第39話 シオンの道
それから数日。俺はとにかく身体を休めた。ほとんどの時間をこの部屋で過ごし、窓の外をぼーっと眺めていた。
あれだけ壮絶な経験をしたんだ。身体は無事でも、心の疲弊は拭えなかった。
たまにドアが鳴って食事を運んでくるか、シンジさんが現状の報告に来てくれた。
それとたまにシオンが来て特に何か喋る訳でもなく、一緒にぼーっと窓の外を眺めていた。
この日もシオンが部屋に来ており、一緒に窓の外を眺めていた。
「見つかった人数聞いた?」
「うん。」
「100人超えたらしいよ。殺された子ども達。」
「そうらしいね。」
「今みんなでお墓作ってるんだ。あと慰霊碑。」
シオンは淡々と言った。
改めてその数字を聞くと、この教団の恐ろしさが分かる。
それとシオンは、シンジさんにテレビというやつを見せてもらったという。
それは薄い板みたいなやつで、映像の中で色んな人が出ていて色々喋っているらしい。その中でもやっぱり俺の話題で持ちきりらしい。
「そうだ。ライラ髪留めどうしたの?」
ハッとした表情でシオンが言った。
「あぁ…。」
俺はそう言って自分の髪を触る。
ハナがくれた髪留め。金色のビーズ。
今座っている、まさにこの場所で渡してくれたプレゼント。
「俺、多分一回死んでるんだよね。」
唐突過ぎる告白にシオンは驚きの声をあげる。
「あ、言ってなかったか。」
「聞いてないよ!何それ!?」
バシバシの俺の肩を叩く。
「悪かったって。他の事があまりにもヤバすぎて言うの忘れてたわ。」
「自分が死んだ事、忘れるやつがどこにいるっていうのさ!」
「いや、ここ。」
俺はあっけらかんとした表情で自分の事を指差して言った。
「いや!もうなんなの!で、一回死んでどうなったの!?」
ぷんぷんと怒り気味に言葉を続けた。
「俺、多分死んだのは電気椅子だったと思うんだよね。その後あの施設の外に運ばれて、外にも祭壇があったんだけど、そこで雷が落ちて、俺に当たったらしいのさ。その時ビーズが弾けたの…かも…。」
「じゃあ拾いに行かないと!」
シオンは慌てて立ち上がる。
「あー…それ多分無理だ。」
「なんでよ!?」
「祭壇丸ごと吹き飛ばしたら、あの大穴できちゃった。」
ポカンとした顔を浮かべて
「無理じゃーん。」
とシオンは目をまんまるにして言った。
あの時は完全に頭に血が昇っていたとしか言いようがない。なんだか神として情けなく思ってしまう。自らを律することもできないのかと。
「あれ本当に嬉しかったんだけどな…。」
俺が少し寂しげに言うと
「だろうね。ライラの好みに合わせて、お姉ちゃんが必死に作ったやつだからね。」
シオンは思い出すように言った。
ハナの髪の毛と同じ金色のビーズ。多面体のそれはあの日の暗い部屋の中でもキラキラと輝いて見えた。
それに初恋の人からのプレゼントだ。大切じゃないわけがない。というか俺の宝物だった。
「今度さ。私作るよ。」
「え?」
「私、あれ覚えてるからさ。作り直して、ライラにあげる。」
足をベッドサイドでパタパタと揺らしながら言うシオン。
「マジで?」
「うん。マジ。」
「だってさ、ライラが神様になって、ああしてくれなかったら、多分2年後の私も殺されてただろうしね。それとお姉ちゃん達との約束を守ってくれたお礼かな。」
こうしてシオンの顔をちゃんと見たのは何時ぶりだろうか。
村に戻ってきてから、俺だけ生き残ってしまった申し訳なさと、大人達をたくさん殺したその罪の意識から、ちゃんと見きれていなかったと思う。
この横顔。まだ幼さが残るけど、やっぱりハナにそっくりだ。
「それとさ、ライラ。私決めたよ。私、新しい施設には行かないでライラについて行く。」
「え?」
変な声が出た。
「ちょっと待って。何でそうなるの???」
全く合点がいかないシオンのその宣言に俺は疑問の声をあげる。
それに対してシオンは少しだけため息をついて答えた。
「正直さ。今回私何もできなかったじゃん?お姉ちゃんとかライラばっかり辛い目にあってさ、何もできなかった。」
「この前シンジさんと話した時、使徒がどうとか言ってたよね?もし私がどうにかしてライラの使徒になれたら、もうライラ一人で大変な事を抱え込まなくて済むじゃん。」
「私、これからのライラの力になりたいんだ。もう何もできない人ではいたくないの。」
なるほどと妙に納得してしまった。
「分かった。でもさ、シオン。辛い思いをしたのはシオンも一緒だよ。だからそれを忘れないでね。ひどい事をされた俺達だけが辛いんじゃない。みんな一緒だ。」
あまりに壮絶な事が起きすぎて、シオンも正しく判断ができていないのだろう。そもそも自分が被害者の一人であることを認識できなくなるぐらい。
こうして俺とシオン二人揃って、麒麟の下へ出向く事を決意した。
超絶拷問の末に最強の神の力に目覚めたので、神っぽく生きてみようと思います。 森咲きいろ @morisak_kiro
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