第8話 部活動紹介と3層

 今日は部活動の紹介がある。クラス中のみんなは期待に胸を膨らませている風に見えた。

 俺の目の前にいる明莉もその一人である。瞳を輝かせている。


「みんな話しているね」


「そうだな」


「和真君は何処に入るつもりなの」


「出来れば、剣術部かな」


「私は魔術部。楽しみだね」


「……そうだな」


 俺は知っている。この部活動の紹介で、Eクラスは地獄を見る羽目になると。




 部活動の紹介の時間になった。講堂には多くの生徒達が集まっている。

 そんな中で、部活動の紹介が始まった。


「入部を心待ちにしている。但しEクラスは入らなくてもいい」


 剣術部の頂点に立つ第一剣術部はEクラスは入らなくて良いと、副部長がはっきりと断言した。剣術部とは、技術を磨いて鍛える部活だ。

 他にも――


「私達第一魔術部は新入生の入部を心待ちにしています。Eクラスを除いてですが」


 女子生徒が部長である第一魔術部もEクラスの入部を拒否する発言をした。魔術部とは、スキルの特訓や応用を考える部活である。


 これらに続いて第二剣術部、第二魔術部はEクラスの入部を拒否する。

 ただ、入部を拒否する部活だけではない。


「第三剣術部は誰もが入部可能です! 心待ちにしています!」


「第三魔術部は誰もが入れる部活を目指しています! 心待ちにしていますね!」


「私達生産部は、新入生の入部を心から待っています!」


「僕達と一緒に鑑定しましょう!」


「様々な物語を一緒に描きましょう!」


 人数は少ないが立派な部活である第三剣術部と第三魔術部。

 生産部は部活名通り、生産を中心にやっている。生産されるのはアイテム。そのアイテムを売っている。またドロップ品を回収してくれる。

 次に鑑定部。魔石やアイテムを鑑定してくれる。魔石を売ればそれなりにお金も貰える。アイテムの性能も確認してくれる。

 最後に漫研部。何故この学校にあるのか分からない。癖の強い学部なのかゲームでは入れなかった。多分重要じゃないんだろう。


 こうして地獄の部活動の紹介が終わった。




 教室に戻ると、クラスメイト達はそれぞれ不満を呟いていた。俺は知っていたから心は傷付いていない。みんなは重く受け止めているようだった。

 全部の部活に入れない訳じゃない。それにこの先も似たようなことは起こる。だからそう落ち込まないで欲しいんだが……無理か。


「くそっ!」


 淳一は壁に拳を叩き付ける。完全に怒っていた。


 重い空気が流れる。なんだか俺だけ傷付いていないって考えると、場違いな感じがする。

 そんな空気を壊したのは奏汰だった。教壇に上がってみんなを見つめる。


「大丈夫だ! 俺がDクラスのリーダーに勝てば話が変わるかもしれない!」


 確かにそうかもしれない。殆どのクラスメイトが表情を明るくする。


「「奏汰」」


 ヒロインである葵や心音の表情も明るくなった。まるで奏汰なら勝てると考えているようだ。

 段々と活気を取り戻していくクラスメイト達。でも、俺はこれに不安を覚えていた。奏汰は強くなるだろう。勝てた場合なら問題ない。ただ、負けた場合は更に追い込まれるだろう。


「俺は必ず、みんなの為にも、必ず勝ってみせる!」


『おおおおっ!』


 最弱だからこそ見えた景色があった。




 学校が終わると、俺はダンジョンに向かおうとした。行こうとした矢先に明莉、竜、比奈の3人が目の前に現れた。


「また一人で行こうとしたでしょ」


「はい。……俺は3層に行きたいんだが、3人はどうする?」


 俺は3人に問い掛ける。今日は3層に行ってレベルアップしたい。


「私はまだゴブリンに慣れていないので、2層で戦いたいです」


「僕も悪いね、今日は2層だ」


 比奈と竜は2層に行くらしい。明莉は考えた末に――


「私は3層にチャレンジしてみる」


 俺と同じで3層に行くみたいだ。向かう先が決まった俺達は教室を出て、ダンジョンに向かう。


 道を歩いていた時に、明莉が部活動の紹介について愚痴を呟いた。


「何処にも入れない訳じゃないけど、除け者にされて良い気分じゃないよね」


「仕方ないだろ。俺達は弱者なんだから」


 俺にしたら、選択出来る自由があるだけまだマシだ。


「私達は弱者、か。なら、どうすれば良いと思う」


 そんなことは決まっている。


「強くなれば良い。レベルを上げたりすれば良い。……だけどあの感じじゃ無理かも」


「どうして?」


 明莉の疑問に、俺は思っていることを言葉にする。


「だって、殆どが奏汰君を頼り切っている。それなら悔しがっていた淳一、さんの方が強くなる可能性がある。多分な」


 クラスメイトの殆どは自分が強くなれば良いとは考えていない筈だ。


「そうかもしれないね」


 竜は俺の言葉に同意する。


「遠野君は違うね」


「どういうこと?」


「最弱だって噂されても、部活に除け者にされても落ち込まなかった。和真君は強くなろうとしている。私は凄いと思う」


「最弱だからこそ、強くなりたいだけだ」


 話している間に探索者協会まで到着する。俺達は進んで行き、ダンジョンに入っていった。




 2層で俺と明莉は竜と比奈と別れる。


 3層に降りた。3層も洞窟のようになっている。


「どんなモンスターが出てくるのかな?」


「ゴブリンシーフとゴブリンメイジだ。ゴブリンがジョブを持っている認識で良い」


 ゴブリンシーフは通常のゴブリンより動きが速く刃物を持っている。ゴブリンメイジはスキルを使って攻撃してくる。


「なんだか強敵に思えてくるよ」


「いや、俺達のつくジョブよりかは弱い筈だ」


 シーフは動きが速いと言えど、通常のゴブリンと比べたらの話。メイジだってスキルの威力は低い。現実になって変わっていたら、その時は全速力で逃げるしかない。

 そんな話をしていたからだろう。


「来たぞ」


 俺達の目の前でゴブリンシーフとゴブリンメイジがスポーンした。シーフが2体、メイジが1体。シーフは刃物を持っていて、メイジも杖を持っていた。


「ホープアップを和真君に使用するね」


「頼む」


「【ホープアップ】!」


 力が湧いてくる。これがホープアップか。


 俺はゴブリン達に近付く。シーフが近付いて来た。メイジはスキルの準備を行う。

 シーフは跳躍して、刃物を振り下ろそうとする。俺はシーフの刃が届く前に、体を横に切り裂いた。これはホープアップがあって初めてできることだ。

 確認した後、メイジに接近。メイジは炎の弾、ファイアーボールを放ってくるが遅かった。俺はファイアーボールを避けて、メイジの首を刎ねた。


 戦闘が終了して、明莉の方を振り向く。


「っ! 後ろ!!」


 明莉は俺の声に気付いて後ろを振り向く。後ろにはシーフとメイジが再び現れた。数は分からない。

 俺は全速力で明莉の方へ駆け出す。明莉はシーフの攻撃を避けたが、恐らくメイジのファイアーボールはあと少しだ。


 明莉の隣に到着した俺は、シーフを剣で貫く。シーフは倒れて魔石となった。ただ、ファイアーボールは明莉に向かっていた。

 俺は明莉の前に立ち、剣で防御するように構えた。ファイアーボールが当たる。


「和真君!」


 熱かったし痛いが、HPは残っている。


「大丈夫だ」


 俺は一言明莉に声を掛けてからメイジに接近。一列に並んでいたから、2匹の首を刎ねた。倒れて魔石となる。ちょうどホープアップの効果も切れた。

 剣を鞘に納める。


「大丈夫!?」


 うん? 男の声で聞き覚えがある。


「奏汰君か」


 俺の目の前に奏汰が率いる主人公ヒロインパーティーだ。3層に来ていたのか。てか、俺の戦闘見られた?


「それよりも大丈夫なのか。スキルが当たっていたが」


「嗚呼、大丈夫だ」


 HPは削られたけど。後ろを見ると葵と柊翔から厳しい視線を受けていることが分かった。どんだけ俺のことが嫌いなんだ。いや、俺の戦闘を見ていたら、実は意外と強い奴とか考えないのか。


「噂と違ってやるようだな」


 おっ、柊翔はちゃんと評価しているかな。嬉しい限りだ。


「ただ、無茶な行動だな。そんなことしなくても結城さんなら避けれた筈だ。それにステータスが低い君が、結城さんと2人だけでここに来るなんて、馬鹿なのか」


 ちょっと頭に来ましたね。噂は信じていないんじゃないのか。


「ステータスが低いってどうして分かる?」


「噂が出るのは、君が弱い、又はステータスが低いからだろ。教室の前でも君は最弱と叫ばれてる。弱いと自分でも思っているんだろ。そう考えているなら無茶なことはやめるべきだ」


 傷付けたいのか、心配しているのかどっちなんだ。まぁいいや。ダンジョンで揉め事なんてしても意味ないし危ないわ。

 ここは心を広くして受け止めてみる。


「ご忠告どうも」


「分かれば良い」


 やっぱり偉そうだわ。レジダンの時は有能で良い相棒だったけど、今ではなんか偉そうな男にしか見えない。

 いや、今決めるのは良くないか。柊翔も色々乗り越えて、成長していくからな。


「なぁ、和真君。それに明莉さん」


「「うん?」」


「パーティーを組まないか?」


 奏汰以外の全員が驚いた。柊翔は嫌そうな、葵は複雑そうな表情をしている。心音は、良く分かっていないって顔が言っている。


 奏汰達と組むか。うち2人には嫌われているんだよな。だけど経験値は貰いたいし、戦闘だってさっきよりかは楽出来る。


「分かった」


「良いよ!」


 俺と明莉はパーティーを組むことにした。


「分かったわ」


「はぁ……しょうがない」


「私は良いと思う!」


 奏汰のパーティーメンバーも承諾してくれた。奏汰のパーティーに俺と明莉が追加された。


「それじゃ、進もうか」


 俺達は3層でシーフとメイジと戦う。明莉が奏汰にホープアップを使ったり、パーティーメンバーと話しており、意外と馴染めていた。

 俺は邪魔しない程度に戦った。パーティーにもあまり馴染めず、一言も喋ってない。


 そんなこんなで俺はレベル4になる。奏汰達のおかげだな。それには感謝している。ただ、悪いが二度は組みたくないな。

 パーティーはダンジョン前で解散となるのだった。

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