プロローグ

 銃声が、月のない空にひびいた。


 地面から生まれる、ぼんやりとした光。照らされたからだが、銃声が鳴るたび、みえないだれかに殴られているかのように震える。


 糸の切れたマリオネットのように、グリーンへ倒れたのは、男だ。それをとり囲むのは、闇に溶けこむような迷彩服たち。


 彼らの手には、短機関銃MP5があった。そこから飛びだした銃弾が、男を貫いていったのだ。


「撃ち方やめ」


 冷えた声に、発砲音がぴたりとやむ。ゴルフ場が、閑散かんさんとした静寂せいじゃくに包まれる。

 

 だが、光はおさまらない。それは、銃口から放たれたものではなかった。ゴルフ場の地下から湧きでる、摩訶まか不思議なオーラのような幻想的な明かりだ。


 光は、だんだんつよくなっていく。


 倒れふした男の生命力を吸いあげるように。


 ドクンドクンと脈動するように。


 銃を持っていた人間たちが、こらえきれず、目を覆う。あまりにも強い閃光、フラッシュバンのような輝き。


 次の瞬間、白い光はおさまって。


 目を開けたとき、そこには異形がいた。




 その異形は、を撃ってくるものたちへ、いわおのようなこぶしを振るう。剛腕ごうわんがバンカーに突き刺されば、砂とともに、しおの香りが吹きあがった。


 そこには大穴が開いていた。まるで、プラスチック爆弾でも爆発したかのような威力だった。


 水まじりの砂をかぶった男たちは、退避する。手持ちの武器ではどうすることもできない。上官に指示を仰ごうとした。


 可能ならば航空支援を。


 ゴルフ場のうっそうとした木々の中へと足を踏み入れた途端。


 強い衝撃が、彼らを襲った。


 地面がぐらりと揺れる。だが、地震とは違い、一度強く揺れたのみであった。


 草木はびゅうびゅうと揺れ、空からはまきあげられた土砂が、しぶきのように落ちてくる。


「爆発……?」


 誰かが呟いた。その場にいる誰もが、同じことを思っていた。


 そうして、先ほどの異形がいた場所を見た。


 なにもいなかった。


 クレーターを思わせるような、途方もない大きさの穴が開いているばかりであった。

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サプレッサー〜公安調査庁第三調査部〜 藤原くう @erevestakiba

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