なんでシッテルの?

木沢 真流「漂流病棟」GANMA!で連載

大事なものが消えた

 あれは私が中学生だった頃の話です。

 中学生といえば、色々隠したいものもたくさんある年頃です。エッチなビデオや、本、その他、人に知られたくない趣味など隠したい物はたくさんありました。私はそれら全てを机の引き出しの中に隠してありました。なぜなら、その引き出しには鍵がついていたからです。

 そしてその引き出しの鍵は、絶対に誰の目にもつかない場所に隠しておいたのです。それは別の引き出しの奥深く、とあるおき物のさらに下で、通常であれば目につくことは絶対ない場所だったのです。


 しかし、残念なことに、あの頃の私はかなり物をなくすタイプだったのです。ノートやら、消しゴムやら、自分で置いたところをよく忘れてしまうことが多々ありました。


 ある日、事件が起きました。

 私が使っていた青いメモ帳がなくなったのです。先日までは持っていて、使っていた記憶もあるので、どこか近くにあるはずなのですが、それをどこに置いたのか忘れてしまったのです。そのメモ帳には大事なことが書いてあり、どうしても今日中にみつけなければならなかったのです。


 私が必死で自分の机周りを探していると、ふらっと母が部屋にやってきました。


「アンタ、何やってるの」


 私はメモ帳を探しながら答えました。


「青いメモ帳があったじゃん。あれ探してんだけど」


 すると母はさらっとこう答えました。


「あれなら、左の引き出しにあったでしょ。あのなんかのビデオの手前」


 それだけ言うと、母は去っていきました。

 そっか、そこにあったのか、そう思いながら私は背筋が凍る思いがしました。


——ちょっと待て、そこってまさか——


 そうです、その場所とは、私が絶対に知られてはいけないものたちが封印されている開かずの引き出しのことだったのです。

 確認してみるとやはりその引き出しは鍵がかかっていました。隠してあった場所も誰かが詮索した形跡はありません。

 その鍵で実際に開けてみると、母の言った通り、そこに青いメモ帳があったのです。

 しかもそのビデオというものは、友人からダビングさせてもらったエッチなビデオ(だいたいタイトルは無地)ではなく、しっかりと「ビッグな●●——」のようにしっかりとタイトルが書いてあるやつだったのです。

 しかも実はあんまり気に入ってなかったのですが、友達から押し付けされて処分に困っていたやつだったのです。


——なんで知ってんだよ。しかも絶対にタイトル見てるし——


 いや、それだけじゃない。これは俺の趣味じゃない、あいつから押し付けられたビデオなんだよ、って言いたくても今更言うわけにもいきません。




 誰にも目につかないような場所に隠してあった鍵でしかあけられない引き出しの中身を、なぜ母は知っていたのか。

 何らかの方法で鍵を入手したとして、なぜ明らかに意図的に隠してあった鍵を、母は探さなければならなかったのか。

 なぜ息子が人生をかけて隠した引き出しの中身を、母は確認しなければならなかったのか、これらの真実はいまだに聞けずじまいです。


 母はあの引き出しの中身を一体どんな表情で覗いていたのか、今考えても恐ろしい思い出です。

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