第6話 初のパーティー

 俺達は武器庫で武器を借りた。俺と竜が剣、明莉と比奈がレイピアだ。


「どうしてレイピアなんですか?」


 比奈が目指している初期ジョブはシーフだ。それで短剣を選ぼうとしていた時に、俺と竜は止めたのだ。

 理由は勿論ある。


「まだレベルが上がってないだろ。そんな中で短剣を選んで戦っても傷付くだけだ」


「でもレイピアは間合いがある。1層~5層までならレイピアでも十分なんだ」


 今の時点でお勧めの武器は剣かレイピアだ。理由は間合いがあるから。レベルが上がれば他の武器にしても良いだろう。


「遠野君と望月君、詳しいんだね」


「そうですね。頼りになります」


「これくらい常識だと思うんだが……」


「まぁ、そこはありがたく受け取っておこう。それで、僕のことは竜って呼んでもらって構わないよ」


 竜は自分の名前で言って良いと伝える。俺も下の名前で呼んで良いことを伝えよう。


「俺も和真で構わない」


「分かりました、竜さん、和真さん」


「私も分かったよ、竜君、和真君」


 これで良いだろう。


「それじゃあ行こうか、東都ダンジョンへ」


 俺達は東都ダンジョンに向かって行った。




 探索者協会に到着する。まず3人が探索者登録をしに行った。その際俺が昨日ダンジョンに入ったことを話してある。

 探索者登録が終わると、俺達はそのまま奥へと進み東都ダンジョンに到着した。


「なんだかドキドキしますね」


 比奈が胸を押さえながら俺達に話し掛ける。その気持ちは分かる。俺も初めて入った時は興奮していた。


「うん! 私はワクワクしてくるよ!」


「僕も興奮してきたね」


「気持ちは分からない訳では無いが、そろそろ入るぞ」


 俺達は夜桜パッドをゲートの上に置く。ゲートが開いて進んで行く。


 1層を進んで行く。やはり人が多いな。休日と変わらないんじゃないか。

 人が多いことに加えて、今日はEクラスの生徒達も入っていく。スライムなんか出て来ないかもしれないな。


「仕方ないか」


「どうしたの、和真君」


「明莉さん、竜、比奈さん。俺に着いて来てくれないか。それとこのことは誰にも言わないで欲しい」


 俺の発言に明莉達は頷いてくれた。隠し部屋まで案内する。


 隠し部屋に到着する。中にはスライムが5匹いた。


「スライムがいます!」


「ここって?」


「隠し部屋だろうね。和真はどうやって知ったんだい?」


 それは俺がプレイヤーだから、とは言えない。ここは適度に誤魔化そう。


「偶然ここを見つけたんだ。良い狩場だと思うから、さっきも言ったけど秘密にして欲しい」


「そうなんだね、分かったよ」


「うん」


「はい」


 竜は納得してくれたようだ。それじゃ、スライムと戦うことにしよう。


「先陣は僕に任せてくれ」


「分かった」


「私のスキルで強化しようか?」


 明莉はスキル持ちか。どんなスキルを持っているだろう。


「いいや、大丈夫。僕の力で頑張ってみる」


「分かった」


「入るよ」


 俺達は部屋に入る。スライムがこちらを向いてきた。

 全員が武器を構える。竜が先陣を切った。持っている剣でスライムを切り裂く。それに続くように明莉と比奈がレイピアで刺突する。俺はスライムを切り裂いた。


 持っている武器が良いのだろうか。一撃で切り裂くことが出来た。

 明莉と比奈もスライムを倒せた。竜なんか2匹倒している。本当にダンジョンが初めてなのか疑いたくなるが、相手がスライムだから。でも剣術が素人には見えなかった。


「竜は何か習い事をしていたのか?」


「いいや、何もしてないよ」


「そうか。剣の動きが素人に見えなかったから、何処かで使ったことがあると考えたんだ」


「そうかい。僕は剣の使い方が分かるんだ。きっと相性が良いからだと思う」


 竜は微笑みながら答えてくれた。剣の使い方が分かるって、天才の発言なんだが。剣にも慣れているような感じだった。だが竜がそう言うなら、これで納得しよう。

 さてと、休憩でもするか。


「スライムが出るまで休憩しよう」


「うん」


「はい」


 俺達は部屋から出る。次にリスポーンするのは、30分後だ。その間、何をしようかな。


「和真君、少し良いかな?」


「うん?」


「ちょっとだけ、ついて来て」


 仕方ない。明莉は今にも何か話したそうにしている。


「分かった」


 俺と明莉は竜と比奈に一言入れてからこの場を離れる。少し離れた場所に到着する。人は俺と明莉以外いなかった。


「ごめんなさい!」


「えっ?」


 謝罪を受けた。これはどういうことなのだろうか。何か言いたそうにしていたのは分かっていたが、なんで明莉が俺に謝る。


「どうして、謝るんだ?」


「だって、私があの時従っていなかったから、和真君は傷付いて。止められなかった……だから、私は……」


 明莉は苦悩しているのか。別に気にすることでもないのに。


「運が悪かったんだよ、俺は。それに嫌だったんだろ、仕方ない」


「でも、その所為で和真君は……」


「傷付いて、更に掲示板で悪口を言われてしまった、か」


「えっ? 掲示板でも……そんな……」


 やっべ、傷口に塩を塗ってしまった。明莉は今にも泣きそうである。


「和真君……本当に――」


「えい」


 俺はもう自暴自棄になって、明莉の頬を両手で掴む。明莉は驚いているようだった。そのまま伸ばしたりする。頬、柔らかいな。

 堪能したら放す。


「和真君?」


 もし明莉が俺のことを考えているなら応えて欲しい。俺が欲しい言葉は謝罪なんかじゃない。


「謝罪は確かに受け取ったし、俺は勝手に明莉の頬に触った。最後に……感謝の言葉が欲しいな」


「っ! それで、良いの?」


「だって、感謝の言葉の方が気分良いから」


「うん。……ありがとう」


 言えたじゃないか。俺も気分が良い。


「どういたしまして。……これでスッキリしたか?」


「スッキリしたよ」


 その言葉通り、明莉の顔色が元に戻った気がした。さっきまではずっと思い詰めているような表情をしていたが、今では微笑みを浮かべている。

 なんとかなるもんだな。


「竜と比奈さんがいる所に戻ろうか」


「うん!」


 俺と明莉は竜と比奈がいる隠し部屋まで戻っていった。


 竜と比奈と再会して、スライムを倒し続けてきた。一番倒しているのは竜だ。明莉と比奈、俺も頑張った。

 おかげで、明莉と比奈のレベルが上がった。竜はまだレベルは上がらないようだ。


「意外と上がらないね」


「そういうもんだろ」


 竜の発言に俺は返す。一方レベルが上がった明莉と比奈は喜んでいた。


「やったよ! レベルが上がった!」


「はい! 私もレベルが上がりました!」


 2人はハイタッチしている。その様子を見ていた俺と竜は自然と微笑んでいた。


「今日はここまでにしようか」


「はい。パーティーを組んでくれてありがとうございます」


 比奈が礼を言う。これは素直に受け取っておこう。


「また、パーティーを組んでくれますか?」


 こ、これはどうしようかな。組んでも良いような、だけど秘密を抱えているからなぁ。


「僕は良いよ」


「私も大丈夫だよ」


「と、時と場合による」


「ありがとうございます!」


 比奈は笑顔で感謝の言葉を出した。本当に時と場合があることを覚えていて欲しい。


 俺達はダンジョンを出て行く。初めてのパーティーによる攻略だったけど……意外と楽しかったな。今日の出来事は家族に共有しよう。

 そんなことを考えながら、帰り道を歩いていたのだった。

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