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 GH11443のプロゲーミングチーム『Samaritan』のメンバーは、ここにいるいわゆるお偉方とは少し性質が違う。お偉方が偉い顔をしていられるのは彼らが競技者プレーヤーだからではなく、まとめ役マネージャーだからである。……クソッタレな話だが、ようは要領の良さの問題なのだ。金策ができて、競技者プレーヤー同士の調整ができる人間。メンタルが比較的安定していて、天候不順で頭痛を起こしたり寝込んだりしない奴。そういう奴が何だかんだ、どこでも評価される。例え目を見張るような成果を時おりどこかで、何かを思い出したかのように生み出せるような奴であっても、普段が昼行灯の無能力者だったら良い目を見るのは難しい。俺がここでまあまあ悪くない位置にいるのも、そうしたオタク特有の軟弱さから距離があるのが理由だ。今や自分の生みの親の顔なぞ覚えちゃいないが、こういう身体に生んでくれたことだけは感謝しなきゃいけないだろう。

 さて、そう。プロゲーミングチーム『Samaritan』の内実について、だ。

 彼らは競技者プレーヤーの側にいる。つまり、普段の日用使いにおいては無能力者の、昼行灯とか言われる側の人間たちだ。――こういう人間は称賛に飢えている。加えて、自分たちが不当な位置に置かれているという自負心がある。そうなれば話は簡単だ。上から目線で話をする必要なんかどこにもない。ただ一つ、彼の歪んだ自尊心をくすぐってさえやればいい。つまり、こうだ。

「諸君らは不当に差別されている」

「本来、能力に応じて受け取られるべき地位と報酬とが、諸君らには行き届いていない」

「しかし、今回の大会で良い位置につくことができれば、それを変革することが可能である」

 ここに幾つかの詐術がある。まず、彼らに対して向けられる視線――有形、無形を問わない汎ゆる差別――は恐らく、正当なものである。先述のように、彼らは能力にバラつきがある上に、自身のモチベーションを維持する能力もない。そうなれば、彼らを統括する人々の地位が上がることは必然ではあるのだが……無論、そのような話はしない。

 次に、能力に応じて地位と報酬が……と言う。しかし、我々は企業法人じゃあない。正当な評価、報酬、地位というのは確固たる組織の存在抜きには成立しない。バスケットの中はいつだってぐちゃぐちゃなんだどんぶり勘定は格差しか生まない。結局のところ、こうしたメンタリティは秩序だった組織が無から生み出されるという錯覚を抱くか、或いは想像力の欠如によって生じるものだが、これもまた俺は口に出さない。雄弁は銀なり、沈黙は金なり。Speech is silver, silence is golden.

 そして何よりも変革。一連の詐術はこの一言に尽きる。なにせ全く、根拠がない。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も似たようなことを言う。死後の楽園Heaven最後の審判!Judgement しかし、自分がくたばった後のことなど誰が知るものか。そういう意味では労働者の楽園も同じ響きを持つ。愛しの千年王国Millenniumは遠く遥かなる形而上メタフィジックの存在である。

 一連の文言で大半のメンバーは俺の手中に落ちた。しかし、たった一人だけ俺の作り上げた体制に難癖をつける奴がいた。

 それは、先の対戦でLazarus16スーパールーキーに敗北した男――Saulos06だった。

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2024年12月27日 11:00
2025年1月3日 11:00
2025年1月10日 11:00

アルトラ -崩壊世界連続体- 文乃綴 @AkitaModame

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