はなちゃんとロボットと鮭ごはんの夜3

@yamato_b

第1話

 9月の太陽がやや西へ傾いた昼下がりの部屋の中。家族型ロボットのたーちゃんは一人、白い部屋の壁に自分の影を投影していた。両手を上げたり、水平にしたり、「よっ」と挨拶をしたり、自分自身の影と遊んでいた。そうして遊んでいると自分の分身ができたようで、たーちゃんの淋しい気持ちが少しだけまぎれた。

 不意に玄関の鍵がガチャガチャと音を立てた。

「ただいま」

 一人の若い女性が部屋の中に入ってきた。訪問ナースの制服を身につけたはなだった。たーちゃんはウキャウキャと声を上げながら両手をパタパタ上下させてはなの帰宅を喜んだ。たーちゃんの首にかかったお守りがゆらゆらと揺れた。

「さあ、たーちゃん。お昼にしよう」

 はなは冷蔵庫から自作の弁当を取り出してテーブルに置き、やかんに水を注いで火にかけた。そして、インスタントの味噌汁をマグカップに入れてお湯が沸くのを待った。

 たーちゃんは、はなが昼食の用意をしている様をじっと見上げている。はなはたーちゃんに笑いかけた。

「たーちゃん、今日のおかずは焼き鮭と卵焼きだよ」

 そう言うとはなはたーちゃんを抱き上げ、テーブルの上の弁当を見せた。

 1つ目のタッパーの中には、きんぴら牛蒡と大ぶりな紅鮭の切り身、ふんわりとした卵焼き。2つ目のタッパーの蓋を開けると、真っ黒な海苔がびっしり。箸で海苔を持ち上げるとそこには、ご飯にしっとりと馴染んだおかかが一面に敷き詰められていた。

「たーちゃん。私、料理の腕を上げたでしょ」

 そう言うと、はなはたーちゃんの鼻をチョンと指で突いた。たーちゃんは目を細めて「ウキュ」っとくしゃみをした。

「でもなぁ、なんかワンパターンなんだよなぁ……」

 確かに、はなの弁当は毎日あまり変わり映えしなかった。グリルで焼いた鮭と市販の卵焼き、きんぴら牛蒡。海苔弁もおかかを振って海苔を乗せるだけ。海苔弁の代わりにふりかけや日の丸弁当にすることもあったが、正直いってはなは毎日同じメニューに飽きていた。


 笛吹ケトルがピーッと鳴ってお湯が沸いた。はなはやかんのお湯をマグカップに注ぎ、フーフーしながらインスタント味噌汁を啜った。

「たまには豚の生姜焼きとかに挑戦してみようかな?」と一瞬思ったはなだったが、たーちゃんを床に下ろして弁当を食べ始めると。そんなことはすぐに忘れた。

 紅鮭の塩焼きは冷えてもおいしく、海苔の風味によく合って、ご飯がどんどん進んだ。結局、はなが鮭に飽きることはなかった。

「シズさんもご飯をもう少し食べてくれるといいんだけど……」

 はなは、ふと箸を止めて考え込んだ。

「今のままだとどんどん痩せて、寝たきりになっちゃう……」

 食べかけの自作弁当をじっと見つめるはなの頭の中で、色々な思いがぐるぐると回転した。

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