とてもよく練られた架空歴史もの
- ★★★ Excellent!!!
異世界転生の形式を取っているが、内容は市民革命前夜の近世へと移り変わる時代を生きた一人の人間の苦悩を描いており、架空歴史ものとして素晴らしい作品
魔法などの超常は存在せず、どこかで見たような特定の施策(農政、軍制の改革)が嵌まって強国に生まれ変わって周辺諸国に無双したりすることはない。
上手くいった施策も他方に副作用を生み、外交は永続せず、対外戦争で手軽で華々しい勝利を得ることもなく、ひたすら重責に苦しみながら生涯をかけて近代国家への内実の転換を図っていくお話。
崩壊し始めた岩壁のような中世封建国家の中で、とりたてて優れた才覚のない男が破滅的な崩落を防ぐためにどう振舞ったか。ついでに、お手軽にやっつけられるおバカな引き立て役も登場しません。ちょい役を含めて、人物はみな自分なりに考えて生きています。
特に、何か所か出てくる演説の際の文章がよいです。ときに上滑りし、ときに支離滅裂で、ときに真摯な台詞はなかなか味わいが深い。(名演説に胸を打たれた観衆に歓呼されたりすることはないです。どちらかというとこの人なに言ってんの?という反応)