冬休みも終わりに近づいてきた頃、兄が連れてきた今村美月という知らない女性。すでに両親公認の間柄に妹である主人公の葉月だけが取り残されてしまう中、様々な感情に揺れ動くヒューマンドラマです。
兄と九つ歳の離れた高校二年生の葉月は、兄を突然現れた美月に取られたという先入観を抱いてしまい、自ら心の壁をつくり、せっかくの会話の機会に水をさしてしまいます。年頃の女の子の心情がありありと浮かび上がる二人のやり取りから強く共感出来ることでしょう。
とても興味深いのは、葉月が抱く負の感情を自身が作っている最中の卵焼きが、まるで代弁するかのような心理描写です。
ぐるぐるに混ざり合っていて、それでいて均一である必要はない取り止めのない感情。
人間の内側の柔らかいところも、それを守ろうとする硬いところも、ない混ぜに包んで成形していく。
気持ちや表情、心の変化を卵に閉じ込めてできた卵焼きは、まるで自身の分身のような存在として感じることができ、物語に深みを与えている点でとても優れています。
そして自ら心の殻を破った葉月はそれらを切り分け、兄や美月に食べてもらい思いを共有するシーンは胸を打つほど印象的ですね。
形や大きさがぎこちなくとも、やがて円かな家族になっていく。タイトルの意味がラストで結ばれる素敵な読後感を得られますよ。
一味違った卵焼きを、ぜひご賞味ください。