サプレッサー〜公安調査庁第三調査部〜
藤原くう
第9話
後日。
俺と
「なんですか、もう!」
そう
「わたしたちだって仕事でやってるんですよ? それなのに『邪魔するな』ってどの口して言ってんですか」
「まあまあそのくらいにして
宥めるように言うのは、俺たちの上司にあたる『夢見の弦さん』――じゃなかった、
弦さんのおかげで、俺たちは助けられた。部長のコネのおかげで。じゃなかったら、口にも
「
「私たちだってそうですよ! ねえ、律くん」
「なんだ」
俺は、スクワットの手を――や、この場合は脚か――止めて、一夏の方を見る。
その目は、助け舟を出してちょうだい、とばかりにうるうるしている。でもだまされてはいけない。この表情のときは、十中八九、ウソ泣きだ。
「いや、バディが困ってるんだよ。なにか言ってよ」
「いやだって、不法侵入したのは俺たちの方だし……」
「呆れた、そんなこと言うなんて。前の職場をかばってるんでしょ、どっちが大事なのっ!?」
「前職は関係ない。一夏が悪いのは明らかだ」
「そういう言い方はよくないです」
そう言ったのは、今の今まで情報攪乱――という名のネットサーフィン――をしていた樫男だ。
その言葉に、一夏は目を輝かせ、彼の方へとすり寄り。
「だよねー。
などと言っている。彩都は照れたように頭をかいてるし。
「甘やかすな」
「まあまあ篠木君、そこまでにしておこうよ」
「そうだそうだ」
「…………」
なんだかむしゃくしゃしてきたが、部長に言われるとなんも言い返せない。
イスに座り、ハンドグリップに憂さ晴らしする。
「さて報告書は読んだよ」
と、部長が言うが、一夏も彩都も聞いちゃいない。いや聞いているかもしれないが、真面目に部長の方を向いているのは俺だけだ。
このだるーんとした空気が、うちの特徴だ。
もっとシャキッとできないのか、できないだろうなあ……。
「あ、あれえ?」
「部長が話しているのに、なんでこいつらは……!」
「怒らない怒らない。わたし、ちゃんと聞いてますから」
「ぼ、ぼくも」
言い訳のような言葉がやってくる。ため息をつかずにはいられなかった。
こんなんだから、公安にも自衛隊にもバカにされるんだ。
「部長、続きをどうぞ」
「あ、ああ。えっとねえ、報告書にある話を説明してもらってもいいかな」
「はいはーい」
と手をふりふり一夏が言う。
「今回でっち上げた創作物のことですね?」
「うんそうだけど、創作物って言い方はちょっと……」
「ではミームでしょうか、あるいは都市伝説?」
「いいから続き」
「しょうがないなあ。今回のは島民が噂していたように、ガス爆発ということで処理しようと思います」
「どのように?」
「廃村を埋め立てた際に生じた空間。そこにメタンガスがたまり、あるタイミングでドカンといった、ということにします」
「メタンガスはあったのかい」
「んーたぶんありません。ホラです」
「ホラかあ。突っ込まれると弱いような気がするけど」
「確かめようがありませんからねえ。それに、素直にいうよりかは信じられるとは思います」
「神の怒りでああなった、なんて言った日には、苦情だらけだろうな」
部屋に鳴りひびくコール音を想像すると、イヤな気分になってきた。
「いつもと違うんだな」
「ああ。大っぴらにする手もありますけど、今回はちょっと地味ですからねえ」
「宇宙人が来たんならよかったのに」
「その場合だと、オカルト掲示板に書き込めばいいもんね。でも、今回はUFOの情報もなかったので」
「わかりました。こっちで、防衛省のほうへ通達しておきます。ネットの方はどうしますか」
「情報操作は不要です。が、考古学的に価値があるものかもしれませんので、昔の漁村が発見された、ということをその手に伝達しておくべきでしょうね」
「なるほど、わかりました。大学の方にも
ほかには、という部長の声に、ないよー、という声が返ってくる。
「では今回は終了ということで」
そのほがらかな言葉を、部長が発したところで、一夏が大きく伸びをする。
「やっと終わったー。律くーん」
「なんだ」
「飲み行かない?」
「今何時だと思ってるんだ」
「午後一時?」
「……昼間っから酒なんて飲みたくない」
「えー。わたしは好きだけどなあ、あくせく働く人たちをよそに飲むアルコールはさいっこうなんだよ?」
「帰る」
俺は立ち上がり、部屋の外へ。一夏が追いかけてきて、俺の腕に抱きついてくるが、無視する。
「ねえ、隣でジュース飲んでるだけでいいから、ね?」
「…………」
「了承するまで、抱きついて泣いてわめいてやるんだから」
そんなことを
後ろ手で、ドアを閉める。
ちらりと振り返れば、そこには公安調査庁第三調査部とある。
公安調査庁第三調査部が取り扱うのは、超常現象だ。
UFO、宇宙人、神、超能力……などなど。
だが、超常現象を未然に防ぐわけでもなく、解決に導くわけでもない。
超常現象という劇薬が、国民の目に入らないように
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