第9話 ランチ・ザ・パニック

「つ,疲れたぁ……。」

「おい,シン!あれはどうなっているんだ!?いつもよりおかしいだろう!!」

「それはこっちの台詞よ!!天音,由美,無事ぃ?」

「私は無事だけど,天音は虫の息。とりあえず,どうする?」


 チラッと生徒会室の外を見ると何人いるんだよ!?と思うほどの女子生徒達が今にも生徒会室に押し寄せようとしていた。


「ちょっと,パパ!そこ退いて!風間君,中にいるんでしょう!?」

「黙秘する。」

「パパ!風間君がここに入ったことは知っているんだからね!」

「Need not to know(知る必要のないことだ)。」

「パパ~,可愛い猫ちゃんの写真あるんだけどなぁ~。一緒にこっち来て見ない?」

「……少し考えさせてくれ。」


 フレディが外で仁王立ちしてくれているからまだ大丈夫だが,いつ押し寄せて来るか分からないなぁ。


 ……というか,写真で釣られそうになってたぞ!?


「まさか,昼飯を食べようと思ったら行き成り押し寄せて来るとは……。」

「そうよねぇ。正直,必死になり過ぎでしょう。」


 奈都姫とリュウにそう言われて俺は先程の教室の状況を思い出した。


 ******************************


『シン~,飯行こうぜ!あ,お前今日も弁当だったな?』

『そうだぞ。あと,今日は奈都姫達と例の話の相談をする約束しているからな。』

『そう,だったな。それなら,さっさと教室から移動しようぜ。他のクラスの連中がいつ押し寄せ来るか分からないからな。』


 リュウの言う通りだ。


 休み時間は来なかったが,今はクラスの女子達も声を掛けて来るかもしれない。


 早急にこの場を移動しなくては……。


『風間君!少しいいかな?』


 ほら,来た!


 案の定,クラスの一人が俺に声を掛けて来た。


 そして,彼女の手にはお弁当が握られていたのだ。


『今日って流星君とお弁当かな?良ければお友達と一緒にお弁当食べながら色々と聞きたいことがあるんだけど?』


 リュウが一緒でも構わないって余程だな。


 チラッと悪友を見ると,名残惜しそう顔をしていたが,ガクッと項垂れた。どうやら,自分のことよりも俺のことを優先してくれたようだ。


 本当にリュウは良い奴だ。……ド変態ではあるが。


『悪いな。今日は奈都姫達と既に約束しているんだ。誘ってくれたのに申し訳ない。また,今度なら付き合うよ。』

『そっか。うん,それじゃ明日でもいいからお願いね。』


 そう言って彼女は引き下がってくれた。


 クラスの皆はを除き,俺のこと理解してくれているのか,あまりしつこく聞いて来なかった。


 まあ,理由はそれだけではなく,他にも大きな理由が1つあったからだ。


『(婚約するのは最低が決められているだけであってそれ以上を取ることはいくらでも構わないから皆安堵しているんだな。)』


 要するに,例え最低人数の3人を決めたとしても俺の気分次第でいくらでも数を増やすことは可能なのだ。


 なので,クラスの女子達は危険を犯して俺と話をしようとせず,機嫌を損ねないことを優先したのだろう。


 ……彼女達を除いて。


『ねぇ,風間君~。また,あの子と一緒なの?偶には私達の相手をしてほしいな?』

『そうそう。別に東条って幼馴染なだけで恋人じゃないんでしょう?』

『恋人ではないぞ?だが,大事な友人だ。悪いな。』


 そう言って早々に彼女達に分かれを告げると,俺はリュウを連れて席で談笑していた奈都姫達の下へ向かった。


 後ろから彼女達の舌打ちが何名か聞こえて来ていたが,敢えて無視した。


 そして,隣で後ろの女子達を睨みそうになっていたリュウを宥めた。


『リュウ,放っておけ。関わると碌でもないことになるぞ?』

『……分かってるけどな。何であいつ等,奈都姫にいつもあんな態度何だ?』

『あいつが気に食わないんだろう。奈都姫は色々と持ち過ぎてるんだよ。』


 女好きのリュウが嫌いなのは余程であるが,彼女達が奈都姫にあんな態度を取るのは分からないこともない。


 彼女は色々と持ち過ぎているのだ。


 まず,彼女が一部の女子から恨まれているのは風紀委員であるからだ。


 去年の秋頃,現在の委員長である渚沙さんと共にお金目当てで俺に近付く女子達の取締に尽力したのだ。


 そして,彼女の髪の色も問題なのだ。


 風紀委員であるにも関わらず,あれだけ目立つ色の髪なのに成績も良く先生達の評価もいいため,彼女は何も言われないのだ。


 他にも学園の二大お姉様である渚沙さんと静ねぇのお気に入り,男子達からも人気が高く,俺の幼馴染で俺自身も彼女のことを大事にしているなど彼女達に取っては羨むことばかりで嫉妬していたのだ。


『更にあれでスタイル良過ぎるだろう?女子達が羨むのは分かるが,何故男子達は俺に何も言ってこない?普通は女子よりも俺が敵視されるだろう?』

『シン……お前はいい加減,気付け。男子はもう諦めているんだ。』


 男子達はいつも奈都姫が過保護に接していることを知っており,更に俺の幼馴染であるのだ。


 自分達ではあの二人の仲には決して入ることができないと既に諦めている者が多数おり,逆に俺達のために早く付き合ってくれ!!という者までいるそうだ。


『奈都姫,お待たせ。大丈夫か?』

『大丈夫よ。風紀委員だから言われることは慣れているから。それで,何処行く?』

『う~ん,屋上と中庭は人が多いし,空き教室があれば一番いいんだが……。』


 俺と奈都姫は色々と悩んだ。


 まあ,誰も来ないことに越したことはないからな。


『『……!?』』


 急にフレディと寝屋川が何かを感じたらしいのか,扉の方を見た。


『フレに由美ちゃん、どうした?』

『『……来る。』』

『来る?もしかして,ほいみんと白ちゃん!?』


 愛しのシスターズだと思い,ウキウキした気分で扉の方に向かって歩いて行った天音であったが,それが大きな間違いであった。


 扉を自分で開けようとした瞬間,急に扉が開き,他のクラス女子達が一斉に雪崩れ込んできたのだ。


『あ!!風間君,まだ居てくれた!!』

『風間君,さっき聞いたんだけど婚約者が既に決まったってどういうこと!?』

『しかも,3人だけって!!それ以上,婚約者を取れないってこと!?』

『……えっ?』


 教室に入って来た女子達の言っていることが分からず,その言葉に唖然とした。


 ******************************


「それにしても,さっきの女子達の言っていたことってどういうことだ?」


 何とか生徒会室まで逃げ込めて少し落ち着いたのか,リュウが先ほどの教室で女子達が言ってたことに疑問をぶつけた。


 まあ,未だに外には女子達がいるが……。


「俺にも分からないな。今朝そんなことはまったく聞いてなかったから。」

「……あなた達!!生徒会室前で何しているの!!」

「やばい!?緋凰先輩だ!!」

「キャー!!御姉様達よ!!天野会長も一緒だわ!!」


 外から騒がしい声と一緒に聞き慣れた声が聞こえて来た。


 どうやら,会長達が来たみたいだな。


 しばらくすると,徐々に女子達の声が遠のいていく声も聞こえて来た。


「……千堂君,ご苦労様。あと,風間君。もう大丈夫だよ。入ってもいいかい?」

「フレディ,会長達と一緒に入ってきてくれ。」


 俺がそう言うと女子達の対応をしていたフレディが会長達と一緒に入って来た。


 そこには渚沙さんや静ねぇだけでなく今朝俺に説明してくれた松本さんと真っ青な顔をしていた中年のおじさんが一緒に居たのだ。


「会長,その人は?」

「今朝松本さんから聞いた彼女の部署の課長さんだよ。君とお話をしたいからってわざわざ車で飛んできたらしいよ。」


 真っ青な顔をしていた中年のおじさんは俺の顔を見るとますます青ざめた顔をして隣の松本さんの頭を持つと必死に頭を下げてたのだ。


 俺,この人に何かしたんだろうか……?



 ******************************



 次回:謝罪と誠意と期限 お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る