07 ある日、森の中
お弁当は食べられなかったので、町で買ってアイテムボックスに入れておいたパンにチーズをはさんで歩きながら食べる。大きめのカップに果実水を入れておいたけど、ひっくり返っていなかった。アイテムボックス凄い。
陽が傾く前に森に着いて、森の側をしばらく歩くと、道は森の外の細い道と森の中の道とに分かれている。森の中に入って暫らく歩いたが警報は鳴らない。ここまで魔物とか魔獣とかに遭遇していないが、この世界にいるのだろうか。
道は木の根や草の間を折れ曲がり、登ったり下ったりして続いている。陽は疎らに遮られて、ちょっと肌寒いけれど、花の香りや木々の香りがして清々しい。
赤い日差しが落ちかけた頃、開けた場所に出た。野営の跡らしき窪みと焦げ跡を見つけて、此処でいいかと野営の準備を開始する。石を集めてかまどっぽいものを造り、燃えやすい小枝から詰めて火を起こそうとしたがマッチもライターもないし、私は火の起こし方を知らない。
そういや、レイラさんは生活魔法って言っていたな。
『点火』とかまどに向かって指さす。
ボンッと火がついた。すかさず拾ってきた木の枝を上にパラパラと乗せる。煙がモクモクと出て来てヤバいかと逃げ腰になったが、やがて炎が上がった。
(おお、つくもんなんだ、生活魔法って便利だ)
お鍋は買った。水を出すのは何ていうのかな。
『飲み水』
鍋を持って言うとボチャと水が鍋の中に落ちた。鍋に半分くらい水が入った。一回の魔法で結構出るんだなと感心する。
町で買った干し肉を入れて、野菜も洗って千切って入れた。
大きなカップに作ったスープを入れて食べてみる。食べられない事もない。パンを浸けてフォークで食べる。お腹が空いていたので結構食べられる。
しかし、この世界って魔物はいるのかしら。聖女がいるからいるんだろうなあ。
結界って張れるんかしら。
(エマはスキル『決め台詞』「ここは私のお立ち台~」を覚えました)
何なんだよこのスキル。もう何でも来いな感じだな。
「ここは私のお立ち台~」ついでに片手を上げて手をくるくる回しながらその場で回ってみた。雰囲気よね、誰もいないからできるんだわ。
この焚火の周りに、何となく見えない幕ができたような気がする。こんなんでいいのか。これってどのくらい強力なんだろう。
カップとお鍋を『清浄』ついでに私も『清浄』。ふふん、どんなもんだい。段々オバサン性格から乖離してゆく模様。何処に行くんかしらん。
もう歩き詰めでクタクタだ。寝間着に着替えたいけれど、もしあの男たちがまた来たら危ないから着の身着のままで、よし、寝よう。
横になったが森の中はまだ寒かった。毛布を二枚かける。殆んど独り言で寂しいが、寝たもん勝ちだ、きっと。
◇◇
んん、お味噌汁の匂いがする──??
あれ? 私、前の世界に戻った?
誰かいる。男の背中が見える。
「誰? 黒っぽい髪だし、やっぱり戻った?」
なんか身体ががっしりしているけど、こんな知り合いっていたかしら。
「ヤバイ! 昨日の追い剥ぎ!?」
私はガバリと飛び起きた。
「お、起きたか」
男が呑気に振り返る。
誰? こいつ。
振り向いた男は彫りの深い外人顔だった。日本人じゃないし、黒に近いブルネットを後ろで束ねたイケメンだ。ザンバラの前髪の間から覗く切れ長の瞳はよく見れば紫色。厚手のシャツに皮鎧っぽいものを着て皮のブーツを履いて、腰には剣を差しているが、昨日の追い剥ぎと違ってどれも高価そうな身なりである。
「危ねーぞ、あんた。こんな所でひとりで寝てちゃ」
横からオレンジがかった茶色の短髪のイケメンが出た。後ろが長くて前丈は短くボタンが沢山付いている軍服を着てサーベルを下げブーツを履いている。ガタイが良く瞳はアンバー。肩に担いだ得物をドサドサと下ろした。
「ぎゃあ!」
ウサギやら鳥やら鹿っぽい動物の死体だ。こんなもん人の目の前に出すなや。
「おい、少しは気を使え」
「でも、こんなところで寝てるんだぜ」
「結界がかけてあった。まあ、ゆるゆるだがな」
もひとりおまけでイケメン来た。銀髪にグレーの瞳か、この男が一番上役っぽい。襟と袖口に高そうな刺繍の入った、オレンジ茶髪の男と同じ黒い軍服を着ている。イケメンの大バーゲンセールだ。
顔に騙されてはいけない。しかしオバサンは面食いだ。見る分には目の保養ができて良いと考える。そこに落とし穴とかあったりしても。まあ警報が鳴らないから大丈夫だろう。きっと。
ブルネットの男が肉を捌きだした。手際よく部位別に切り分けて行く。オレンジ茶髪の男が香辛料をかけて焼き始めた。昨日私が作ったかまどは、上手い具合に作り替えられた立派な石かまどになっていて、火がバチバチと燃えている。鉄の三脚が置かれ大きな鍋がぶら下がって煮立っている。
ウサギと鳥はスープに、鹿は焼肉になった。ちなみにスープに味噌は入っていなかった。何かの香辛料を脳内で誤変換した模様。
朝起きたらイケメンが三人もいて、ご飯を作ってくれた。めちゃラッキー!
これでありがとうさようならって、そんな簡単な話ではないんだろうな。
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