34 むさい男どもに可愛いリュックを贈る


 レギーナ様の話はまだ続く。

「あの時、ガリアは帝都まで攻め上る勢いでしたけれど、殿下が犠牲になられて──」

「お亡くなりになったのですか?」

「いいえ。ご無事でしたけれど、引き留める為に無謀な戦を引き受けられて、もう駄目かという所まで追い詰められたのですけれど、隣国の統領が引き上げ命令を出してお陰でご無事にお帰りになったのですわ」

「まあ、隣国で何があったのでしょう」

「どうも覇権争いがあったようです」

「あまり手柄を立てられると困るというか──」

 隣国の事情で助かったとか、何ともスッキリしない終わり方だわね。


「ええと、戦争に負けたらどうなるのでしょう。例えば帝都に攻めてきたとか」

「皇帝陛下はお逃げになりますので、皇帝陛下のいらっしゃるところが帝都になりますわ。すぐ隣に領邦国アヴァールがございますし」

「あ、そう……」

「戦争に負けたらすぐ降伏しますし、兵士たちも戦争中でも降伏しますし、割譲する領地と賠償金を決めて和約を締結して──」

「あ、そう……」

 皇帝って戦後処理係なのか。ノブレスオブリージュとか関係ない世界かしら。


「それでも沢山の方が怪我をなさるし、死んでいく人も多くて、この前の帝都での戦はどちらも大変な損害だったそうです」

「この前って……」

「そうですわね、四、五年ほど前ですか」

「しょっちゅう戦争をしているのかしら」

「そうですわね、多いといえばそうかも」

 保険会社があったら破産しそうだわね。そういや、約定に戦争とかでは支払わないってあったわね。上手く出来ているわね。



  ◇◇


 魔法陣と鳥さんのリボン。それにヴィリ様への手紙を書かなくては。

 魔法陣まで飛べるのかしら。部屋の中なら近くだしちょっと試してみようかな。羊皮紙を部屋の端に置いて、対角の端から『転移』と唱えた。


(転移ポイントを指定してください。ハルデンベルク侯爵家のエマの部屋、学校の図書館、保健室、密会の小道のベンチ、フェルデンツ公爵家地下牢、ガリア東部転移ゲート)


 転移ポイントがずらずらと出るが魔法陣はない。

「いや、この魔法陣に転移したいのだけど」

(『羊皮紙魔法陣』を転移ポイントに登録しますか)

 あ、転移ポイントに登録しなきゃあいけないのか。

「羊皮紙魔法陣を転移ポイントに登録」


(『羊皮紙魔法陣』を転移ポイントに登録しました)


 これで魔法陣まで飛べるようになった。私の場合、転移ゲートからのジャンプじゃないのでどうなるのだろう。魔力も減ってるのか減ってないのか自分では全然分からない。三十分くらいで部屋の転移ポイントに自動的に戻った。これって屋敷を抜け出して、こっそり戻ってくるのにいいわね。イケナイ子になりそう。


 魔法陣の羊皮紙も入れると結構かさばってしまう。リュックを作ろうかな。むさい男どもに可愛いリュック。むふふ。自分で言ってて受ける。



 ハイデとカチヤに相談して手伝ってもらう。

「リュックを作りたいの」

 他の侍女さんも寄ってきた。


「エマお嬢様はこの頃色々と活発におなりで」

「前が借りてきた猫みたいでしたし、このくらいで丁度よろしいのでは」

「いえ、わたくしも楽しくお手伝いしておりますけれど」

「グレーのお色で、背中に背負うんでございますか」


 裁縫の得意な方もいて「上を巾着にしてポケットを付けて」と説明して紐通しを付けると、ナップサックタイプのリュックができる。ポケットを鳥さんの顔にしてステッチで縫い付けて出来上がり。

 できあがったリュックをモデルよろしく背中に背負ってみる。

「まあ可愛いわ」

「これ猫とか犬とか、お花でもいいですね」

 侍女さんたちにも好評で布を持ち寄って幾つか出来上がった。



 取り敢えず荷物を入れるリュックができたので、お義母様に相談すると普通に兵士を呼んで頼むようだ。郵便馬車と別に速達便の騎馬郵便というのがあるそうで、途中で宿駅を使い、馬を代えて運ばれるので早く届くという。


「あのう、お義母様。私を森で拾ってここまで連れてきてくれた人たちはどういう方なのでしょう? よろしければお名前など教えていただければ」

「あら、今頃聞くの」

「はあ、この前久しぶりに皆様にお会いしましたが、ちゃんとしたお名前も知りませんでしたので」何と声をかけて良いか、あまり気安いのもいけないだろうし、結局向こうも忙しくてそれっきりになった。


「ルパートはループレヒト・フォン・オイレンブルク少佐、レオンがレオンハルト・フォン・リーネック少尉。二人共旦那様の部署にいるのよ」

 候爵夫人はあっさり名前を教えてくれる。二人とも貴族で軍人なのか。

「まあ、そうなのですか。もうひとりの方は?」

「あの方はルパートの知り合いで冒険者だそうなの。神気を感じる鳥を使っているそうで彼は外せないとか」

「そうなのですか」

 そういやキリルは鳥使いだと言っていたなあ。一番お世話になっているのはあの鳥さんなのだ。鳥さんの好物も送った方がいいよね。


「わたくしの夫は特殊部隊を預かっているの」

 お義母様がこそりと明かす。

 ハルデンベルク侯爵が! もしかして話に出て来た王家の暗部とかそういう者だろうか。養父の侯爵様は印象の薄い目立たない人だ。有り得る。私は瞳をキラキラさせてお義母様を見る。候爵夫人は重々しく頷いた、けれど。


「と言っても、大した事はしていないの。今回は渡り人放流の際の不備について調べていたの。エマちゃんのことは本当に申し訳ないと思っているのよ」

 そうなのか、私はこの世界に来た時はオバサンだったし、神気も魔力も何も持ってなかったしなあ。でも一般人だからと言って始末していい訳はないのだ。


「それでエマちゃんも元気になったようだし、今度王宮に行きましょうね」

 この世界は人使いが荒いのだった。



 鳥さんのオヤツは、みんなに聞くとビスケットがいいそう。卵と蜂蜜に小麦粉と、あとドライフルーツを刻んで混ぜて練って焼いた。とても美味しそうなのができたので、みんなで一口食べたのは内緒だ。


 荷物をリュックに纏めて入れて、手紙を書いてお義母様に預けるとリュックを手に取り「わたくしにも欲しいわ」と言われる。いや、素晴らしいドレスを着た貴婦人が手縫いのガタガタのリュックとか無いです。

 レース遣いのフリル沢山の巾着を作ろうかしら。それとも可愛い系のアップリケのがいいのかしら。


 ヴィリ様に手紙を書く。

『ヴィルヘルム様、お元気でいらっしゃいますか。鳥用餌、鳥用リボン、鳥用リュック、ヴィリ様用お守りを作ったので送ります』

 文才の無い私の手紙は中身の目録のようになった。中身は検閲されることがあると聞いたので魔法陣はお守り袋に入れて目立っちゃダメよと念押しした。

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