睡眠の重要性が連日TVで取り上げられ、効果があるのかも分からないグッズも販売されている昨今。
どうやら「獏(ばく)」というペットを抱いて寝ると、よく眠れるらしいですよ?
獏はとてもかわいい。字も下手だけど書けるし、寝るときはくっついてくるらしい。
翌日の朝は、この世の全てから祝福されたみたいに、心地が良いそうです。
獏のおかげで仕事ができるようになりました!!
恋人ができました!!
毎日、気分がいいんです!!
いいことずくめ……
だといいんですけど
古典から描かれ続ける「夢」という現象のふしぎ。
夢と現、離れているようで重なりあって存在する二つの世界。行き来する奇妙な幻獣のもたらす結末は
夢を売って幾ばくかの小銭を稼いでいる(ほんとに小銭!)ものとして、興味深く読ませていただきました。
夢の売り方にも種類はあると思うのですが、このお話の佐藤さんは獏にやる飼料として夢を売ってしまうのです。獏に夢を食べられた人は一体どうなってしまうのでしょう……?
落語家の噺という体裁で語られるその読み口は絶妙。テンポよく進んでいく物語についつい引き込まれてしまいます。
そして、辿り着く先は、誰にでも起こりうる、けれど自分には起きないと信じてやまない、人生の破滅なのです。
悪夢という誰もが思い悩むテーマから、思いもよらない絶望へと展開するホラーコメディの傑作。
噺家やってるとねぇ、お客様から「そんな上手い話、よく思いつくねぇ」って言われるんですよ。
ですけど、噺っうのは、てめえの頭でこさえるものですから、てめえが思いつくことしか話せません。寝てる間に噺を書いてくれる誰かさんが居りゃあ別ですが、そんな知り合いはおりません。ですから「事実は小説よりも奇なり」って、噺より現実の方が奇妙だって言われちまう始末で。
そこにいくと、夢には敵いませんわ。勝手に浮かんできて、自分が思いもよらぬ方向に進みやがる。まぁ大抵は話になりませんが、時には面白い噺もあるもので。
その夢を……いや、こっから先は話しちゃいけねぇ。お品書きがございますから、そこをご覧くださいな。まぁ、そんなことをすると、どうなるって……
ちっと考えれば分かる、そりゃそうなんですよ。寝て見る夢は思いもよらぬ方向に行きますが、起きて見る夢はてめえが勝手に見てるんですから、噺のようにお定まりのところに落ち着いちまう。
しかし、てめえが考えることの行き先はてめえには分からないものでねぇ。特に人の欲ってやつは。
起きて見る夢は、寝て見る夢よりタチが悪いものでして。まぁ、悪夢ですなぁ。
え? そんな悪夢見たくない? そう言わないでさぁ。お手間もお時間も取りません。ささっとお読み願えませんか。え? 「お聞き」じゃないって? それを言うのは野暮でして。
その後に悪夢を見ても、あたしゃ買いませんけど。