時が流れれば、環境は変わり、それらは自分を変化させていく。
もちろんそれは自分だけではなく、周りの人達も、愛する存在達も。
忙しなく流れる日常は、時に心をすり減らしてしまう。
そこに重なるように起こる出来事は、決して不幸と呼ぶほどのものではないけれども、「こんなはずでは」という気持ちへと次第に傾かせていくものもある。
誰しも、そんな流れに飲み込まれそうなことがあるのではないでしょうか。
子育て、仕事にせかされ、心がしぼみつつある主人公の美咲もその一人。
そんな彼女が見つけた気づきは、同じく日々に戸惑いながら生きる私達への一つの導きに通じているように思えました。
視点を変えれば、世界は変わる。
『変わっていく』のではなく、『変えられる』ものなのだと。
さて、この作品を読んだ皆様。
あなたへと来たる景色が気づきが、よりいっそう広く、温かなものでありますように。
福岡で4歳の息子と夫と3人で暮らす美咲。彼女は、家事や仕事、子育てと三拍子揃った多忙な日々を過ごしていた。彼女の心の拠り所はインディーズ時代から応援しているバンドの音楽だった。
彼女は、日常に忙殺されて心の余裕を無くしていたわけですが、ふとしたきっかけで、見えていなかった大切なものに気が付きます。
例え誰にも受け入れられなくても、どうしようもなく、手の届かない何かを必死に掴もうとする強い意思。
全てが変わってしまったように見えて、根底に流れ続ける変わらない大切な想い……。
目まぐるしく動き続ける日々の中で、美咲が大好きな音楽と共に自分を見つめ直す、そんなリアルでビターさがあふれつつも、人の温もりとその息づかいをしっかりと感じられる、素敵な人間ドラマです。
タイトルを見て恋愛に懲り懲りな主人公がラブソングを嫌っているのかと思いながら読んだ所、もっと身近な生活の中で悩み苦しむ主人公の、切実な理由から「嫌いだ」という強いメッセージのタイトルが導き出されている事を知りました。
昔から大好きなバンドの良いメロディ。でもそれが、甘いラブソングだという理由だけで聞けない、聞きたくない日々。
母という役割、社会人としての役割、主婦としての役割で世界が塗りつぶされている様子は、共感を覚える人も多いと思う。
でも気付きひとつで世界は変わる。
毎日がしんどいと思っている人、音楽が大好きな人には刺さる要素が満載。読後感もとても良いのでぜひ! とても暖かい人間ドラマでした。
自分自身の生活環境や、抱えるものが変化するのと同じスピードで、愛する何かも少しずつ変化していく。
そんな心の引っ掛かりは、大人になるにつれきっと誰しもの心にあるのだろう。
4歳になる息子と、仕事でなかなか家にいない夫と3人で暮らす主人公の美咲。
忙しい毎日を過ごす彼女の心の拠り所は、大好きなバンドの曲たちだった。
不器用に、必死に生きる誰かへの応援歌は、やがて彼らがメジャーデビューを果たしたことにより段々と変化していく。
甘ったるいラブソング、決して昔のガムシャラな彼らが選ばなかったであろうその曲は、美咲の気持ちを置き去りにしてラジオのパワープレイに選ばれ、連日鼓膜を揺さぶってくる。
——こんなはずじゃなかった。
——こうなりたかったのに。
——きっとこうだったのに。
誰も彼もが葛藤する理想と現実。音楽業界で脚光を浴びる彼らの紡ぐ言葉と、息子の言う季節外れの願い事。
できるはずがない……そうじゃない、大人になってしまった心は疲れてそう蓋をしようとする。
追いかけたものは確かにそこにあった。形は違えど存在した。
それを電波にのるラブソングと、必死で不器用なそれぞれの姿に思い出す何か。
一曲のストーリーのように、美咲の心を包む希望や家族のふわりとした温かさが心に流れこんできます。
ため息をつきそうな日々をおくるすべての人に読んでほしい珠玉の一作です。