第8話 最後の幼馴染は頑張り屋!

「いつ戻ったんだ,奈都姫なつき?」

「ついさっきよ。憂鬱な顔だけど誰かにまた何か言われたの?」


 顔を近付けて俺の顔を間近で見る彼女を見て苦笑してしまった。


 相変わらずというか奈都姫なつきは俺の事になると過保護……いや,心配性になるな。


 あの事件が原因なのは分かるがここは教室なのだ――もう少し自重してほしい。


奈都姫なつきさんや,シンが困っておいでだぞ?そんなに顔を近付けたらキスする勢いにしか見えないんだが……何?そのまま押し倒しちゃう?」

「!?何言っているのよ,昴流すばる!!そんなことするわけないでしょう!!信じられない,馬鹿昴流すばる,ド変態!!」

「馬鹿は余計だ,暴力女!!俺はお前意外の女子には優しいただのド変態だ!!」

「女の敵でしょう!!今すぐにでも渚沙なぎささんに連絡して連行するわよ!?」


 ぐぬぬ……と俺の前で二人は睨み合いを始めてしまった。


 やれやれ……本当にこの二人は会う度に喧嘩しているなぁ。


 まあ,お互いに本気で言っていないから大丈夫だと思うが……。


 そう思っていると奈都姫なつきと一緒にいたもう一人に肩をツンツンと突かれた。


天音あまねか。ぎんの所に行ってたのか?」

「そそ。ショタ成分が足りなくてなってねぇ。ぎんちゃんを無性に抱きしめたくなったからあっちのクラスに行ってたわけ。」

「別にぎんは構わないが小学生には絶対するなよ?俺はもう助けないぞ」

「大丈夫大丈夫……次はバレないようにするから」


 こいつ……まだ懲りてないのか……。


 寝屋川ねやがわに頼んで縄で吊るした方がいいんじゃないだろうか。


 むしろ,目の前で喧嘩している奈都姫なつきさんよ……そっちの変態もそうだが,こっちの変態も姉御の前に連れて行って説教させた方がいいと思うぞ。


 隣でケラケラと笑っているショートカットの美少女を見て見た目と中身が違いすぎるだろうと溜息を吐いた。


 彼女の名前は宮小路天音みやのこうじあまね――由緒正しき名家のお嬢様であり俺やの古い友人,幼馴染に近い関係である。

 

 茶髪のショートカットでサバサバした性格をしているがこれでも名家のお嬢様として堅苦しい大人達の前では分別は付けているらしい。


 そして,リュウ同様に学園女子生徒代表のド変態,ロリショタ大好きな犯罪予備軍でありぎんや俺の義妹,真白ましろちゃんがいつも彼女の生贄になっていた。


「――にしても聞いたわよ。婚約者を3人も見付けないと駄目なんでしょう?」

「もう耳に入ってたのか」

「そりゃあ,あれだけ大々的に言い振らしていたらねぇ。一人は奈都姫なつきにするの?」

「……何故そうなる?」

「いい加減,認めちゃえばいいのに。……まだ,好き何でしょう?」


 目の前で未だにリュウと口喧嘩している女の子を見て言われてしまった。


 東条奈都姫とうじょうなつき――俺の幼馴染の一人で正義感溢れる活発な女の子だ。


 髪の色は珍しい薄い赤色……というよりもピンク色をしており風紀委員会の次期委員長,現エースとまで言われている。


 性格は曲がったことが大っ嫌いでいつも変態発言をしているリュウと大喧嘩。


 そして,俺が小学生の時に


「昔の話だ。それに二度と俺は恋人を作らないと決めたからな。奈都姫なつき自身もあの時の事件で負い目があるのか多分そういう関係にはもうならないだろう」


 俺が恋人を作らない理由はあの事件以外にもう1つ理由があった。


 俺の実の母親が亡くなった事件――奈都姫なつきの家族はその事件に関わっていたのだ。


 いや,がというべきだろう。


 その事件が原因で俺は奈都姫なつきに恋人としていられないと言われてしまったのだ。


 自分が俺の隣にいる資格がないと……。


 それ以来,事件のこともあって俺は恋人は二度と作らないと決めたのだ。


「その割には奈都姫なつきってシンにいつもベタベタしてない?私から見ても十分にシンの彼女じゃないのって思うけど?」

「あれは過保護なだけだ。あの事件以降,俺を心配しているだけだろう。」

「ふ~ん……そういうことにしておいてあげる。ゆ~み~,ちょっといい~?」


 扉の前にいた寝屋川ねやがわを呼ぶと何やらコソコソと二人で内緒話を始め出した。


 お前等……また変なことを奈都姫なつきに吹き込むんじゃないぞ?


 1回それでとんでもない目にあったのことを俺は忘れてないんだからな。


 コソコソと内緒話をしている二人を見て溜息を吐くと3限目の鐘がなりクラスメイト達が教室に戻って来た。


奈都姫なつき,それにリュウもその辺にしておけ。教室で悪目立ちしてるぞ?特に奈都姫なつきは風紀委員だから悪目立ちするのは問題あるだろう?」

「そうだけど……って,何その顔は!?喧嘩売っているなら買うわよ!?」

「べっつに~。俺はいつもこんな顔ですよだ~」


 相変わらずの光景に苦笑したが憂鬱な気分であった今の自分に取っては二人の日常風景は有難かった。


「リュウもその辺にしておけ。あと,そろそろ喧嘩は止めて席に……」

「シンは黙っていて!今日こそはお灸をすえてやらないと!」

「やれるものならやってみろ,牛娘!!ベロベロべ~!」

「誰か牛娘ですって!?」


 親友よ……やっていることがもう小学生だぞ……。


 仕方がない――最終手段を使わせてもらおう。


奈都姫なつき,あんまり怒り過ぎると折角の可愛い顔が台無しだぞ?」

「か,可愛い!?」

「シン,この暴力女の何処が可愛いんだ?何処かで変な物でも拾い食い……」

「可愛くなくて悪かったわね!!!」

「へぶしっ!?」


 リュウの顔面に奈都姫なつきの回し蹴りが見事にクリーンヒットして泡を吹いてその場に倒れ込んでしまった。


 相変わらずのキレの良さだなと思いつつ生贄になったリュウに手を合わせた。


 ――すまん,リュウ……安らかに眠れ。


「気が済んだか?それから,今日はちゃんと

「!?当たり前でしょう!?もしかして,見たの!?」


 顔を真っ赤にして抗議しながら睨んだ目でこっちを見た。


「今は短パンを履いているから大丈夫だろう。それに,今更恥ずかしがることか?奈都姫なつきの下着など小学生の頃から見慣れているから特に問題ないだろう」

「真顔で言うことじゃないでしょう!!シンのエッチ!!」

「そんなこと言われても仕方ないだろう……」


 小学生の時から俺の前でリュウをいつも回し蹴りしているから蹴り倒す度に見るつもりはなくてもばっちりと見えてしまうのだ。


 流石に中学校に上がる前に忠告したからそれ以降は短パンかスパッツを履いてくれているので問題はないんだが……。


 ――たまに忘れている時はマジで焦ってしまったぞ。


「授業始めるぞ~。皆,席に着け~。」

「先生が来たみたいだな。奈都姫なつき,昼休みに例の件で話あるから頼むわ」

「……何か誤魔化された気もするけどわかったわ。こっちも色々と聞きたいことがあるからまたあとでね」


 奈都姫はそう言うと自分の席に戻って行った。


「何よ……またあの子だけ優遇されているの?マジあり得ないんだけど……」

「しーー,風間かざま君にも聞こえちゃうでしょう。でも,あの二人って幼馴染でしょう?付き合っていないって言ってるのって絶対嘘だよね~」


 席に戻ろうとする奈都姫なつきを一部の女子生徒達が小声で色々と呟いていた。


 ――君達,俺は耳がいいから丸聞こえだぞ……。


 しかし,相変わらず奈都姫なつきの評価は二通りに分かれているなと思いつつ俺は怒られない内に授業の用意をしたのだった。


流星りゅうせい~,何時までそこで寝ているんだ?もう授業は始まっているぞ」


 ――すまん,リュウ……お前の存在をすっかり忘れていたわ……。


 ******************************


 次回:ランチ・ザ・パニック お楽しみに!


 お読みいただき誠にありがとうございます!


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