第9話「烏滸がましいとは思わんかね」
第九話「烏滸がましいとは思わんかね」
階段の終着点には、古ぼけた観音扉があった。ホウジョーがそれを開くと、鉄さびのようなにおいが武蔵達を出迎えた。辺りは薄暗く、無数の行燈から漏れ出る光が、一行を中へ誘う。
「ほれ、こっちじゃ」
「う、カタナ!早くカタナを見せてくれッ!う、お、」
騒ぐカガネたちを横目に、ホウジョーは光の先へと進んでいく。それに続いていくと、やがて広い空間に出た。
「一体、ここは?」
四方を石壁で囲まれた、箱のような部屋。その中央には、人の腰ほどの高さの石台があり、刀掛けが、無造作に置かれていた。当然、刀掛けには刀が一振り、掛けられている。
「カタナ~~!!!!」
「ここは、ホウジョー家に古くから存在しておる地下室でのぉ。なんでも、おれの五代前の時からあるらしい。」
「これが、カタナ……?」
ルーナの表情が弛緩した。ルーナはカタナを、煌びやかで美しいものと思っていたらしい。しかし、目の前にあるものは、無骨で、柄の拵えも質素なものであった。
「そうじゃ。刀じゃよ……。」
ホウジョーが、小さく呟いた。そこへ、武蔵が歩み寄る。
「ほう、元はなかなかの業物のようじゃが……。手入れが、されておらぬな。」
「そうじゃ」
ホウジョーは、刀に視線を向ける。
「おれの先代がこれまた無骨な男での。カタナを、まるでごみのように扱いおったわ。手入れなど、一度もしておらんかった。そんなんだったからよ、おれもカタナの手入れなんて分からずじまいじゃったんじゃ。」
「早く!ワシに見せてくれ!ワシならなんとかできるかもしれない!」
カガネがカタナに触れようとする。が、ホウジョーはそれを制止した。
「おさわりは禁止じゃ。」
「頼む!抜くだけだ!な、いいだろう!頼む!!先っぽだけでも!」
カガネの必死の訴えにも、ホウジョーは頷かなかった。
「ならん。どつきまわしたるぞ」
「あ”、あ”、あ、あ"'あ”、、」
カガネは崩れ落ちた。
「頼みます!お願いします!」
「頼むよぅ、お願いだよぅ」
「頼む!お願いだっ!」
「ダメじゃ」
続けて、カズメ、ヒグレ、イブキも崩れ落ちた。
「う、う、うぐ”う”う”、ひっひっ、う、ひっひっひっひっ、が、くっ、ひっ……」
「なんじゃこいつらは。まあいい。金はもらうからな。いつもツアーでしている話を聞かせたろう。」
ツアー……?
ルーナは疑問に思ったが、口に出しはしなかった。
「このカナタは、『鬼斬丸』と言います。我々、ホウジョー一族は、代々このカタナを受け継いできました。」
どうして敬語に……?
ルーナは疑問に思ったが、口に出しはしなかった。
「今から500年ほど前、ある勇者が、このカタナで鬼を斬ったと伝えられています。」
「そのため、このカタナには、『鬼斬丸』の名がついています。勇者と関係の深かった五代前、ホウジョー・ピロウは、勇者からカタナと名前を受け継ぎ、それを子孫に継承することを約束しました。そうして、『鬼斬丸』は今に至るまで受け継がれてきたのです。」
言い終えると、ホウジョーはセリフの書かれた紙をしまって、再び視線をカタナに向けた。
「と、いうわけじゃ。」
「なるほどのぅ……」
武蔵は、カタナをじっくりと観察したあと、横を振り向いて、ホウジョーを見た。
「刀を譲ってはもらえぬか。拙者であれば、手入れもできよう。」
「……」
ホウジョーの口元が、少し歪んだ。
しばしの沈黙が流れる。
「すまないが、やはりダメじゃ。」
「そうか……」
地下深くであるためか、凪のような沈黙が辺りを包んだ。
「では、今日は帰るとするかのう!」
武蔵の、暖色のように明るい言葉が沈黙を破る。
「い、いやだ~~カタナを!!ギブミー!ギブミーカタナ!」
「ちょっと……カガネさん!帰りますよ!!」
「うわああああああ」
「しょうがないですよ、師匠!」
「そうですよぉ、師匠ぉ」
「ほら帰るぞ!師匠ッ!」
「いやだああああああああああ」
「おぉ、帰るんか!なら、なるべく早くな!」
暴れるカガネを、工房の弟子たちが抑えながら、武蔵一行は地下を出た。
♦
武蔵一行は、村で一番安い宿を取り、今後について話し合っていた。
「今日は皆に見苦しい姿を見せてしまったな……」
カガネが俯きながら言った。
「そんなことないですよ!!」
「そうだよぉ、師匠ぉは悪くないですよぉ」
「ホントだぜ。なんなんだよあのジジイぃはよッ!!触らせるくらいいいじゃねえかよ!」
落ち込むカガネを、弟子が励ます。
「いや、人様のものをタダでもらおうというのだから、図々しいのはこちらだよ。」
「その通りじゃ。」
「しかし、どうしましょうか、カタナ。もうどうしようもないですよ……」
「まあ、いずれにせよ、拙者は、しばらくここに残るつもりじゃ。調べたいこともできたしのう」
・・・つづく・・・
(更新が遅れて申し訳ございません🙇♂️どしても、ネタが思いつかず執筆できませんでした。私の力不足です、次はこのようなことがないように気を付けてまいります。
それと、今回は頑張ってギャグ風の作品にしてみましたがどうでしょうか?もし、合わなければすみません。)
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