第44話 漫画を描こう
漫画を描こう 44
我らが帝塚山先生は、司馬良多郎大先生が言っていた原稿を見てみる。
ところが帝塚山先生、難しい顔をする。
「岩屋? なんだ? それ? そんな場面、何処にもないぞ」
そこへ風が外から流れてきて、白紙の原稿をパラパラと捲り上げていく。
おっと危ない、と捲れ上がる原稿を抑えるが、一枚だけ既に漫画の描かれている原稿が目に留まる。
「これは?」
間違いなく岩屋の中にある祠が描かれている。
しかも不思議なことに書いたつもりもないのに、間違いなく帝塚山先生の筆跡である。
「うん? 何か? 忘れていないか?」
帝塚山先生は、以前に書いて途中で止まっている原稿を探して、そして読んでみる。
そして、その原稿の中に。
「これは」
先生が呟く。
帝塚山先生の大好きな絶世の美人。髪が長く、ミニのスカートからすらりと細い足が伸びていて、背が高い。
「二葉?」
帝塚山先生は、確かに住んでいた2次元の世界を思い出し始めている。
すると原稿の中の四角い枠から声が聞こえる、
「助・け・て」
「二葉」
元来優しい帝塚山先生は助けに行こうとするが、向こうは2次元の世界、3次元からそこへは行ける訳などない。
今度は、岩屋を描いた原稿から声がする。
「願いを持つ者よ、魂の抜け殻よ、その願い道半ば、願いを叶えたくば魂をその手で取り返せ。世界を作りし者よ、生命とは、その現象とは、誰が作ったものでもなく、間違いなく自分自身が作り出したもの。人生の中で道を選び、それをおこなってきた自分自身が作った世界。その手で作ってきた世界を信じ、魂を求めて歩め。生きている証と責任を背負え。魂は、そこに存在する。自分自身で、自分自身の世界を作りし自分自身の支配者よ、戦いの世界を止めさせ、喜びの世界を作り上げよ」
「紙の中の神?」
そして紙の中の神の声が続く、
「帝塚山 治、この世界の全ての愛する者の再生を試みよ」
その言葉を残すと、紙の中に描かれていた岩屋がどんどんと薄くなって消えていく。
その瞬間に帝塚山先生は、全ての出来事を思い出した。
「何んてことだ、私は、こんな大切なことを忘れていたのか。二葉、龍之介、みんな、私は、私は君たちを再生させる、そして、喜びの世界でお前たちを生き返らせる。それが私の責任だ。私の生きて来た証だ」
帝塚山先生は、白紙の原稿の皺を伸ばし、一本の鉛筆を耳に挟み、右の利き腕に願いをかけるように、もう一本の鉛筆をしっかりと掴めば、大きな声で叫ぶ、
「漫画を描こう!」
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