第5話 襲撃3

 ここは、北方戦線、連邦国軍第一特別機動連隊野営地第三ブロック。エリー機兵大隊ベースキャンプ設営四日目深夜。


 現在、エリー大隊は混乱に乗じた敵襲を受けている。


 クリフと敵兵一名は、機兵整備ブロックからかろうじて脱出に成功、散開していた各隊が、クリフを中心に集まろうとしていた。

「第二分隊確認出来ず! 残存者にて脱出経路確保! 防御陣形取って後退する!」 クリフを抱えている敵兵が叫び指示を出す。


 エリーは周辺を感知して、敵兵の残りは指揮官らしき男の周辺に居る15人ほどと確認した。

「逃しはしない!」


 エリーの姿を確認した、敵兵はすぐさま10人程が前に出て、アサルトライフルを斉射して来る。

 エリーは、それを無視するかの様に猛然と距離を詰めて、斬撃を連続して放った。


 前に出ていた敵兵達は、アーマシールドプロテクターを切り裂かれ血を吹き出しながら、宙に舞、吹き飛んで行く。


「こんな理不尽な事が・・・・・・」

 クリフは、目の前の状況が夢の中の世界の様に感じられていた。そして、クリフの目から涙が溢れる。


 クリフを囲み残りの敵兵は、エリーに対して防御体制を取っている。


「あんたは、何者なんだ! どうしたらこんな芸当が出来るんだ!」

 敵兵は叫ぶ。


「我は、セレーナ ブレッドリー! お前達は、手を出してはならぬ相手に手を出した、もう終わりにしよう」

 

 エリーは、言い終わると、軍刀を左斜め上段に構え猛烈なスピードで敵兵に突っ込んで斬撃を放った。その時、一人の兵士が何かを抱え、エリーにニヤついた。

「化け物め! これでも耐えらるか!」

 そして、閃光と凄まじい爆発が発生する。


 エリーは爆風に耐えきれず後ろへ飛ばされる。エリーは爆発の瞬間に危険察知スキルが発動、魔力を増大させ魔力防御壁を強化して事なきを得たものの敵兵をロストしてしまった。

(ここまでか、二人ほど逃したが、エリーの身体がもう限界に近い無理はできんな)


 エリーは周辺を感知して敵兵がいない事を確認する。そして、慌てた様に士官用宿泊テントに戻た。


 テント内に入り、エマのそばまで行って、エマを神眼で視感して無事を確認する。

「大丈夫だ」

「良かった、役目を果たせた・・・・・・」

 エリーはゆっくりとエマのそばに倒れ込む。そして、銀色の髪は紫色に変わり、瞳の色も朱色に変わった。


 しばらくして、テントの外に懐中電灯の光が1つテントの入口に近づく。

「エリー少佐! エリー少佐!」

 テントの入口から女性の叫び声がする。しばらくすると、テント内に灯りが灯る。


「ひい――っ!」女性の悲鳴。


 テントの入口で敵兵の死体に驚いているセーヌ、しばらく呆然として奥に人の気配は感じて拳銃のホルダーから拳銃を取り出しセフティーを外し奥へと進む。


「エリー少佐!」

 

 セーヌがテントの奥まで入って来て、倒れているエリーに気付き肩を揺する。

「うん・・・・・・、何とか無事の様です」

 エリーが微かな声で答える。


 セーヌがエリーの防弾ジャケットの血痕を見て動揺している。

「救護班を直ぐに呼びます!」


 エリーはセーヌの顔を見て、微笑んで言う。「怪我は無いから、大丈夫」


「え――! そんなに出血して、早く処置を!」


「だから大丈夫、撃たれたのはエマさんの方だから」


「エマ副長が? 撃たれた・・・・・・」

 セーヌが瞳を痙攣させ動揺している。


 エリーは上体を起こし、セーヌの右手を掴んだ。「エマさんも、取り敢えず大丈夫、安心して、だからセーヌさん、落ち着いて下さい」

「優先すべきは、現状把握と負傷者の救護です。士官は陣頭指揮を取らねばなりませんが・・・・・・」


「まずは、エマさんを運びましょう」エリーは立ちあがろうとしたが、足がおぼつかない。そして、目が回りベットに一旦腰を下ろす。

「セーヌさん、ゴメン、大丈夫じゃ無いみたい、ちょっと休憩して良いかな」

 

 エリーはセーヌの瞳を見つめる。

「セーヌ大尉、大隊長から命じます。只今より副長代行に任命しましす。先ず、救護所設置、負傷者救護、連隊本部との連絡をお願いします。無線機は使えますか?」


「私も緊急電を受け帰投したばかりなので、詳細は未だ把握しておりませんが、大隊本部は使えそうにないです、機兵整備ブロックの無線機は使えそうなのでそちらで対応します。そして、本部の当直者は全員ダメな様です・・・・・・」セーヌが視線を落として悲しい顔をした。


 エリーはセーヌの肩を抱き寄せる。

「うん・・・・・・、悲しいね・・・・・・、アラン中尉もいたんだよね、私も悲しい、だからね、これ以上悲しまないためにね・・・・・・助けられる命を救おうね。お願いだから」


 セーヌは視線を上げ顔を少し赤らめる。

「はい! 申し訳ありません、任務遂行します」セーヌはエリーから離れると敬礼しテントから慌てって出て行った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここは、北方国境戦線、北東塹壕合流地点。エリー大隊ベースキャップより5キロ程離れた場所。襲撃から二時間経過していた。


 ここに、待機していた、帝国諜報特殊工作隊、支援担当第五分隊員が脱出した二人の手当てをしている。

「クリフ大佐、ご無事で・・・・・・」

 第五分隊長がクリフに語り掛けるが、クリフからの反応はない。

 

 クリフはここに着いてから一言も発していない。状況は一緒に脱出した副官が簡単に説明していた。


「追っ手は来るでしょうか?」

 第五分隊長が副官に尋ねる。


「多分無いと思うが! 早く帝国側へ移動するに越したことはない」


 第五分隊長が副官を見て言う。

「伺った話ですが、私にはとても理解出来ません! 私達は帝国最強を自負しておりました。それが何故! この様な事に・・・・・・」


 副官は冷静さを装いながらゆっくりと言う。「お前は、第二分隊長と師弟関係だったな、残念ながら奴はもういない、生き残ったのは私達二人だけだ」

「私とて、夢を見ている様だった、たかが一人の女剣士に、十分程度で・・・・・・、我々精鋭が壊滅したのだ」

「銀髪の女剣士は特殊複合アーマをまるで紙を切る様に切り裂いた、そして、ライフル弾を全く受け付けない・・・・・・!」

 

 第五分隊長の細い指は、副官の手を優しく握る。副官の手が小刻みに震えているのがわかったからだ。「大丈夫ですよ、ここは安全です」

 

 そう言って、副官の頭を胸に抱き寄せ、頭を撫でる。

「大丈夫・・・・・・ですよ、怖かたのですね、悲しかったのですね、私にはわかります。あなた苦しみが、悔しさが・・・・・・」

 そしてブルーの瞳が副官を優しく見つめ、口は少し微笑みを浮かべている。帝国諜報作戦隊、唯一の女性作戦リーダー、第五分隊長、セリカ マクガイヤ少佐である。

 

 副官がポツリと言う。

「お前は・・・・・・、優しいなぁ。今回現場に同行しなくて良かった」

 

 セリカは両手を離し、副官を優しく押し戻す。「ヒルト中佐! ちょっと元気なったみたいですね、お尻とか触らないで下さい」

 副官は苦笑いして言う。「そんなつもりはない、誤解だ」

 

 セリカはすまし顔で言った。

「わかってます、冗談です」

 

 セリカは姿勢を正すと副官に敬礼する。「只今より、帝国軍補給拠点まで移動します!」そして、周辺の各隊員に指示を出す。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る