第5話「烈火の如く」

第五話「烈火の如く」


「はあ~。」

 眩い太陽の光が照らす朝。ルーナはため息をついた。

「どうしたんじゃ?ルーナ殿。」

 武蔵が聞く。

「ないッ!!」


「何がじゃ?」


「お金がッ!お金がないんですよッ!!」



「なんと。」

「宿代もあと数日分しか残ってません。」

「う~む、浮浪者になるしかないの。」

「ふざけてる場合じゃないですよッ!!」

「そう怒るでない、ルーナ殿。」


『おいうるせぇぞ!!』


 隣の部屋からの叱咤が飛んでくる。

「ご、ごめんなさいッ!!」

 ルーナは反射的に謝った。

「しかし、そろそろ金を稼がにゃならんの。」

「そう、ですね……。ギルドに行けば何か仕事があるかもしれません。元々、私たちはギルドへ向かっていたわけですし。」

「……む、そうであったな。では早速参るとしよう。」

「はい。」



 二人が村を発つという噂は瞬く間に広がり、村を出る頃には多くの村人たちが別れを惜しんでくれた。

「そうかァ。この村を出て行くのかァ、寂しくなるなァ。」

 ルーナが旅立つ事を聞いたロバートは涙をぬぐいながら話した。

「ルーナさん、村を出ていくのは寂しいがァ、またいつでも帰ってきてくだせぇな。ムサシさんも……、うまいバーガー奢ってやるよゥ」

 他の村人も口々に別れの言葉や激励の言葉を掛ける。

「別に、しばらくあたしん家にいてもいいのよ」

 シャルが言った。

「はい!ありがとうございます!でも、お世話になるわけにもいかないので。」

「しかしィ、ギルドに行くってなったら辺境都市まで行かなきゃならんだろォ?あっこまでどうやって行く気なんだ?まさか歩いてとは言わねぇだろうなぁ。」

「はい。」

 すると、ルーナは後ろを向いて『あれに乗っていきます。』と指差した。そこには、一台の馬車が止まっていた。

「ありゃぁ、うちん村へ物資を運んでくる馬車じゃァないか。」

「ええ。あの馬車、辺境都市まで向かうそうで、乗せてくれないかと頼んだところ、快く受け入れてくださったんです。」

「へぇ~。親切な馬車だなァ。その馬車は何時くらいに出発するんだい?」

 ロバートが聞くと、ルーナは笑顔で言った。

「今からです!」



 デコボコな道を通る馬車はガタガタと音を立てて揺れている。

「この馬、拙者の知っているものとは少し違う気がするのぅ。」

「そうなんですか?」

「うむ。拙者の知っている馬より大きい。」

「へえ~、馬車を引いてる馬は皆こんな感じだと思ってましたけど……。」

「おたくら、旅人かいな。」

 馬車を運転していた老人が話しかけてきた。

「ええ、そうです。」

「冒険者かい?」

「ぎるどへ登録をしに行くのじゃよ。」

「へぇ~、新人冒険者かい!しっかし、今から始めるとはおたくら時期が悪いねぇ~。」

「え?」

 ルーナ達は声をそろえて言う。老人は続けた。

「なんでも、ここいら最近、魔物の動きが異常なほどに活発化してきてね、ギルドは大騒ぎって噂よ。冒険者の上級の奴らは全員召集をかけられてるらしい。」

「そうなんですね。」

「ま、そこまで心配するこたぁ無ぇよ。むしろ冒険者デビューにはうってつけかもしれねぇなあ。まあ、精々頑張んな。大変だと思うけどよ。」

「ありがとうございます。」

 老人は、鞭を振るった。



「ここが、辺境都市……。」

 目の前に広がる、巨大な石造りの門。その間から、見たこともないような建物が覗いている。

「なんという、なんという……」

「都会、ですね。」

 門をくぐり中へと入る。すると、鎧を着た門番らしき人物が声をかけてきた。

「ちょっと待ってもらっていいかね?おふた方は、ここに何の用で?」

「冒険者登録をしに来ました。」

「ふむ……まあ、いいだろう。通っていいぞ。」

「ありがとうございます。」

 門番が手招きをしながら言った。

「ギルドはこの大通りをまっすぐ進んでいって、右に曲がるとあるぞ。」

「わかりました。助かります。」

 ルーナ達は言われた通りに真っ直ぐ進み、右に曲がった。すると、大通りに出た。その奥には、ギルドらしき建物が見える。

「あそこが、冒険者ギルド……」

「楽しみじゃのぅ!」



 二人がギルドの中に入ると、冒険者達の視線が一斉に集まった。ルーナ達はその視線に少し臆しながらもカウンターへ向かっていく。すると、そこに立っていた受付嬢が言った。

「いらっしゃいませ!ここは、辺境都市ペンナス支部です!お二人とも新規登録でよろしいでしょうか?」

「はい……あぁ、いや、まずは解散手続きをお願いします。」

「かしこまりました。それでは、パーティ名をお聞かせください。」

「『烈火』です。」

「『烈火』ですね。では少々お待ちください。」

 受付嬢は、引き出しから羊皮紙を出し、それに記入を始めた。

 ギルド内は、ルーナが『烈火』の名前を言った瞬間にざわついた。

「おい聞いたか、烈火が解散だと……全滅か。てか誰だ、あれ。」

「ありゃルーナだ。ゴブリン退治をするとか言って、臨時で烈火に入ってた。」

「なるほどな。にしてもまた、ゴブリン退治か……」

 ルーナは、俯向きながら、その話を聞いていた。

「お待たせしました。」受付嬢は羊皮紙をルーナに手渡した。

「はい。これで手続きは終了です。お疲れ様でした。」

「ああ、それと、新たにパーティを編成したいのですが。」

「かしこまりました。パーティ名は何になさいますか?」

ルーナは、少し考えたあと、言った。

「『烈火』でお願いします!」

「わかりました。それでは、改めてパーティの結成に参ります!」

 受付嬢は羊皮紙を持って奥へと入っていった。しばらくすると、一枚の紙を持って戻ってきた。

「お待たせしました。お手続きが終了しましたので、これが皆様のメンバーカードになります!大切に保管してくださいね!」

 ルーナはメンバーカードを受け取った。カードには『F』と書かれている。

「はい!それではお二人様の冒険者登録が終わりましたので、冒険者の仕事内容についてご説明させていただきます。」

 そう言うと、女性はカウンターの下から紙を取り出しこちらに見せた。そこには、大きな文字で『A、B、C、D、E、F』と刻まれおり下にはなにやら文章と星があった。

「まず、冒険者のランクについて説明させていただきます。冒険者はA、B、C、D、E、Fまでと5段階でランク分けされており、お二方はランクでいくと一番下のFからの開始とさせてていただきます。依頼を達成し、我々が能力が十分であると判断した場合、次ランクへ自動的に昇格いたします。依頼の達成条件は、その紙に書いてありますのでよくお読みください。それでは、頑張ってくださいね!」

「はい!ありがとうございました!」

「依頼は、あちらのボードに張り出されていますので、そちらからFランクのお好きな依頼を受けてください。それと、依頼を達成できなかった場合は違約金が発生しますのでご注意を。」

「うむ、分かった。」

「冒険者の説明に関しましては以上でございます。良き冒険者ライフをお送りくださいませ。」



「薬草の採取、脱走したうさぎの捕獲、家の掃除……。Fの依頼はこれだけ……。」

「少ないのぅ。」

 ムサシは、ボードを眺めながら言った。

「まあ、初めはこんなものですよ。さっさと依頼をこなしてお金を稼ぎましょう!」

 ルーナはそう言うと、一枚の紙を手に取った。

「これにしましょう。『脱走したうさぎの捕獲』、報酬1000ベル」

 二人は受付カウンターへと向かった。

「すみません。このクエストをお願いします!」

「はい!かしこまりました!それではお気をつけて行ってきてください!」

 二人はギルドを後にした。



 依頼は、郊外の牧場主からだった。

「この牧場のうさぎが最近、数羽脱走しまして……。捕まえてはいただけないでしょうか……。」

「分かりました。それで、うさぎはどのあたりに?」

「この牧場全域です。」



 数時間、逃げ回るうさぎを追いかけ回して、ようやく一仕事終えた二人はギルドへ戻っていた。

「やっと捕まえた……」

「うむ……で、報酬は?」

 ムサシが聞くと受付嬢は答えた。

「こちらが報酬の1000ベルです。」

「ありがとうございます……。」

 二人は疲労困憊の様子だった。

「ムサシさん、もう今日は宿に戻りましょう……。」

「そうじゃの。そうしよう。」

 二人は宿へと向かった。

 宿へ向かう途中、街を漂う匂いが武蔵の鼻孔を刺激した。

「これは……酒じゃ!酒の匂いじゃ!」

「お酒、ですか。」

「む、間違いない。」

 匂いに誘われ、酒場へと向う。

「おお!これは!」

 店内は煕々たる雰囲気が漂っていた。ムワッと濁った酒の匂い。木のテーブルと椅子。カウンターの向こうにはグラスが並び、樽にはぶどう酒が入っている。

「いらっしゃーい!!お二人さん!こちらへどうぞー!」

 酒場の店主は元気よく叫ぶ。

 武蔵たちはカウンター席へついた。

「ふう、これで一息つけるのぅ。」

「そうですねえ。早速何か頼みましょう。」

 武蔵は壁の、メニューが書かれた木札を見た。

「では……この、からあげ、というやつを頼もうかの!!」

「いいですね。私もそれにしましょう。」

「しかし、からあげ、とは一体。」

「鶏肉を上げたものです。美味しいですよ。」

「ほう」

「なんだか、楽しそうな雰囲気のお店ですね。」

「うむ、そうじゃな。」

 二人はしばらく店を見渡していた。すると、突然、扉が乱暴に開かれ、三人の男が店に入ってきた。それぞれ、身長2mはある大男、平均的な身長の男、子供のような大きさの小男である。

「おい!酒だ!!」

「かしこまりました!」

 店主が対応する。すると、入ってきた男たちがルーナ達に気がついたようだった。

「おいおいおい、俺たちの特等ォ席に先客がいンじゃねぇか。」

「オイ、リーダー、こいつら、殺すか?」

「ぶっ殺そうぜ!なあ!殺そう!!ぶち殺しちまおう!」

 順に、男、大男、小男が言った。続けて、小男が言う。

「リーダーァ!!こいつらぁ、ギルドで手続きしてたルーキーですよ!!!」

「ほう……」

 リーダーの男が武蔵たちを見た。

「おい、どけよぉ……先輩だぜ?おれたちゃよ。」

「ひ、ひぃいいい」

 ルーナがおびえている。

「なぜじゃ?」

「そういうルールなんだよぉ」

「なあ、そうなのかの、店主よ。」

 武蔵はカウンターの店主に聞いた。

「いえ、そのようなものは……」

「いいからぁどけってんだよ。グズが。おい、やっちまえ」

「アイヨ」

 大男が、2mはあろう金棒を振り上げた。

「ほう……」

 それを見た武蔵が、眼光を放つ。

「おらああぁぁぁ!」

 大男が金棒を振り下ろさんとしたその時であった!

「やめときな。」

 テーブル席に座っていた白髪の老人が制止する。

「そいつは強いぞ。あんたたちにゃ敵わん。」

「ああん!てめなめてんじゃねーぞ!ぶち殺すぞ!」

 小男が喚く。すると、リーダーの男が口に手を当て、攻撃をやめるように指示した。

「いや、やめとけ……あのじぃさんは冒険者だ。しかも、C。」

「ハァ?!ぶち殺そうぜ!なあ!」

「やめろ!!!チビが!」

「ッチ、……リーダーがそういうんなら」

「仕方ねぇなァ」

 三人組は店から出て行った。

 武蔵は席を立ち、老人のもとへ向かった。

「お主!助かった!かたじけない!」

 言うと、老人は微笑んだ。

「別に礼はいらないさ……。こんな、老いぼれでも少しはできるというところを周りの奴らに見せたくてやっただけだ。それより……」

 すると老人は武蔵をまじまじと見て言った。

「あんた、剣士かなんかかい?」

「ああ、拙者か。武士じゃが。」

「やはり、その筋肉の付き方を見れば分かる。しかし、剣を持っていないようだが?」

「失くしてしまったのじゃ。」

 老人は、にやりと笑う。

「ほうかほうか……。ではワシの武器を使ってみんか。」

「お主の、か?」

「わしゃ鍛冶を生業にしててな、失敗作の剣がいくつかあるんだが、使ってみんか。」

「うむ、それは助かるが、一体どうして。」

「ワシの剣も、使ってやった方が喜ぶだろうからな。」


・・・つづく・・・


(更新が遅れてしまい、誠に申し訳ございません。🙇‍♂️

私の家のインターネットが急遽壊れてしまい、修理するのに長引いてしまいました。

これからは、できるだけ毎日投稿をできるように心がけていきますので応援のほどよろしくお願いいたします。)

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