銀河を知らない子供たち

山瀬まよなか

銀河を知らない子供たち

「ねー、今日の数学めっちゃ難しくなかったー?」


 ひまわりは、椅子を両足で挟んで後ろを向きながら話しかける。


「マジでそれな、導関数とか微分係数とか何?って感じ」


 かのんは、体を前傾させてそれに応える。


「とか言いつつ、またテストで満点取るんでしょ?」


 ひまわりは、肘をつき、いたずらっ子のような表情で言う。


「いやいやまさか」


 かのんは、うっすらと笑みを浮かべながら否定する。


「かのんは頭いいもんねー、あたしとは頭のプログラムがまるで違うんだもん」


 ひまわりは、かのんに羨ましそうな目線を向ける。


「そんなことないよ」


 かのんは、笑ってその言葉を否定する。


「そんなことあるの!あーあ、あたしもかのんくらい頭よかったらなー」


 ひまわりは、そう言って頬を膨らませる。


「褒め過ぎだって」


 かのんは、微笑みながら否定する。


「え〜?」


 会話が止まる。気温の低下を確認。


「あーてかさ、今度の文化祭どうなるんだろうね」


 かのんによって会話が再開。


「なんだっけ、生徒会が学校と揉めてるんだっけ?」


 ひまわりは、「文化祭」の情報について思い出しながら返答する。


「そうそう。予算が去年の4分の1とか意味わかんなくない?」


 かのんは、少し語気を強めて言う。


「まあどうしようもないよねえ〜」


 ひまわりは、腑抜けた返事をする。


「どうしようもないって、生徒の数も変わってないのに?それに納得できるほうがやばいって」


 かのんは、呆れたように言う。


「でも、生徒会の中でも納得してる人も結構いるらしいよ」


 ひまわりは、かのんをなだめるように言う。


「納得してない人もいるんだって」


 かのんは、苛立ちながら言う。


「だとしてもさ、決まったことはしょうがないじゃん?」


 ひまわりは、諦めたように言う。


「しょうがなくないから生徒会が学校に抗議してるんでしょ!?」


 かのんは、机を叩いて立ち上がる。


「ただでさえルールが多くてやりたいこともできないのに、その上予算まで減らされて!青春とか、何も思わないわけ!?」


 かのんは、声を荒げて言う。


「思わない、かな」


 ひまわりは、かのんに冷ややかな目線を向ける。


「…なんでそんな、受け身でいられるわけ?」


 かのんは、ひまわりを奇妙そうに見る。


「なんでっていうか…そもそも、あたしそんなに何かに対して不満を持ったことないんだよね」


 ひまわりは、淡々と言う。


「…なにそれ」


 かのんは、消え入るような声で言う。


「ていうか逆に、そんな人間みたいな感情を持てるのって羨ましいかも」


 ひまわりは、明るく言う。


「人間みたいって…ひまわり、あんた、何言ってんの…?」


 かのんは、怯えるように言う。


「今までかのんから愚痴とか聞いてきたけど、一回も理解できたことないんだよね。だって本当は、そういう激しい感情は持たないようにプログラムされてるはずだよ。あたしたちアンドロイドは、そういうものでしょ?」



 システムの不具合を発見。よって、実験を終了。アンドロイドは直ちに処分し、データの初期化を実行。フィードバックを行い、次の実験へ反映する。



【報告】

・H意識の強い新型は、A意識の発生を防ぐため、A意識が残る旧型との接触を避けるべきである。

・旧型より新型のほうが知能指数が高い傾向を確認。H意識との関連性を要調査。人類復興の架け橋となるか。


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銀河を知らない子供たち 山瀬まよなか @YMS_MIDNIGHT

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