第4話 初ダンジョン

 今日は初めてダンジョンに行くつもりだ。


 玄関前で家族が揃う。ここで見送ってくれるとのことだ。嬉しいな。

 俺の手には木刀が握られている。


「本当は本物の剣を与えたかったが、剣が無かった」


「良いよ。木刀だって立派な武器だ。それに今日は1層に行くだけだ」


 本物の剣が良かったらしいが、あるだけマシである。もっとも、通用するのは1層~2層までだろう。

 それにしても木刀があるなんて。武器になりそうなものが無かったら買ってくる予定だったのだが、もしかして俺の両親は探索者だったりするのだろうか。


「無理するなよ」


「気を付けてね」


「お兄ちゃん、頑張って」


「お父さん、お母さん、美琴……嗚呼、行ってくる!」


 木刀を持って俺は家から出ていく。




 ダンジョンは探索者協会の奥にある。探索者協会を通り過ぎれば、ダンジョンに到着する。


 探索者協会に到着した。人は相変わらず多い。俺はその中を進んでいく。

 そして『東都ダンジョン』に到着した。出入り口にはゲートがある。


 いろんな感情が胸の中で回る。興奮、期待、不安等。その気持ちを全部持っていくつもりで行こう。

 いざ、ダンジョンへ!


 俺はゲートに夜桜パッドを置く。ゲートが開いて進んで行った。


「ここがダンジョン」


 ダンジョンの中は洞窟のようになっていた。1層の中はこのようになっていたことを思い出す。


 周りを見ると、人が沢山いた。仲間を待っている者、統率している者、進もうとしている者と、色々な人がいた。

 俺はソロだから自分のペースで進むことが出来る。


 今の俺は制服に木刀を持っている状況。周りは防具や武器を持っている人達で沢山だ。少し足早に進むとしよう。


 1層にはスライムしか出て来ない。倒されることは無いと思うが、スライムだってモンスターだ。HPは削られるかもしれない。

 それを踏まえて行動していきたいんだが……


「いない、か」


 始めの1層ということもあるのだろうが、スライムがいない。恐らく先に進んだ探索者達が倒したのだろう。

 最弱のモンスターなだけあって、すぐには会えないか。……いや、そういえばあそこはどうなっている。


「探してみるか」


 俺は1層の中を探索する。それでもスライムは出て来なかった。ただ、発見した部屋がある。だ。隠し部屋の中にはスライムが5匹いた。透明な体をしている。


「よし、入ろう」


 木刀を握り締めて隠し部屋の中に入る。中に入った瞬間、スライム達がこちらに気付く。その眼差しは敵を睨み付けているようで、殺気を感じる。嗚呼、これはゲームには無かった。これを感じると、本当にレジダンが現実になったんだと理解する。


 俺は木刀を構える。


「来い」


 スライムがこちらに近付いて来た。突撃するスライム。俺はそれを木刀で捌いて叩き付ける。スライムはそれでも倒せない。

 これは俺のステータスの低さからくるものだろう。だけどこっちはレジダンで既に戦っている。動きは分かる。


 木刀は叩き付けるより突いた方が良いか。

 俺は木刀でスライムで突く。スライムに木刀が食い込んでいく。そして勢いよく壁に叩き付けた。倒せはしないが、スライムの動きが鈍くなる。


 俺はスライムの攻撃を捌きつつ、木刀でスライムを突いていく。スライムを壁に叩き付けていく。そうするとスライムが倒れて魔石を残していった。

 これならいけると考えつつ、油断はしない。1匹残らず倒しきる。


「これで終わりか」


 スライム5匹を魔石に変える。意外と時間が掛かったな。……レベルは上がらないか。これは気長にやっていく必要がありそうだ。


 モンスターがスポーンするのはランダムだが、部屋のモンスターは30分間隔でリスポーンする。その間に俺は休憩に入った。

 そう言えば、アレは使えるのだろうか。


「【アイテムボックス】」


 【アイテムボックス】とはレジダンでプレイヤーが自然と使うことが出来たものである。この感じだと、スキルと同じ扱いだろう。

 俺の言葉に反応してアイテムボックスが開いた。空間に穴が出来ているような見た目であった。ステータスには載っていなかったが使えるようだ。


 手を突っ込むと何かがあるのが分かった。なんだろうか?

 掴んで、引っ張ってみる。俺が抜いたのは……レジダンで使っていただった。


 お前も来ていたのか。これはプレイヤーがこの世界に来た特典というべきものか。また、お前と戦えるなんて嬉しい。だが、今の俺には使いこなせそうにない。また一緒に戦える日が来るまで、アイテムボックスにいてくれ。


 そんなことを考えながら、魔剣をアイテムボックスに収納する。魔石も中に入れた。


 30分後、レジダン通りに5匹のスライムがリスポーンした。さて、やりますか。


 それからはスライムと戦っては休憩するのを繰り返す。スライムを狩るのも慣れてきた。しかし、レベルアップはしないままだ。結構倒している筈なのに、覚えは1つしかないだろう。


「スローアップか」


 ただ、これに関しては鑑定で分かるかもしれない。今はレベルアップすることを優先するとしよう。

 さて、30分を告げるタイマーが鳴り響く。消して部屋に入るとそこには――


「ジャイアントスライムか」


 巨大なスライムが1匹いた。偶にジャイアントスライムがスポーンすることは聞いていたが初めてだな。迫力もある。


 ジャイアントスライムは俺が敵だと認識すると、触手を伸ばしてきた。俺は木刀で触手を捌く、力強くなっていることを理解しながら近付いて、突きを繰り出す。木刀がジャイアントスライムの体に食い込む。ジャイアントスライムの体が震えたのを見るに、効いているようだ。


 それからはジャイアントスライムの触手による攻撃を受け流しつつ、木刀で突くのを繰り返した。ジャイアントスライムの攻撃が大胆になってくるが、それでも俺は木刀で突くのを止めなかった。

 10回くらい繰り返した時に、ジャイアントスライムが倒れた。同時に俺の木刀も折れてしまった。ずっと受け流したり、捌いたりしたからだろう。お疲れ様である。


 そしてレベルが上がった。感覚で分かるようだ。


「木刀は折れたし、帰るか」


 ジャイアントスライムの魔石をアイテムボックスに収納する。折れた木刀を持って、俺はダンジョンから出る。家に向かって帰った。




 夕食の時に今日の出来事を話した。そういえば聞きたいことがあったんだった。


「お父さんとお母さんって探索者なのか?」


「そうだぞ。これでも凄いんだ、オークロードを倒したこともあるんだぞ」


「アイテムボックスって使える?」


「「アイテムボックス?」」


 父と母の頭にクエスチョンが浮かんでいる風に見えた。これは知らない様子だな。

 俺は目の前でアイテムボックスを使用する。家族は驚いた。


「これなんだけど、本当に使えないの?」


「そもそもアイテムボックスなんて初めて聞いたぞ」


「そんなスキルがあったのね」


 うーん、アイテムボックスが世間一般に浸透していないのか。俺がプレイヤーだったから使えたのか。試してみよう。


「お父さんとお母さん、美琴もアイテムボックス使ってみてくれないか?」


 この後、数十分アイテムボックスを出す練習をした結果、父と母はアイテムボックスが使えた。美琴は使えなかった。共通点を上げれば俺と父と母は探索者ということ。探索者だと使えるみたいだ。


 俺はアイテムボックスのことを秘密にして欲しいと頼んだ。家族は揃って頷いてくれた。

 こうして夕食を終えて、お風呂に入り、歯磨きをする。


 部屋に到着して横になる。


「明日から学校か……」


 楽しみ半分不安半分くらいか。まぁ――


「なんとかなるか」


 俺は疲れからかすぐに眠りにつくことが出来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る