第10話「鬼は外?!」

第十話「鬼は外?!」


「調べたいこと、ですか?」

「うむ、まだ分からぬが、近くに同郷のものがおるらしい。」




 それから、数週間が経った。

 工房の弟子である、カズメ、イブキ、ヒグレは、カガネに工房の留守を頼まれ、渋々辺境都市へと帰り、村には武蔵、ルーナ、カガネが残った。


 三人はアルバイトで日銭を稼ぎながら、その片手間に、アエガス村や、刀、日本人について調べていた。


 その結果、分かったことが、三つある。


 ・村は近頃の魔物の活性化の影響で、貿易が停滞。低賃金にしびれを切らした村人の流出量が止まらない。

 ・「カタナ」は、村の重要な観光資源らしく、宿や、飲食店として多くの雇用を生んでいる。ホウジョーも、カタナのツアーで生計を立てている。

 ・この村には、日本人について知っている人はいない。



「今日も、借りて参ったぞ。」

 ドサッ、鈍い音と共に、ほこりが舞う。

 武蔵が持ってきたのは、古い書物であった。それも、山のような。

 武蔵は、三日の交渉を経て、ホウジョーを説得し、ホウジョー家の倉にある書物を持ち出す許可を得ていたのだった。


「う、今日もこれ読むんですか~~~?」

「かたじけない」


 貸出の許可を得た武蔵であったが、倉に入り、己の失敗を知った。

 本の文字が全く読めないのである。

 どうやら、数百年前に使われていた「旧代文字」で書かれているらしく、翻訳は文字の読めるルーナに頼っているのだった。


「う~ん……」

 武蔵に言われやむを得ず、ルーナは今日もページをめくり始めた。



「え、これって……」

 数時間の沈黙を、ルーナのつぶやきが破る。

「如何した」

「ホウジョーさん、前に勇者が鬼を切ったって言ってましたよね?」

「うむ」

「この本によると、その鬼の生き残りがどこかの島に逃げおおせたらしくて。」

「島?」

「はい。ええと、……『ウォニガ島』?」


 ガチャ!


 ルーナが言うと同時に、扉を開く音がした。

「帰ったぞ。」

 カガネである。

「あっ、お疲れ様です」

「今日も仕事で大変だった。鍛冶屋というのは仕事には困らぬがいかんせん、肉体労働だからなあ。ほら、今日の宿代だ。」

「かたじけない。ところでカガネ殿、藪から棒ではなあるのじゃが、『うぉにが島』という名前に聞き覚えはあるか?」

「ウォニガ島……いや、聞いたことないな。」

「そうであるか。では、ホウジョー殿に聞きに行くしかないのぅ。」

 武蔵達の様子から何かを察したのか、カガネが顔を輝かせる。

「何か分かったのか?!カタナについて!」

「う~ん、まだなんとも言えないですが、見てください、これ」

 ルーナが本を差し出す。

「なるほど!!ウォニガ島!!」



 一方その頃。ウォニガ島にて。


「領主様のおな~り~。」

 島は、一面が荒々しい岩肌で覆われていて、地球というよりも、どこか異世界じみている。

 ドン

 ドン

 ドンッ!

 けたたましい太鼓の音が鳴るとほぼ同時に、突如、火柱が立った。荒んだ灰色の大地を、赤い光が照らす。その光景は、さながら地獄である。

「若様だ!!」「若様~!!」「ワッカ~~様!!」

 男衆の声が響く。

 炎の勢いが徐々に弱まり、その中心から、一人の鬼が現れた。その鬼がおもむろに手を上げると、声援は静まり、凪のようになった。

「皆聞けぃ!……いや、もはや鼓舞の必要はなかろう!我らが士気は鬼人のそれである!戦えぃ!そして死ぬるがいい!」

「ウォオオオオオオ!!!!!!!!!」


・・・つづく・・・

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