第34話 隣村は危険?
温かい室内で、アルカはこれからの予定を口にした。
「これから人形の森に行こうと思うんだが」
子供たちはみんなリビングでボードゲームやらトランプを楽しんでいる。サミュエルはグロッギを口にしながら、一つ頷いた。
「俺、アルカ様に言われるまでこの人形の森って場所、よく知らなかったんだよね。二人は知ってる?」
母親と父親に目を向けると、二人はそれぞれに違った反応を見せた。知っているということは共通していそうだが、二人で反応の差が気になる。母親は目を輝かせて、父親は深刻そうに腕まで組み始めた。
「えっと、どういう反応?」
「お母さんはいいと思うわ。クインヘイムでしょう。エルランディアの人形文化の発祥の地として知られているし」
「やはりそうなのか!」
アルカの食いつきに母親はにこやかに頷く。
「ええ。このツリーのオーナメントも元はクインヘイムの文化なの」
知らなかった。サミュエルはツリーに目を向ける。ツリーには陶器製でできているサンタクロースを模した球体関節人形が吊り下がっていた。
「で、父さんは何でそんな仏頂面?」
「いや、な。……父さんが若いころには、あまりよくない噂があったんだ」
空気が変わる。父親は腕を組みなおすと眉根を寄せて目を伏せた。
「よくない噂?」
「……詳しく聞いたわけじゃないから、下手なことは言えないが」
「でも、今はそんな話聞きませんよ」
心配性になっているんじゃないかと母親が口を挟む。父親は何か言い返そうと一度口を開いたが、何も言うことはなく口を閉じた。
「ともかく、気を付けた方がいい。念のため、クインヘイムの方には連絡しておこう」
「いいのか?」
「……なるたけトラブルに会わないためにも、そうするのが得策だろう」
父親は行くなと言っても聞かないだろうという、アルカの性格を完全に見抜いているようだ。父は重い腰を上げて自室へと消えて行った。
「おい、どこに行くんだ」
アルカは暖かくした格好で、マフラーに埋もれた顔を声の方に向ける。
「人形の森に」
声をかけてくれた人は犬ぞりのマッシャーだった。大きなそりに犬を括り付けている様子で、森に一番近い小屋の主のようだ。無骨な感じが木こりらしい雰囲気を醸し出している。
「みんなして若いが旅行かなにかか」
「まあ、そんなところだ。人形の森はこちらの道であっているかな」
「あってはいるが、本当に行くつもりなのか」
マッシャーは眉をひそめて意味深な空気を漂わせる。父親といい、この人といい、サミュエルが知らないだけで実は危険な村なのではないか。サミュエルはうっそうと茂る森の方を見やる。
「人形の森は現存する歴史の教科書だと、書物にも書いてあった。行かないわけにはいかないだろう」
アルカはしつこく引き留められて、少しだけむっとしながら言い返す。
しかしその人は同じようにやけになって、どうでもいい、なんてことは言わなかった。親切にもその重そうな腰を上げてくれたのだ。
「途中まで乗せて行ってやる」
マッシャーは一度小屋の方に姿を消すと、別の種類の手袋を履いて出てきた。そして、犬に着けている縄の金具の調子を確認する。
「森の途中まで用がある。荷物をこっちに乗せて、人はこっちに座れ。歩ける奴は歩け。そこの小さい嬢ちゃんは座ればいい」
アルカは眉を曲げた。見た目の幼さで気遣われることは、あまり良しとしていない。
「どうしてボクだけ名指しなんだ」
「なんでって、お嬢ちゃん脚に補助器具か何かつけていないか。あるいは義足か」
「よくわかったな」
「大体歩き方で分かる。ほら乗りな」
無骨なマッシャーはアルカがそりの荷台に腰を下ろしたことを確認すると、他が歩く速度に合わせて犬をゆっくりと走らせた。
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【Arca:機械少女は神話の霧を解き晴らす】 千田伊織 @seit0kutak0
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