第2話 家族と決意

 レジダンでは主人公やカスタムキャラでプレイするのだが、その時は決まって寮生活を送ることになっていた。

 しかし俺こと和真は寮では無くて家からの登校だった。


 俺は家の前まで到着する。家は店を営業しており、『トオノショップ』と看板には表記されていた。四角い建物である。


 家族構成は4人家族。実の母親は亡くなっているが、再婚している。その時、義妹が出来た。

 最初は慣れない環境の中、必死に妹と仲良くしようと必死だったっけ。今では大の仲良し兄妹である。


 ……これは俺にはある筈が無い記憶だ。

 意識が目覚めたのが入学式、ログアウト機能が無い、運営に問い合わせる項目も無い。存在している記憶。


 今は家に帰って、自分の部屋で考えるか。


 俺は店の入り口から帰っていく。店では、妹が手伝いをしていた。母の姿は無い。

 店の中は服がいっぱいある。これらは中古品や母が自作して作った服である。


「おかえり、お兄ちゃん」


 銀髪のロングヘアに琥珀色の目をしている。妹の遠野美琴みことが、制服にエプロンを付けている状態で出迎えてくれた。

 俺の大切な妹である。可愛い。


「ただいま、美琴」


「どうだった、夜桜高校は?」


「うーん、後で話すわ」


「そうなんだ。話、ちゃんと聞かせてね」


「勿論だ」


 美琴と話していると安堵感が広がっていく。大切な妹だからだろうな、安堵するのは。




 俺は店から家に帰り、自分の部屋に到着する。部屋の中は綺麗で、物は纏まっていた。

 鞄を置いて、椅子に座り込む。夜桜パッドを出してログアウト機能と問い合わせ項目を探す。


 ……数分後、俺は夜桜パッドを机の上に置く。


「無い、か」


 どれだけ探してもログアウト機能と問い合わせ項目は無かった。


 俺は、とある考えが頭の中に浮かんだ。それはここが現実であることだ。ゲームにしてはリアル過ぎるのではなく、本当に現実だとすれば辻褄が合う。ログアウト機能も問い合わせ項目が無い理由にもなる。

 イベントを通して、ここに転移してきた可能性が高いな。そして遠野和真になった。


 それと遠野和真なんだけど、俺と一体化した可能性がある。一体化して、和真の気持ちも分かるようになったかもしれない。


 分かるようになったものも多いが、結局これからどうするか。


「和真、ご飯よ~!」


 いつの間にか夕食時まで過ぎていたらしい。考えるのは後にしよう。ご飯を食べようか。




 俺はリビングに到着する。机の上には美味しそうなカレーがあった。父は既に座っていた。俺も座る。美琴と母がスプーンと飲み物を持って来てくれた。

 家族全員が座ると、手を合わせる。


『いただきます』


 家族はカレーを食べ始める。俺もカレーを口の中に入れた。


「っ!」


 俺は涙が出てくる。とても、とても美味しかった。

 和真じゃない頃の俺の両親は幼い頃に亡くなっている。叔父叔母の元で育てられた。何十年振りだろうか。家庭の味を思い出した。


「か、和真大丈夫か!?」


「だ、大丈夫!?」


「お兄ちゃん?」


 心配してくれる家族。そんな家族に囲われて、大切にしたいと心の底から願った。


「大丈夫だ、取り乱した」


「……お兄ちゃん、学校で何かあったでしょ」


 鋭いな美琴は。まぁ涙を流したのは本当に美味しかったからなんだ。


「このカレーが美味しくて、つい涙が出てしまったんだ。それと……うん、学校でもあったかなぁ」


「話してみて」


 家族が俺を見てくれている。話してみよう。


「俺、クラス、学年で成績最下位かもしれないんだ。自己紹介でも失敗しちゃって、ステータスも一番弱いと思う」


 俺はありのままを話した。


「それがどうした? まだまだ始まったばかり、そう気負う必要はないさ」


「お父さん」


「レベル5まで頑張ってみろ。もし駄目でも構わないさ」


 父は俺を励ましてくれた。


「そうよ。もし駄目でも和真には沢山の道がある。何者にだってなれるんだから」


 母は俺が何者にもなれると、可能性を示してくれた。


「お兄ちゃん。未来は不確定で何が起きるか分からない。だから、今は弱くても未来は強くなっているかもしれない。最強にだってなれる筈だよ。だから、諦めないで」


「お父さん、お母さん、美琴」


 俺は諦めていたかもしれない。悪役モブだから、強くなんてなれないって。だけど、そうじゃないんだな。

 俺は遠野和真だ。そして遠野和真は一人の人間。だから、可能性はいくらでもあって良いんだ。


「ありがとう。俺、抗ってみるよ」


 言葉を聞いた家族は微笑んでいた。本当に良い家族だ。




 夕食を終えて、お風呂に入り、歯磨きをした後、俺は自分の部屋で横になっていた。

 もし明日になっても和真のままなら、レジダンの世界が現実になったと見て良いだろう。


 俺は手を伸ばす。


「本気で生きて……」


 ここでも目指してみるか。


「最強になってやる!」


 拳を握り締めた。


 最弱から最強になってやろうじゃないか。

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