03 無罪放免されるようです
それから三週間後、私は魔力検査を行う為に馬車で大聖堂に連れて行かれた。聖堂の横の通路を抜け階段を上がってすぐの小部屋で、司祭や魔術師が見守る中、台座に乗せられた水晶に手をかざす。水晶はこれっぽっちも変化しなかった。
「これは何もございませんな」
「これで決まりでしょう」
そういう訳で私は晴れて無事無罪放免となった。
レイラに挨拶とお礼もできないまま、聖堂から目隠しをされて馬車に乗せられた。二、三時間ぐらい走っただろうか、どこかに着いて馬車を下ろされた。両脇を抱えられて、建物の中に入り、階段で地下に下り、部屋に入ってヒュッと変な音がした。足元が無くなるような感じがしてエレベーターに乗ったような気分を味わう。そして足が地に着いた。
ドアを開けて階段を上がって外に出る。馬車に乗り、どこかの家の階段を上がった部屋に入って「十数えてから目隠しを外してください」と声をかけられた。部屋のドアがぱたんと閉まる音。
言われた通り律儀に十数えて目隠しを取る。人の気配のない、広い部屋にいた。誰もいない部屋を見回す。薄暗くて明かりも点いていない。
この世界にひとりぼっちだ。広くて全く馴染んでいない家具が余計にボッチ感を煽る。これからどうしよう。壁にかかった鏡の中に、前の世界で染めたヘアカラーのピンク色も少し褪せた、疲れた顔のオバサンがいた。
屋敷の階下で物音がするので降りて行った。男性と女性、人が二人いる。二人は私を見ると並んで頭を下げる。女性の方がエプロンのポケットから手紙を出した。
手紙を開くと彼ら召使いの名前が記されている。そして、この家に住まいできる期間が記されていた。何と一週間である。
一週間経てば、この屋敷を出て行かねばならないのか。ずっと面倒を見てくれるわけではないらしい。この異世界はオバサンに優しくない。
どうせなら召使いとか要らないから、小さな家と就職先が欲しかった。受け身で何も要望していないから仕方ないかもしれないけれど。
召使の名は男がサム、女がメアリと書いてあった。私と似た年齢と思える彼らは何も喋らない。耳は聞こえるらしく呼ぶと近付いて来たり振り向いたりする。大抵のことは彼らがやってくれるらしいが、彼らは口がきけなかった。何処までも用意周到である。
私は、この世界に来て何度目かの溜め息を吐いた。
私が置き去りにされた部屋には、金貨の袋が二つ置いてあった。これが手切れの金一封か。一袋に十枚入っているが、これでどのくらい生活できるのだろうか。
だが、それで終わりではなかったのだ。
◇◇
『おい、生きておるかの』
「え……、あ、はい……?」
何かに呼びかけられた気がして起きた。周りは白い靄で覆われている。人の気配はないようだが、老人っぽい合成音声が淡々と状況を説明する。
『お前はあちらの世界に間違って生まれたのじゃ。お前のように間違って他所の世界に産まれ落ちた者は、死んだ後、異界の芥を祓う為にロンダリングを行い、こちらの世界に来るのが既定路線である。しかし、何らかの邪魔が入ってロンダリングが上手くいかず、前の姿のまま来てしもうた』
ロンダリングって何だよ。翻訳機能面白いな。いや、その前に死んだって言わなかったか。やっぱり転んだ時死んだんだな。いや、もっとその前に間違って向こうで生まれたとか、大事な事をサラッと流されたような。
『どうもそのピンクの髪が邪魔をしたようじゃが、そろそろ効果も消えたようなので、異界の芥を洗い落としあるべき姿に戻してやろう』
「えっと、このまんまじゃないの?」
しかし、声は私の質問を無視して、自動音声みたいに勝手に既定路線の消化を宣言する。
『では、これからロンダリングを行う』
いきなりゴーと耳元で音がして、自分の身体が揉みくちゃになるような衝撃が押し寄せる。気分は洗濯機の中だろうか。
「わっ、止めてー! 許してーーー!」
喚いたけれど止めてくれない。あっちグルグルこっちグルグル、その後、落とされて捏ね回されて喚く余裕もなくグルグルされている内に、突然それは終わった。
『ロンダリング終了』
べたりと投げ出されてゼイゼイ息を吐いていると声が聞く。
『最後に望みのものはないか』
「んな事、いきなり言われても思いつかない!」
『ではこちらで適当に付けてやろう。さらばじゃ』
「ちょっとぉぉーーー!」
こちらの神って人の言うことを聞かないのか。もう嫌だと思いながら叫んだが白い靄があるばかりの場所に私の声が虚しく響くだけだった。
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