第5話 イベント

 今日は月曜日。俺は夜桜高校に登校していた。一緒に行く友達や幼馴染はいない。つまりぼっちだ。まぁ、最初だしこんなものだろう。

 俺は昇降口を通る。赤髪の少女と同じタイミングであった。


「おはよう、遠野君!」


「おはようございます」


 明莉は笑顔に挨拶をしてくるから、俺も挨拶で返した。まさか最初の登校で会うのが女主人公の明莉か。


 俺は明莉の少し後ろで付いて行く形になった。教室の前まで到着すると集団が出来ていた。俺は嫌な予感がしたから明莉の隣に並び立つ。


「Eクラスの雑魚共はステータスを見せやがれ! 雑用係くらいにはしてやるよ!」


 教室の前でそんな大声出されても困る、じゃなくて。これは最初の頃に起きるイベントだな。早速巻き込まれそうになるとは。


 こんな大声を出しているのはDクラスの生徒達だ。D~Aクラスは中等部から3年間ダンジョンに潜り続けた、エスカレーター組である。抵抗すると、暴力を振ってくるかもしれない。そもそもダンジョンに行ってないEクラスに相手出来る筈がないが。

 ここは抵抗せずに素直に夜桜パッドを見せた方が良いだろう。暴力で傷付くよりはマシである。


 そんなことを考えていたら、3人組がこちらに近付いて来た。


「お前らもEクラスだな。ステータスを見せやがれ」


「なんでこんなことしているんですか」


「嗚呼? 質問で質問で返すんじゃねえよ。良いから見せろって言っているんだ」


 俺と明莉からしたら見せる理由は無いからなぁ。でも見せた方が良いか。


「はい、これですよね」


 俺は夜桜パッドを見せる。男の一人が夜桜パッドを取った。夜桜パッドを見る3人。すると大声で叫んだ。


「うわああぁ! こいつ雑魚じゃん!」


「ステータス低過ぎ! 弱過ぎだろ!」


「最弱だろ! スキルもし、雑用係にもならないわ!!」


 そんなことを大声で叫ぶほどか? 好き勝手に言ってくれる。

 だが収穫もあった。どうやらスローアップはこいつらには見えていないようだ。本当に不思議なスキルだよ。


 Dクラスの男は夜桜パッドを投げ渡してきた。俺はキャッチする。


「さて、次はお前だ。さっさと見せろ」


「こいつ可愛いし、雑用係にする?」


「へへ、それも良いかもな」


 男達は明莉を睨み付ける。その視線は嫌らしい感情もあった。明莉は嫌がっていた。そういうのを感じ取ってしまったんだろう。

 仕方ない。なんとかするか。


「俺のステータスを見たし、好き勝手言ってくれたんだから、見なくても良いんじゃない?」


『は?』


「どうせ大したこと無いよ? それに嫌がっているんだからやめた方が――」


 言い終わる途中で殴られてしまった。俺は地面に倒されてしまう。


「調子乗ってんじゃねえぞ雑魚が!」


「かっこつけてんじゃねえよ!」


 怒ったDクラスの生徒が俺を踏ん付けてくる。腕を交差させて顔を守った。胴体や足から痛みが走る。


「遠野君! やめて!!」


「はいはい、邪魔しないでね」


「っ!? 離して!!」


 明莉の声がした。嗚呼、俺がヘイトを買って抑え込もうとしたのに、その間に離れれば良かったのに。結局上手くいかないもんだな。

 俺も何やってんだよ。こんな奴らに好き勝手やられてさ。……もう少しだけ抗うか。


 攻撃が止んだ直後に、俺は立ち上がった。


『は?』


「なに? これで終わり? 全然痛くないんだが?」


「遠野君! もうやめて!」


「なんで? 俺はまだ立っているよ。調子にも乗ってる。お前達なら……そうなるよね」


 Dクラスの男達は俺に近付いてくる。明莉を押さえていた生徒も参加してくるみたいだ。明莉には早く逃げて欲しい。

 いやぁ、沸点低くて助かったよ。おかげで上手くいきそうだ。俺も構えるだけでもしよう。


 男が拳を俺の顔面狙いで放とうとした瞬間だった。


「やめろ」


 教室の前で声が聞こえた。俺も明莉もDクラスの男達もそちらを見る。

 教室の前には男主人公の奏汰がいた。対峙しているのは体格の大きい坊主頭。彼の名前は郷田ごうだ秀明ひであき。Dクラスのリーダーである。

 2人は睨み合っており、火花が散っていた。


「俺は郷田秀明。お前の名前は」


「萩原奏汰。最強を目指している者だ」


「最強か、面白い。奏汰、お前にチャンスをやる」


「なに?」


「2週間後、闘技場で俺と戦え。もし勝てたら、Eクラスにこれ以上のことはしねえよ。代わりに俺達が勝ったら、お前達は雑用係になって、俺達の指示に従って貰うぜ」


「……分かった、受け付けて立つぜ」


 受けるのか。これは大変なことになったかもしれない。


「戻るぞ、お前ら!」


 秀明の号令によって戻っていくDクラスの生徒達。俺と対峙していた連中も舌打ちしながら戻っていく。取り合えずこの場はなんとかなったか。

 体中が痛いな。保健室で見て貰うか。


「遠野君!」


「俺は保健室に行く。明莉さんは教室に戻っててくれ」


 明莉が何かを言い出す前に俺はこの場を去る。後ろでは明莉の話し声が聞こえた。


 それにしても奏汰はこの決闘を受けるのか。この決闘は難しかった覚えがある。確か2週目を想定して作られていた筈だ。勝っても負けても話は進む訳だが、ここは現実。どうなるか、少し心配だな。


 俺はこの後保健室の先生に怪我を【ヒール】で治して貰った。




 俺達Eクラスは夜桜高校の施設を回った。

 闘技場と武器庫、学校で使うであろう施設を回る。


 闘技場は大きく広かった。その闘技場は2つある。予約制であり、使える日は限られている。

 武器庫には様々な武器があった。剣、槍、斧、レイピア等の武器や杖等もある。レンタルが出来て、借りる時は表紙に名前を書く必要があるようだ。


 こうして俺達は施設を回って、最後は食堂に到着した。

 食堂の前で東谷先生が話す。


「今回はここで解散とするが、課題が1つある。それは探索者協会で探索者の登録をすることだ。協会に行き探索者登録をした後は自由に行動して良い。そのまま帰るなり、ダンジョンに入っても良い。くれぐれも周りに迷惑をかけるなよ。解散」


 ということで解散になった。


 みんな活気に溢れていた。それは初めてダンジョンに入れるからか。


 そんな中、俺は一人で昼食を食べていた。みんなは仲間を集めているようだが、俺はその中には入れて貰えないだろう。

 何故なら教室の前で最弱認定されてしまったのだ。大声だったから聞こえていたのだろう。保健室から戻ってきた戻ってきた際の視線が痛かった。

 まぁ、今回の課題は既に終わっている。


「ここ、良いかい?」


 おっと、人が来たようだ。


「良いですよ……って竜君か」


 銀色の髪がふわっとしており、髪色と同じ瞳。レジダンでは登場しなかったのが不思議なくらいのイケメン。

 望月もちづきりゅうが俺の真正面に座った。


「やぁ、怪我は大丈夫かい?」


「保健室の先生のおかげでなんとか怪我は治った」


「はは、災難だったね」


 結構フラットに話し掛けてくるんだな。話しやすい相手ではあるか。


「それにしても、俺に話し掛けてくるなんて大丈夫なのか? パーティーの方は?」


「大丈夫だよ、君と組むつもりだから。それより夜桜パッドを出して、掲示板を見てくれ」


 えっ? 俺と組むってどういうことだ? それに掲示板か。まずは確認がしやすい掲示板から見よう。

 俺は夜桜パッドを出して掲示板を見る。するとそこには『Eクラス最弱! 遠野和真!』というものがあった。中を覗いてみると『最弱の生徒』、『学校の恥』、『雑魚中の雑魚』と好き放題書かれていた。しかも嘘まで書かれている。ただ、写真は載っていないからそこだけは安心かな。

 恐らく盛り上がっているのはDクラス辺りだろうな。書いた奴はあの3人組である可能性が高い。


「嗚呼、悪い意味で有名人入りですか」


「大丈夫か?」


「まぁ、大丈夫だろ。噂なんてすぐ消えるもんだ」


 噂の範疇で収まるならそれに越したことはない。ただ、俺の動きに影響を与える可能性があるか。


「そんな俺と、本当にパーティーを組むのか?」


「勿論だよ。僕は君とパーティーを組みたい」


 竜の目は本気に見える。この誘い、断る理由は無いな。


「分かった。組もう、竜君」


「呼び捨てで構わないよ、和真君」


「ならこっちも呼ぶ捨てで構わないぞ、竜。よろしく」


「嗚呼、よろしく」


 俺と竜でパーティーを組むことになった。今日は1層だけだろうし、2人もいれば大丈夫な筈だ。


「遠野さん、望月さん」


 近くで声がした。声のした方を見ると、五十嵐比奈と明莉がいた。


「どうしたんだい?」


「実は私達、ダンジョンに行くんですが、人数が欲しくて。遠野さんと望月さん、一緒にパーティーを組んでくれませんか?」


 パーティーを組みたいのか。明莉がこちらを見る視線が何処か……気まずそうに見えるのだが。

 それにしてもパーティーか。俺は竜を見る。


「うん、良いよ。和真も良いだろう」


 正直、女主人公である明莉と手を組むのは……いや、こういう考えこそ駄目だな。ここは現実なんだから。

 俺は明莉と比奈を見て答える。


「良いぞ」


「ありがとうございます!」


「ありがとう」


 比奈と明莉は笑みを浮かべ合う。……なんか明莉の笑みがぎこちないと思うのは、俺だけだろうか。


「それじゃあ、パーティーを組みましょう!」


 俺達は夜桜パッドを出して、パーティーを登録した。これをすることでパーティーを組んだことが認められる。

 パーティーを組んだ俺達は、昼食の後、武器庫へ向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る