第11話「8歳女児」

第十一話「8歳女児」


「それでは、行って参る。」

 武蔵とカガネが、ルーナに声をかける。

「はい、気を付けてくださいね。」

 そう言ってルーナは二人に手を振った。

「それでは。……ルーナさん、本当に一緒に来る気はないのか?もしかすると、カタナ界の、いや、鍛冶師界の歴史が動く瞬間に立ち会えるかもしれんのだぞ?!?!」

 カガネがやや興奮気味に、ルーナに聞く

「お気持ちはありがたいですけど、ホウジョーさんに本のことを聞きに行くだけですし、遠慮させていただきます……」

「そうか……」

「それに、カガネさんがお仕事を休む分、今日は私がアルバイトしなきゃいけませんから」

「かたじけない。よろしく頼んだぞルーナ殿。」

「任せてくださいっ」

「では。」

 バタンッ!

「カタナって、そんなにいいものなのかなぁ」

 ルーナの呟きは誰にも聞かれずに、じんわり部屋に溶けいった。



「ええと、薬草薬草っと。」

 昼下がり。ルーナは宿から数キロ離れた森で、依頼のあった薬草取りの仕事をこなしていた。


 ところで、読者諸賢は一体こやつらがどこで仕事を見つけてきているのか、疑問をお持ちではないだろうか。

 余談ではあるが、彼女たちは村中央の掲示板で仕事を見つけてきているらしい。

 今回の仕事はその仕事柄、薬草の知識を必要としており、掲示板の中でも特に給与の良いものだった。

 教養があり、薬草の知識に精通しているルーナだからこそ勤まる仕事であるのは言うまでもない。

 しかし、今回の報酬額の高さには、もう一つの理由があった。


 この森……「呪嚥森(じゅえんのもり)」には、死者の亡霊が出るのだ…


「やくそーやくそーっと。ふー、だいぶたまってきました……」

 薄気味悪いほどの静寂。

「なんかこの森、昼にしては暗いなあ。薄暗い森……あー、嫌なことを思い出しちゃう!早く薬草取って帰りましょう」

 ルーナの独り言でさえ、この森では響かない。

 そんな静寂の中……




 うっ、うっ、うう、うっ、ひっ、ひっ、



 声。

 泣き声。

 人がすすり泣く声。



 どこからか、そんな音がした。



「何……?」


 ルーナは背筋がピンと伸びていくのを感じた。


 うっ、ひっひっひっ、う、うあ、あ


「女の子の、泣き声……?」

 認めたくはなかったが、次第に大きくなる音は、そう形容する他なかった。ルーナの体がビク!っと震えた。


「……」


 ルーナは咄嗟に息を殺す。というよりも、恐怖で呼吸の仕方を忘れていた。

 凍りついたような森の中、自分の心臓の音がうるさかった。






「あの、」


「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 背後から聞こえた声に、それまで堪えていたものが決壊する。


「慈愛の女神!癒しの神よッ!かの弱きものに生命の奇跡を与えたたまへッ!!『ヒール』!!!『ヒール』!!『ヒール』!」

 ルーナは必死にヒールを唱える。

 アンデッドの亡霊には、回復魔法がよく効くのだ。

「ヒール!ヒール!ヒール!うわぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!!」


「うわぁぁぁああああ!!ビックリしたあぁ!!ちよと!!いきなり何するんですか?!」


「……あれ、消えてない?亡霊消えてない?!」


「むっ、失礼なことおっしゃいますね~、亡霊じゃないですよ!」


「え……?」


 よくよく聞けば、確かに、可愛らしい女の子の声に違いない。

 ここでようやく、ルーナは自分が目を瞑っていることに気がついた。

 恐る恐る目を開けて、声の方を見る。


「ほら、亡霊じゃないですよ?」


「あ、ホントだ。」


 そこには、赤の花模様の服を着た女の子が立っていた。

 ワフク、だろうか?武蔵が来ていたものと、何となく雰囲気が似ている。


「……あっ!ごめん、亡霊かと思っちゃった!」

「うーん、まあ、こんな薄暗い森にいちゃ、そう思うのも無理ないですね~」

 女の子はニッコリ笑う。

「って、そうだよ!どうしてこんなところにいるの?一人?」

「肝試し中なんですよ、友達の皆さんとで。一人です。」

「そっか。でも危ないから子供だけでこんなところ来ちゃダメだよ?早くお家へ帰ろ?」

「うーん、そうしたいのも山々なんですが……」

「え?」

「うーん、道に迷っちゃて……。」

 女の子は恥ずかしそうにして、目を反らした。

「か、かわいい……」

 危険な森に肝試し。本来、色々怒るべきなのだろうが、それらをすべて差し置き、かわいい!という感情が一着でルーナにたどり着いた。

 8歳くらいの女の子がもじもじしているのだ。僧侶であるルーナの母性が刺激されないはずがない。

「そうなんだ~お名前、なんていうかな~??」

 無論、ルーナは甘々になる。

「メイちゃんです。」

「そっかあ、かわいいねぇ、お姉さんと一緒にお家かえろっか!」

「……そのしゃべりかた止めてください!!なんかバカにされてるように感じます!」

「お姉さんはね、ルーナっていうんだよ?」

「る、ルーナさん!」

「そうだよ?偉いねーーお名前覚えられたね~」

 ルーナはメイの頭をぽんぽんする。

「ちょ!ルーナさん!やめてください~!!」

 メイはなんとかルーナから離れようとするが、無駄であった。

「かわいーねえ」



「その、助けていただいてありがとうございました。」

 メイが頭を下げる。

 その所作は、やはり武蔵のようであった。

「いいんだよー?お姉さんについてきてね?」

「分かってます!助けていただいたのは感謝してますけど、そのしゃべり方は止めてください!」

「でも、さっきまで泣いてたしねぇ、お姉さん心配でねぇ。」

「え!?メイちゃん、泣いてましたか?」

「うんうん、泣いてたよ~?うわーんうわーんって」

「う~ん、メイちゃんは泣いてない……のですけど。」

「そうだね~メイちゃん泣いてないねー偉いねぇ」

「いや、ホントですよ~?!」

 ルーナが笑う。

 先ほどは凍りついたようだった森も、楽しく感じられた。




 う、う、ひっひっひっひっ、う、あ、うあ




 先ほどの声。



 う、あ、う


 再び、森に静寂が訪れる。


「え……今のってメイちゃん?」

「違いますよ?」

 二人はお互いを見合った。

「もしかして、ルーナさんが聞いたのって……」

「この声だよ……」


 キャアアアアアアアア


 二人が叫ぶより先に、ぬめっとした悲鳴が木霊する!

 息つく暇もなく、二人の体が冷気に包まれた。

 そして、眼前に亡霊!

 顔が爛れ、頬から奥歯が丸出しだ!!


『うわあああああああ!!』


 二人は全速力で逃げ出した。


「ヒール!ヒール!ヒール!!」

「ほら!メイちゃんじゃなかったですよね??ルーナさん!」

「そんなこと言ってる場合??」

「うーん、場合じゃないですね!」

「ヒール!!ヒール!ヒール!!逃げるよ!!」

「分かってます!てかもう逃げてます!」

「ヒール!ヒール!」


 ヒールにより、ジュッ、という音と共に、亡霊が蒸発したとはつゆ知らず。二人はくたくたになるまで走った。



 森の出口。

 村のはしっこのあたり。


「あ、おーい!メイが帰ってきたぞ~!」

 メイと同じくらいの年の子が、こちらに手をふった。

「次、俺の番か~こえー」

 その中の男の子が呟く。

 おそらく、肝試しに来ていたというメイの友達たちだろう。

「てか、なんか女いる!」

「あれ、旅人の女じゃねー?」



久しぶりにイラストです!AI生成ですみません!

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16818093090508713954


・・・つづく・・・

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