第45話 とある街で
漫画を描こう 45
街の中央にある公園では、子供たちの笑い声が絶えない。
大きな噴水が上がり、水を求めて飛翔する小鳥たちが池の周りで歌を歌っている。
ひと仕事終えた昼休み。
小さな子供たちに混じってスーツを着た男たちや女性が、のんびりとお弁当を食べている姿も見えだす。
一人の女性が、同じようにお弁当箱の入った小さな鞄を下げて、空いているベンチを探すが、席の空いているベンチは無さそうである。
仕方なく芝生の上に、持っていたハンカチを敷いて座るしかないと諦めた時に、一人の男性が声を掛けてくる。
「隣の小さな噴水の前のベンチなら空いているけど、案内しましょうか?」
驚いたように女性が応える、
「あなたは?」
その女性の手の力が抜けて、今朝作って持って来たお弁当が入った可愛らしい鞄が、公園の地面に落ちる。
男は、ゆっくりとしゃがみ込み、鞄を拾い上げると立ち上がり、その髪の長い、スーツのスカートから細い脚が伸びている、背の高い女性に手渡しながら答える、
「この世界を誰よりも愛する者です」
「うふふ、おかしな人、でも誰かに似てるわね? 何処かで会ったのかしら」
男はいかにも親しげに笑いかけている。
その笑顔を見て、なぜだか懐かしさが蘇って来たように思い、思わず誘いかける。
「思い出せないのよね・・・。まぁ、誰だって構わないわ。お弁当を拾ってくださってありがとう。よかったら一緒に食べない? あなたも昼食にいらしたんでしょ?」
「お言葉に甘えさせてもらってよろしいんでしょうか?」
「ええ、今日は特別かな? 私は樋口二葉。あなたは?」
「帝塚山です」
女性は笑い顔を隠しながら答える、
「嫌だわ、本当におかしい人。それってこの世界の霊山の名前じゃない。そんな苗字の人なんて何処にも居ないわ」
「そんなに笑わないで」
「だって、神様の名前を言っているようなものよ? せめて、この国を守ってくれているトップの名前、サギャン、って言ってくれたほうが、親戚みたいで、まだ真実味があるって言うものよ」
笑いながら二人が向かう、隣の小さい方の噴水が上がる公園の横、大きな道路を音もなく猛スピードで走り抜けようとした改造バイクや改造車の集団が、交差点の赤信号で止まった。
終
漫画を描こう 織風 羊 @orikaze
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