さそり座の針に心を刺されて

主人公の西野景は美術部の彼女、北見ありさに出逢うところからすべては始まります。注目したいのは、絵画と星座と二人の心情とが次第に繋がっていく美しい描写です。

景くんが見つめた青褐の空に光る一番星「ポラリス」――北極星を意味するこの星は北見さんの存在を示唆するだけでなく、彼にとって心の道標・拠り所として準える心境変化をもたらす描写として、とても優れていると感じます。

ありささんが青藍で描くさそり座の針先「シャウラ(Shaula)」――彼に教えた最初の星として、深く心を突く刺激的な印象として心を打ちます。

読了後に再び冒頭へ戻れば、ループしていることに気づかされる作り込まれたストーリー。これはまるで、北極星『ポラリス』を中心に回り続ける星座群を連想させ、物語に深みを与えている点も特筆したいです。

二人の心情を絵画の世界を介した星座に込めて、その深淵をとこしえの温もりとして表現されるロマンティックな筆致。冷たく遠い夜空でも、蠍の燃えるような瞬く熱を想い、肌を重ねる二人の存在に魅せられることでしょう。

天空に散らばる数多の星座の中でも、シャウラほど泰然として鮮烈でありながら情念に刺されるような恋はないのではないでしょうか。