」

はなは盆を持ちながらシズの顔を覗き込んだ。

「ご飯ができましたよ。温かいうちに一緒に食べましょう」

はなは、シズの前に盆を置いた。盆の上の出来立て料理は熱々で湯気を立てていた。

「私、鮭の美味しい焼き方を教わったんです。一緒に食べていただけませんか?」

シズは小さく微笑んだ。

「ありがとう。とても美味しそう。でも今はもう少し窓から外を眺めさせて」

そう言うと、シズは窓の外の公園を眺めながら小さな声で歌い始めた。


小さい秋、小さい秋、小さい秋見つけた

めかした鬼さん手の鳴る方へ

澄ましたお耳にかすかに沁みた

呼んでる口笛百舌鳥の声

小さい秋、小さい秋、小さい秋見つけた


歌を聞くと、たーちゃんも一緒に辿々しく歌い始めた。


誰かさんが、誰かさんが、誰かさんが見つけた……


「たーちゃん、上手ね。すごい!」

シズがほめると、たーちゃんはキュルルルルゥとうれしそうな声を上げ、再び歌を続けた。


誰かさんが、誰かさんが、誰かさんが……


「ねえ、はなさん。誰かさんって誰かしら?」

どう話していいのか、はなは戸惑い話題を変えた。


「……シズさん。たまには気分を変えてあの公園でご飯を食べますか?」

「そうねぇ……。外へ出てみようかしら。はなさん、車いすを押してくれる?」

「もちろんです。その前にこのご飯と焼き鮭でおにぎり弁当を作りますね」

「おいしそうね。たーちゃんも一緒に行くんでしょ?」

「もちろんです。抱っこヒモで連れて行きます」

「楽しくなりそうね」


 たーちゃんがウキャキャと声を上げた。窓の外の公園では子どもたちの歓声が続いていた。

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