30 決戦公爵令嬢討伐戦


「ゾフィーアは気高い娘であった。近頃様子がおかしいから、オイレンブルク少佐に依頼しリーネック少尉を護衛として様子を見させたが、こんな事になっていようとは──」

 フェルデンツ公爵がやり場のない怒りをギロリとレオンに向ける。レオンってリーネック少尉なの? 横文字の長たらしい名前は覚えるのが大変なのに、おまけに軍隊の階級まで付いているなんて止めて欲しい。


「ゾフィーア様はすでにおかしくなっておられた。私は茶会などで出された飲食物、部屋の香水、香料などを採集して全てオレインブルク少佐に提出した」

 レオンが淡々と公爵に説明し、ルパートが後を答える。

「結果は黒でした。飲食物には幻覚や妄想それに魅了などの作用のある物質が混入されており、香料には興奮、催淫作用のある物質が含まれていました」


「ゾフィーア様は隣国ガリアの将と連絡を取っていた。オレインブルク少佐に報告した所、そのまま様子を探れと指示を受けました」

「後ろにガリアの大物がいるようなので、こちらに来る時を狙おうとした。しかし、奴の手下は抵抗の末死に、あいつは逃した」

 ルパートの言葉に「さっきの男はガリアに戻ったわ」と私。

「あいつはガリアの将軍モンローだ」と、ヴィリ様が投げつけるように言う。


『あの方は魔王になられるのじゃ。わらわはその妃になる。もうすぐ帝国も手に入るのじゃ、そうすればこの世界は我らのものじゃ。ほほほ、おーほほほー』

 エリーザベトの哄笑が公爵の立派な執務室に響く──、のを遮って聞いた。


「あの方って、さっきのアレが?」

 ド派手な魔王だなあと私は思った。

『無礼者、アレではない』

「アレじゃいけないの、じゃあ将軍って言えばいいの? えと、モンローだっけ、ド派手な──」

『ええい、違うと言っておろうが無礼者!』

 エリーザベトは怖い顔を更に怖くして私を睨みつけた。何が違うのか、その場の空気が微妙になったのは決して私の所為ではないと思うのだけど。



『わたくしはお前が嫌いじゃ』

 ゆっくりと手を挙げて私を指さすゾフィーア、いやエリーザベト。

『嫌なモノを纏っておる。それがゾフィーアに成り代わっているわたくしを暴くのだ。許せない、平民の分際で魔力も神気も持っているお前が。神から与えられる賜物はこんな役立たずの頭の悪い平民ではなく、高貴な淑女であるわたくしこそがその能力を賜るに相応しい』


 高貴な淑女じゃなくて悪かったわね。頭が悪くて悪かったわね。公爵令嬢を傷つけるのは遠慮するけど魔物なら遠慮しないわよ。

「あなた魔物でしょ? 神気なんか纏ったら苦しいんじゃないの?」

『うるさい、うるさい、ウルサイ!』


 エリーザベトが捉まえていたアンドレアス殿下を殺そうと手を振り上げる。

「ダメ、無礼者! 許しませんぞ!」

 私はすかさず決め台詞をエリーザベトに向かって叫んだ。

 エリーザベトは身体をびくりと震えさせ一歩下がった。手からアンドレアス殿下が離れた。


 その隙に公爵邸に来ていた近衛兵たちがダダダと割って入って、アンドレアス殿下を抱えてエリーザベトから引き離し、否応なく公爵家の応接室から運び出した。アンドレアス殿下は何も言わずぐったりとされるままになった。


『裏切り者め!』

 睨みつけてエリーザベトは叫ぶ。血のような瞳が憎々し気に殿下を見送り、こちらに向いたと思ったら長い爪が伸びた。人に向かっている時は声が出ても、自分に向かってくると咄嗟に声が出ないんだな。


 棒立ちになった私の目の前で爪と剣が交差する。ガキンと武器の触れ合うものすごい音がして爪が弾かれた。いつの間にか前に出ていた私の身体をヴィリ様がサーベルを構えて後ろに庇っている。その剣はお飾りの剣ではなかったのだ。


 カッコイイ。カッコいいけど見惚れている場合ではない。エリーザベトは明らかに私を狙っていて、長い爪を振りかぶり薙ぎ払い次々と攻撃を繰り出してくるのだ。ガキンッ! と剣と爪の打ち合う音が響く。私を庇っているヴィリ様共々危うくて、どうすればいいの。

「お立ち台二人前ー」

 グルンと二人の周りに結界が張られる。大分腕が上がったわ。


『チッ! 生意気な』

 舌打ちしたエリーザベトが、ぴょんと飛び跳ねて間近に着地しながら足で襲い掛かる。私を腕に抱え込んで応戦するヴィリ様。耳元を過ぎる爪の気配とカキンと剣に当たる音。

 ヴィリ様は私を後ろに庇い、剣を両手で持ってエリーザベトの身体を剣と足で蹴り飛ばした。


「「殿下!」」

 それを見計らったようにドヤドヤと執務室に衛兵が入って、私たちとエリーザベトの間に立った。盾を持った兵が応戦し、毛布や網を持った人が投げまくって、とうとう押し倒した。

『うがああぁぁーーー! 何をするーー!』

 暴れるエリーザベトをみんなで押さえ付けて、手足を拘束してやっと取り押さえることに成功したのだ。


 執務室のデスクの下からフェルデンツ公爵を救い出す側近と護衛。青い顔をした公爵は呆然とした様子でデスクに手をつく。

「あれは……」

 公爵はしゃがれた声で、ぐるぐる巻きに拘束されて板に乗せられ、レオンが同行して運び去られるエリーザベトを横目に見る。


「魔素を抜いた清浄な部屋に入れられます」とルパートが答える。

 捕らえられたエリーザベトは王宮の牢に入れられるという。

 魔物は魔素がないと弱って死ぬという。彼女は元が人間だしどうなるんだろう。


 しかし、軍隊って手際がいいのね。日頃の訓練の賜物だろうか。ヴィリ様も日頃から鍛錬されているんだな。改めて尊敬する。

「公爵閣下も王宮にて治療をお受けくださいますよう」

「分かった」

 ルパートの申し出に否応なく頷くフェルデンツ公爵は、側近と護衛たちに付き添われてルパートと一緒に王宮に行くようだ。

「お怪我でもなさったのですか?」とヴィリ様に聞くと「いや、あの令嬢が屋敷で魅了を使い、薬も盛ったようだ」と答える。

 何ですって。あの女、私が魅了を使ったとか何とか言ってたくせに、自分が使ってたんかい。

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