ニホンさん

 お暇なら、都市伝説を、ひとつお話しいたしましょう。



 愛智県玉枝市の、ある道の話です。

 日が沈み、人通りが絶えたあとに、その道を歩いていると、か細い光を放っている街灯の下に、ニホンさんが立っているそうです。

 ニホンさんは、髪の長い、若い女性の姿で出て来ます。美人なのですが、その髪は乱れ、顔にはいくつもの傷があります。着ているのは、白いワンピースです。お腹のあたりが真っ赤に染まっている、ロングのワンピース。

 それでも十分怖いのですが、ニホンさんの恐ろしさは、その両手に持っている、二本の包丁です。


 ニホンさんに出くわしたら、来た道を引き返すべきですが、怖いもの見たさに近づいた人の話によると、彼女は地面に目を落としながら、次の文句を繰り返し、ぶつぶつとつぶやいていたそうです。


「包丁を上向きで刺すのと、下向きで刺すのでは、罪の重さがちがうと言うけれど、それでは、包丁二本を刺したら、罪の重さはどうなるのかしら。ああ、だれか、教えてくれないかしら」


 ここでまちがっても、ニホンさんの質問に答えてはいけません。聞かなかったふりをして、そそくさと逃げ出すことをおすすめします。

 好奇心から、質問に答えてしまうと……。



 ニホンさんの正体ですか?

 聞いた話によりますと、その近所のマンションで、浮気を疑う恋人に、刺し殺された女性がいたそうです。

 凶器は二本の包丁とのことです。

 刺し殺した犯人がどうなったかは聞いていません。

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