第10話 オークロード攻略戦

 俺は一度明莉のもとまで戻り、5層の入り口まで移動した。


「ここには。どうかしたの」


「……いや、ある筈だ」


 俺は注意深く確認してみる。目に見えているのは全て岩で出来た壁である。レジダンではここに『テレポートルーム』という部屋があった。

 現実になって無くなった? それとも気付いていないだけか?


「あれ?」


「どうかしたのか?」


「いや、ここだけ色が違うの」


「本当だ」


 俺は手を伸ばす。すると、色が違う場所は手を貫通した。元に戻したり、また手を突っ込んだりする。

 確か、ちょうどここにテレポートルームがあるんだった。それを思い出した俺は思い切って壁の中に入る。すんなりと入れて、テレポートルームはあった。続いて明莉も入ってきた。


「この部屋って?」


「テレポートルームって名付けよう。ここに、あった」


 テレポートルームの奥には宝箱があった。興奮はしていない。何故なら中身を知っているからな。

 俺は宝箱を開ける。そこには2つの指輪が入っていた。


 早速指輪を指に嵌める。ここにいる明莉にも指輪を手渡した。


「こ、これって!?」


 明莉は頬を赤くする。何か勘違いしていそうだから訂正していこう。


「いや、多分明莉さんが考えているような意味は無いぞ」


「そ、そうだよね……って、私考えていることって何!?」


「頬、赤くなっていたぞ」


「……私だって、立派な女の子なの!」


 明莉は頬を膨らませた。女の子の相手って大変なんだな……って考えている場合じゃないか。


「これは、『テレポートリング』だ。ダンジョンの階層や外に転移出来るぞ」


「えっ!? それが本当なら、ダンジョンの常識が崩壊する発見だよ!」


 明莉は本気で知らなそうだ。もし明莉の反応が一般的な反応なら、俺の結構大変なことを言ってしまったようだ。テレポートルームとテレポートリングのことは秘密にして貰おう。


 本題はここからだ。俺は深呼吸をする。そして明莉を真剣に見つめる。表情の変化に気付いたのか、明莉も真剣な眼差しで見つめ返してきた。


「和真君、いったい何をするつもりなの?」


「俺はトレインレベリングを利用してオークロードを倒す」


 明莉は驚いた。オークロードを倒すにはトレインレベリングを利用するしかない。本当にこれしか方法が無かった。


「そんなの駄目だよ! 誰か、強い探索者にお願いとか出来ないの!?」


「出せる報酬が無いから無理だな。他の探索者も命張っているんだ。善意があっても受けないだろう」


 明莉は暗い表情になる。そんな表情、しないで欲しい。


「それにオークロードを倒さない限り、あの部屋は誰も使わなくなる。もし何も知らずに入ったら、命を落とすかもしれない。俺は、そんなことは望んでない。……大丈夫。倒して経験値にしてやるから」


 少なくとも、ここにいれば明莉は安全だ。使い方を教えても良いか。


「テレポートリングは帰りの時は地上にも転移出来る。記念にそれで帰っても良いぞ」


 これで言えることは全て言った。俺はトレインレベリングでオークロードを倒す為に戻ろうとする。

 その時、明莉が俺の手を掴んだ。


「明莉さん?」


「私達、パーティーだよね」


 そう言えば、パーティーの登録を解除していなかった。レジダンではずっとパーティーを組んでいられたが、離れたらどうなるんだろうか。


「だから、私も一緒に戦う!」


 明莉の言葉に俺は驚きを隠せなかった。なんで、危険だと分かっている筈だ。何を考えている?


「駄目だ。明莉さんを危険に巻き込みたくない。それに、オークロードと戦えるのか?」


「分からない」


「なら――」


「だけど!」


 明莉は俺の目の前まで移動する。その表情は戦う探索者の目をしていた。


「私だって、探索者なんだ! 和真君が戦うなら、一緒に戦う! そして勝つ!」


「どうして、ここまでしてくれる。まだ数日くらいしか組んでないだろ」


 明莉は戦う覚悟のような表情から優しく微笑んでくれた。


「私と和真が、だからだよ。私は、仲間を見捨てたくないだけ。それが理由じゃ、駄目かな?」


「……はぁ」


「……言っておくけど、1人では通らせない」


 明莉は両腕を広げて通行の妨害をしてくる。それにしても、悪役モブだった俺を女主人公が仲間だって言う、か。レジダンではあり得なかったが、現実じゃありなんだろう。予想外の連続ばかりだ。

 俺は笑みを浮かべる。


「最高だな」


「えっ?」


「さっきはごめん。……力を貸してくれ」


「うん。私も、和真君と一緒に戦うよ」


 俺と明莉は作戦を練る。まず、オークロード含めたモンスター達をトレインする。次に岩石でオークロード以外のモンスターを轢き殺して貰う。ここで明莉から質問が飛んできた。


「オークロードはなんで岩石じゃ倒せないの?」


「倒せない訳じゃない。ただ、オークロードは一番後ろになると思う。岩石が間に合わないんだ。俺と明莉はオークロードと戦わなきゃいけない。それと、明莉さんには後衛にいて欲しい」


「ホープアップで和真君を強化すれば良いんだね」


「そうだ。もし攻撃が飛んできても、自力で避けてくれ」


「分かったよ」


 これで作戦会議は終了した。ここからが本番である。




 俺と明莉はトレインレベリングの配置に着く。


『転がったよ』


 明莉から連絡が入った。俺が部屋に入ると、オークロードとゴブリン達が敵意を向けてきた。持っている小石をオークロードにぶつけて駆け出した。後ろを確認すればゴブリン達は走り、オークロードは歩いて来た。

 俺と明莉は合流する。


「あれが、オークロード!」


 明莉はオークロードを視認する。

 同時にゴブリン達が岩石に轢かれた。ゴブリン達は魔石になる。岩石が落ちた瞬間、オークロードは俺と明莉に向かって咆哮を上げた。

 俺を剣を抜いて構える。


「いくぞ」


「うん!」


 俺と明莉はオークロードと戦闘を開始した。


「はああああ……」


 明莉は声を上げている。何をするつもりだろうか?


「【ホープアップ】!!」


「っ! これは……」


 凄い、以前よりも増して力が湧いてくる。明莉はいったい何をしたんだ?


「魔力を倍消費してホープアップを使ったの! 初めて使ったけど強化されていると思う!」


「凄いな」


 魔力を倍消費してスキルの効果を強化したのか。これはレジダンでは出来なかったことだ。現実になったことで可能性も広がったと考えるべきか。


「負ける気がしない!」


「オオオオオ!」


 俺とオークロードは同時に接近する。ただ動きは俺の方が速かった。勢いのまま剣を振り下ろす。オークロードは対応出来ず、胸に切り傷が出来た。

 それに怒ったのか、拳を交互に出して俺に攻撃してきた。だけどホープアップで強化されているのと、知識として知っているから避けることは苦ではなかった。

 ホープアップにも時間がある。その内に倒すのがベストだ。


 俺は拳による攻撃を避けて懐に入る。そのまま脇を切って後ろへと移動。後ろから背中を切り裂く。オークロードは咆哮を上げながら振り返る。拳を突き出してきた。冷静に攻撃を避けて逆に拳を切り裂いた。その後、オークロードに接近して剣を突き出す。胴体に刺さり、力いっぱい剣を振り下ろした。溢れ出す血、オークロードは倒れて魔石となった。


 ホープアップの効果も切れた。この戦いは明莉無しではここまで上手くいかなかったかもしれない。


「和真君!」


「【アイテムボックス】」


 明莉が手を振っている。俺はオークロードの魔石をアイテムボックスに回収して、明莉がいる場所まで戻っていく。


「やったね! オークロードを倒したよ!」


「そうだな。明莉さんがいてくれたから、俺は倒せたんだ」


「和真君。そう言ってくれると嬉しい」


 明莉は後ろに手を伸ばして笑みを浮かべた。


「そういえば、和真君オークロードの魔石を空間に仕舞ってたよね。スキルは無い筈じゃ?」


 これに関してはここでは言えないな。家なら家族全員が知っているから大丈夫。


「詳しいことは、家に到着したら説明する」


「うん。家にはこれで行くんだね」


 明莉は指にはめたテレポートリングを見せてくる。俺も指にテレポートリングをはめている。


「そうだ。離れないように手でも繋ぐか?」


「うん!」


 俺と明莉は手を繋ぐ。


「それじゃあ、行くぞ」


「いつでも良いよ」


 家をイメージする。俺と明莉は光に包まれてダンジョンから出るのであった。

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レジェンダリーダンジョン~悪役モブに転移した俺、最弱から最強になってやる~ アンリミテッド @Anrimidetto

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