落魄れた神社、宵闇の境内、蒸した雨中にて女の情念と男の悔恨が交錯する

那智風太郎プレゼンツ 『真夏』『夜』企画 入選作品

 うらぶれた主人公の男が紡いでいくもの静かな語り口から常に粘るような不穏な雰囲気を醸し出され、ズブズブと宵闇の情景へと引き込込まれていく感覚がたまらない。

 闇にそぼ降る雨。
 境内に忍び入る喪服の女とそれを追う男の姿。

 巧みな描写によりその情景がまざまざと目に浮かび、読み手は固唾を呑んでその二人の動向を追うことになる。

 そして男が女へと差し向ける気遣いの裏に別の思惑が混じっていることに気がついたその時、驚きとともに「ああ、そうだったのか」と腑に落ちて、どういうわけかある種の心地良さまで感じてしまった。
 
 蒸し暑い夏の夜にぴったりの怪しい物語。
 
 あなたもこれを読んで少しだけ特別な涼を味わってみませんか。