02 軟禁状態です
誰かがドアを開いて入って来た物音で目が覚めた。部屋が明るくなっている。
「おはようございます」
入って来たのは茶色の髪、茶色の瞳で、制服のような紺の長いワンピースを着て白いシンプルなエプロンをしている。多分侍女か女官だろう。白人顔である。美人というよりは愛嬌のある顔で親しみが持てる。
「おはようございます」
返事を返すとにっこり笑ったので言葉は通じているようだ。彼女は三十そこそこに見える。私より若い。
「今日からお世話をさせていただきます、レイラと申します」
「あ、私は小柳江麻です。レイラさん」
「オヤナキ・エマ様ですか」
「姓がコヤナギで名前がエマです。エマとお呼びくださいレイラさん」
「エマ・オヤナキ様ですね」
どうせ平民だし名前だけでいいだろうか。そう考える私は、いらん所で忖度するオバサンである。
「では私もレイラと呼び捨てでお願いします」
レイラと名乗った女性はテキパキとボールと水差しを持って来た。
「エマ様、お顔をどうぞ」
洗面所がないしこれで顔を洗えってか。顔を洗うとリネンを差し出してくれる。
「お召し替えをどうぞ」
レイラはこちらの衣服、あまり装飾の無いワンピースとチュニック、それにシュミーズとドロワーズの下着を持って来た。「お手伝いいたします」と着ていたセーターやらジーンズを剥ぎ取られる。
「あの、下着は自分で洗いますので」
流石に恥ずかしい。しかしレイラはそれでしたらと呪文を唱えたのだ。
『清浄』
私の身体を掃除機のような風がブアーと走り抜けた。
「え、魔法?」
「今のは生活魔法でございます」そして私は身ぐるみ剥がされて、レイラの持って来た服を慌てて着た。
「こちらは回収させていただきます」とはっきりきっぱり言われて、私の服は回収されて行った。こちらに来て何度目かの溜め息を吐く。
こちらの季節はどうなっているのか、鉄格子のある窓の外は常緑樹が植わっていて季節感はあまりないけれどそんなに寒くない。前の世界からこちらに着くまでに時間がかかったのかなとぼんやり考えた。えらいとこに来てしまったという感想しかない。
髪がピンクでもいいから、みんなと温泉に行きたかった。いいオバサンだが泣きべそ掻きそう。みっともないけれど。これからどうなるのか、上の人の昨日の態度を思い出すと、あんまりいい待遇は期待できない。
レイラが食事を持って来たので、ここで飢え死にはないかと少し安心した。
「取り敢えずこちらの世界の基礎知識を得たい」とお願いすると「かしこまりました」と小学生が使うような教科書の類を持って来た。のたくった横文字だけれどやっぱり読める。どう考えても異世界のような気がする。
部屋の外には見張り番の兵士が槍を持って立っていて軟禁状態だ。武器を持った大男の兵士なんて怖いし、逃げてもどこに行っていいか分からないし、無理やり出て行く気はないけれど、役立たずだし処分されたりしないだろうか。
「私、ここから出れるの?」
不安になって私の世話をするレイラに聞いてみる。彼女は忙しそうで、朝晩二回の食事の時以外この部屋に来ない。
「はい、何事もなければ、三週間後にもう一度検査をして放免になるようです」
「そうなの? じゃあ元の世界に帰れるの?」
「こちらから帰られた方はいらっしゃいません」
「そう……」
私はがっくりと肩を落とした。おひとり様だったが一応ちゃんと衣食住の生活基盤はあった。今から、一からやり直しをするのはオバサンには辛いんじゃないか。
「こちらの世界には時々、違う世界から渡って来る者がいるのです。そういう時は教会で分かりますので大聖堂でお待ちします」
「ああ、それでたくさん人がいたのね」
「それは、渡って来る人は色々なのですが、女性だと聖女の場合があります。性別は事前に分かりますので教会では期待していたようです」
そうか、私は外れって事か。
「じゃあ、無罪放免になったら、他の国に行ってもいいの?」
何だかこの国にいたくないというか、この世界がどういう世界か知らないけど、要らないなら居てやるもんかという、一寸の虫にも五分の魂的な思いがあるのだ。
「はい、昔下手に引き止めて大変な目に遇った国がございまして、どの国も引き止めない事で一致しました。例外が聖女でございます。聖女には溢れる神気がございまして国が安定しますので、もれなく国に引き止められます」
「聖女ってよく来るの?」
「女性は聖女が二割くらいでしょうか。この国には暫らく来ておりませんので皆期待していたようでございます」
それで余計にがっかり感が半端なかったのか。
「放免の時に何か貰えるの?」
「はい、金一封と当面の住まいです」
「私の服も返してもらえるの?」
「衣服は渡り人の安全を考えて、こちらで用意したものとなります」
まあダウンとかジーンズを着ていたら身バレするだろうか。私は着の身着のままで来た。バッグは持っていなかった。金一封はありがたい。てか、金一封って何だ。自動翻訳面白いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます