第4話「宴は踊る。されど短し」
第四話「宴は踊る。されど短し」
「拙者か?……拙者は宮本武蔵じゃ!!」
地面を蹴り上げ、武蔵はナイフを振り上げた。
刹那、洞窟が眩い光に包まれる。
「<洞窟照らせよゲヘナの炎、スナガファイア!!>」
ゴブリンの王から発せられた声と共に、ドガンッ!という爆発音が洞窟内にこだまする。
「……はは、フハハハハッ!我が魔術の前に散ったか!」
視界が煙に包まれる中、ゴブリンの王は高らかに笑い声をあげた。
「かの偉大なる御方から授かりし魔術の前に、倒れぬものなどおらぬ
のだ」
視界が徐々に鮮明になる中で、おぼろげに見える影。
王は絶句した。
立っているのだ。あの、男が。
「な、なぜだ……なぜ立っている!貴様!!」
「おうおう、これも、るぅな殿の言っていた魔法というやつかのぉ。」
武蔵は無傷であった。
「だからなぜ立っていられるのだ!」
「なぜ、とな。」
武蔵は顎に手を当てて考える素振りをした。
「拙者ぁ、炎など当てられんかったし、爆発も容易く避けれたぞ?」
「そ、そんなハズは……そんなはずは……」
ゴブリンの王は狼狽える。
「そんなに酔ってちゃぁ、狙いも定まらんじゃろうが。」
王は酩酊していた。
度数の強い酒を、樽で飲んだのだ。
武蔵が隠れ潜んでいたと言えども、酔わないはずがない。
「クッ、」
千鳥足になりながらも、ゴブリンの王は武蔵から距離を取り、再び杖を構える。
「<燃えろよ燃えろよ松明よ燃え焦げ集え…………>」
武蔵の四方を、炎の矢が囲む。
「くたばれ! <敵を穿て、ヴァンアロー!!!>」
火の矢が武蔵に襲い掛かる!
だが、動じぬ武蔵。
ただ間合いを待つ。ただ、待つ。
何もしない。ただ静かに待つ。
「弱い、弱いのう。火矢など戦で見飽きたわい。」
間合いに入った瞬間、武蔵は炎を薙ぎ払った。
「もういい加減、終いにしようぞ。煙で窒息しては堪らんからのぉ。」
「な、なんということだ……ちくせう」
ゴブリンの王は尻込みする。
「戦略的撤退あるのみか!<頭もお尻も隠してしまえよ洞窟砂かけ土埃、ストーム!!>」
それは正しく、忍者の使うけむり玉のようであった。王が呪文を唱えるのと同時に、辺りが煙幕で満たされる。
「む、けむり玉か!」
武蔵は王の後を追った。
♦
ゴブリンの王は暗い洞窟を、入口からかすかに見える光に向かって駆けながら、また、頭の中でも様々な考えを駆け巡らせた。
――――しくじった。しくじった。……こんなはずじゃなかったのだ。こんなはずじゃ。
――――そもそも、あいつに従ったのが間違いだったんだ。あんな奴と、関わらなければこんなことには……。このざまを見られたら確実に消されてしまう!
徐々に明かりが大きく見えてくる。
そして、王は絶望した。
光の正体とは、巨大な炎の壁であったのだ。
入り口をふさぐ猛火。
「驚いたかのぅ。余った酒で入り口を塞いだんじゃ。」
振り返ると、そこに武蔵がいた。
「な、なんだと。」
眼前に叩き出された死の恐怖に、むぅと王が唸る。
武蔵はナイフを抜いた。
「ほれ、杖を構えろ。」
「居合で勝負と行こうではないか。」
「ぐぬ、おのれ。」
ゴブリンの王は、杖を構え火の玉を作り出した。武蔵も居合の姿勢を取る。
「「・・・・」」
二人の間に緊張が走る。
「<スナガファイア!>」
先んじたのは、王であった。杖から炎の玉が武蔵に向かって飛んでいく。しかし、その炎は武蔵の居合切りによって真っ二つに切られてしまった。
「大将、打ち取ったり……じゃ。」
武蔵はゴブリンの首を斬った。
♦
「武蔵さん!洞窟内の掃討が終わりました!」
「うむ、ご苦労。」
武蔵とは別に、洞窟内を掃討していた部隊が洞窟の入り口へと集まった。
皆、ロバートとルーナが呼びかけに呼応した村人たちである。
「こっちは楽勝だったな。」
「まあそれも、ロードとオークゴブリンがいなかったおかげだな!」
「それで、しゃる殿は何処」
「あぁ……ほらそこに。」
村人が指さした先には、一人の少女の姿があった。
「しゃる殿であるか。」
「ええ……えっと?」
「拙者は宮本武蔵じゃ。」
「あなたが助けてくれたのよね。」
「うむ、拙者と、るぅな殿と、ろばぁと殿がな。」
「そう、ありがとう。」
そういうと、シャルは踵を返して洞窟の外へと歩き出した。
「……じゃあ、拙者たちも行くかのぅ。」
「…………本当に、ありがとう……!」
シャルは洞窟を出た後、そう小さく呟いた。
瞳の上を、今にも溢れ出しそうな涙が小さく震えていた。
「怖かった!怖かった…… 本当に、本当に……!!」
「だから、ありが、とう。」
「うむ。」
武蔵は、ただ静かに頷いた。
洞窟の奥から、ロバートも姿を見せた。
「ムサシさん、ホントォ、感謝してます!この御恩、どう返ぇせばよいやら……」
「そうであるか。では……」
「では?」
「はんべぇがぁを、奢ってもらおうかの」
♦
洞窟を焼き払い、村へと戻った一行は居酒屋へと向かった。
村とシャルをゴブリンから救った祝いの宴だという。
費用はすべてロバートが持った。
「それじゃあ、乾杯!!!」
「「乾杯!!」」
♦
「にしても、よく無事でいられたな、シャルちゃん。本当に良かったよ。」
「多分、私はゴブリンロードに献上される予定だったのよ。だから手は出されずに済んだわ。」
村人がシャルに声をかける。
「でも、本当に怖かったわ。」
「亭主よ!はんべぇがぁを持って来るのじゃ!」
「なるほどなあ、まあ無事でよかったよ、本当。」
「ムサシさぁん、本当、感謝してるぜぇ」
遅れてやってきた、ロバートが武蔵の隣に座る。
「着物の恩を返しただけじゃ。辞儀には及ばぬよ。」
「そうかぁ?でも、ありがとうなぁ。」
「うむ。」
「そういえば、ルーナさんは来ねぇのかい?」
「む、そろそろ来るはずじゃ。……ほれ、噂をすれば。」
「お待たせしました。」
ルーナが遅れて到着した。
服が泥で汚れている。
「すみません、ゴブリンを追い払うのに手間取ってしまって。」
「なに、大事無い。」
「ルーナさんも、ホントォにありがとうなぁ」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。」
ルーナがロバートの隣に座る。
「では……乾杯!!」
「「かんぱ~い!!」」
宴は進み、村人と武蔵たちは大いに飲み、食い、騒いだ。
「ルーナさん、しかし、あのムサシって人は何者なんだい。あんな作戦、少なくとも普通の人間には思いつかない。」
村人の一人が、ルーナに話しかける。
「私もまだよくはわかりません。でも、いい人だと思います。」
「亭主よ!はんべぇがぁを持って来るのじゃ!」
「でも、ムサシさん、なんであんなに回りくどい作戦を取ったんでしょうか。」
「あぁ、確かに。一人でも正面から突破できそうだよな。」
「そりゃあ、シャルが人質になるのを防ぐためだろぉよ。」
会話を聞いていたロバートが口をはさんだ。
「どういうことでしょう?」
「洞窟の奥にシャルは監禁されてぇいたんだ。正面から突破しようとすりゃぁ人質に取られる可能がある。普通のゴブリンならぁまだしも、ロードとなれば頭も切れるからなあ。」
「亭主よ!はんべぇがぁを持って来るのじゃ!」
「それで、ムサシさんは、ロードと部下たちの連絡を遮断することぉ最優先にしたんだ。そしてその間に俺たち別動隊がゴブリンを掃討する。ロードとオークゴブリンさえいなけりゃぁ、子供だってゴブリンを殺せる。」
「なるほどな」
「やっぱり、ムサシさんは凄い人なんですね」
そういうとルーナは立ち上がり、どこかへと歩き出した。
「ルーナさん?」
「今日はいろいろありすぎて、少し疲れちゃいました。夜風にでも当たってきます。」
♦
ドアを抜けると、それまでの騒ぎが嘘のように、静かに感じられた。
月光に照らされた、夜の村。
柔らかな光を見ながら、ルーナはため息を漏らした。
「これからどうしようかな~~!」
静けさと、夜の匂いに絆されてか、後ろ向きな考えばかりが思い浮かぶ。
ルーナは俯いて、足元を見つめる。
するとそこに、一匹の猫がみゃぁと鳴いた。
「わぁ、可愛い猫ちゃん」
しゃがんで、その頭をなでる。
ブルーの瞳をした、美しい猫であった。
「かわいいぃ……!!
……それにしても、」
「赤い毛の猫ちゃんなんて、珍しいなぁ。」
ニャー!!
赤毛の猫はそうやってもう一度鳴くと、ルーナの前から走り去ってしまった。
「……私、頑張らなくっちゃね!落ち込んでだってしょうがないや!!」
ルーナは一度立ち上がり、猫のようにあくびをして、店の中へ戻っていった。
♦
とある森林の、とある遺跡にて。
「アカネコよ。ゴブリンロードの偵察、ご苦労であったな。……それで、どうだった?ロードの様子は。」
”アカネコ”と呼ばれた赤毛の猫は明るい声で答える。
「ゴブリンロードは、殺されちゃった。巣も壊滅状態。もう再生はできないだろうね。」
「ほう、興味深い……。奴には魔力を与え、武器までやったというのに、壊滅とはな。……誰がやったんだ? 人間か?」
「たしか~。ミヤモトムサシだったかなぁ。人間だよ。」
「人間か、そうか。
ミヤモトムサシ……。なるほど。よく伝えてくれた。感謝する。」
「……どーいたしまして。」
・・・つづく・・・
(読者の方々へお詫びを申し上げます。🙇♂️
この度、私が通っている学校の勉強の方が大変忙しくなり小説投稿の日数を延ばしてしまいました。深く謝罪を申し上げます。これからは、このようなことがないように精進してまいります。)
アンケートのご協力もできましたらお願いいたします。
↓
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