第7話「求不得苦」

第七話「求不得苦」


「ここが、アエガス村か。なんとも、のどかやのう」

 工房での件からさらに二日後。馬車や牛車を乗り継ぎ武蔵一行はアエガス村へとたどり着いていた。

「そうだろ?ここは、海が近いからな。漁業が盛んなんだ。」

 カガネが、村から一望できる海岸線を眺めて、そう言った。旅の道中、工房を仕切っていた老人の名が、カガネであると教えてもらった。

「そうなんですね。私、海見たのって初めてです」

「なんと!るぅな殿は見たことがなかったのか!!」

 ルーナの言葉に、武蔵は目を見開いて驚愕する。

「はい。私は、アイン村から出たこともありませんでしたから」

「そうであったか」

「さて、これからどうするか説明する。文献によればカタナはここの村長一族が代々受け継いでいるらしい。だから、まずは村長宅へ向かう」

 カガネが会話の脱線を、そうだとは気づかれぬよう柔らかく制止した。

『出発しんこ~!』

 一行は、村長宅へ向かった。



 村長邸は、一般的に見られる絢爛豪華な邸宅とは程遠い、非常に質素で質実剛健なものだった。

「ここだ。」

「うむ。なかなかの立派な屋敷じゃ。」

 武蔵が腕組みをして、屋敷を評する。


「ごらぁ誰じゃ。そこにおるのは!」


 突如、背後から声がした。見ると、杖をついた老人が一人、若干、震えながら立っていた。老人は高圧的な表情で、一行を睨み付ける。

「何奴じゃ!!貴様らは!!おんどらあ」

「拙者ら、冒険者をしておっての、刀を……」

 武蔵が言い終わる前に、老人が叫ぶように言う。

「ああん?!冒険者じゃとぉ?!おれの村の魔物でも退治して、おれから金取ろうって魂胆じゃな?!お前らにやる金など一銭もないわ!おとといきやがれ!!」

「むぅ、拙者たちは、銭とる気などない。ただ、刀が欲しいのじゃ」

 武蔵は老人に諭すように言った。

「え、は……カタナ?……カタナ?何を言っとるんじゃこいつは。そんなもんもっとダメじゃ。ダメに決まっとろうが。おれたち『ホウジョー』一族が代々受け継いで来た家宝を渡せるものか!」

「むぅ、ダメで元々言ってみたが、やはりそうであるよなあ。」

「当然じゃ!」

「では、どうにかして頂戴する方法はないかのう。」

「ない」

「う~む……」

 緊張した空気が流れる。しばらくの沈黙を、カガネが切り裂いた。

「では、せめて見せてもらうことはできないか?」

「……まあ、良いじゃろう。見物料はいただくがのぅ。ほれ、入れぃ」

そして、武蔵達はホウジョーの案内の下、屋敷の中へと入っていった。


・・・つづく・・・

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