第6話 後始末1

 ここは、北方戦線、連邦国軍第一特別機動連隊野営地第三ブロック。エリー機兵大隊ベースキャンプ設営5日目早朝。


 エリー大隊は、帝国特殊部隊の襲撃を受けてから5時間ほど経過していた。


 エリーはあれから直ぐ、医官と衛生兵が来て診察を受け、エマと一緒に診療テントへ連れて行かれた。それから、二時間程猛烈な睡魔に襲われ意識が無かった。


 そして、ベッドの上で横になっているところに連隊長がやって来て揺り起こされる。

「エリー少佐! 大丈夫なのか?」

 連隊長がベット横に立ちエリーの顔を心配そうに見つめていた。

「はい、大丈夫です、動けないのでセーヌ大尉に任せておりますが」


「そうか、エリーが無事で・・・・・・」

 連邦国軍第一特別機動連隊長、ミーナ ジョージア大佐、ジェーン ジョージア教官の従姉妹に当たる。赤髪のポニーテールのすらっとしたスタイルの良い美人だ。


「だが、国軍の最強剣士が来てくれて助かった、セレーナ大尉だったか? 所属はわからんが多分、上から派遣されたのだろう」

 

 ミーナがエリーを見ながら言った。

  エリーは少し困った顔をする。(なんか変な事になっている様な感じがしますが?)


「エリーは見ていないのか? セレーナ大尉を! 凄っかと言っていたぞ!」


「セレーナ大尉・・・・・・?」

 エリーがミーナの顔見て首を傾げた。


 ミーナが目を細めてエリーを見つめる。

「ボビー技術大尉が言っていたぞ、そう名乗ったと、それと国軍大尉の防弾ジャケットを着ていたとも」


 エリーは驚い顔をしてミーナを見て言う。「セレーナ大尉は、何処にいるのですか?」


「わからない! 戦闘後、姿を見た者はいないそうだ。もちろん、負傷者、戦死者なども確認したが居なかったそうだ」


 ミーナは一瞬怪訝な顔をして言った。

「エリーは、知っているのではないか?」エリーはミーナから視線を逸らして、ベットから起き上がる。


「エマさんは、意識戻りましたか?」


「あゝ、向こうのベットにいる・・・・・・、それが不思議な事に銃弾の痕跡が残っていないのだそうだ、出血の後はあるのだがな⁇」


「そうなんですか、不思議ですね・・・・・・」エリーはミーナと目を合わさない。

 

 ミーナは、エリーの肩に右手を乗せて、エリーの朱色の瞳を覗き込んでから、エリーの耳に口を近づけて小声で言った。


「エリーが、国家中枢院に関わっているのは、何となく判っている、だから深く立ち入ることはしない。私だって命は惜しいからな、辻褄合わせは任せておけ心配するな」

 

 エリーは少し困惑した表情を見せてから、直ぐに微笑んでミーナの顔を見る。

「はい、連隊長よろしくお願いします」


 診療テント入口付近から声がする。

「エリー少佐! 起きられましたか」

 セーヌがこちらを見て、一旦敬礼して近寄ってくる。「連隊長も来られていましたか、現状況報告を致しますが、宜しいでしょうか?」セーヌは再度連隊長の前で敬礼した。


 エリーはベットの上で敬礼をして、セーヌの顔を見る。(若干疲れは見えるが、落ち着いているみたいで良かった)

 セーヌは姿勢を正してエリーを見る。

「では報告致します! 確認済、大隊被害状況ですが、人的被害、戦死者12名、重症者8名、中軽傷者47名、計68名となっております!」

「次に、物的被害 重装機兵長期運用不能機体2機、軽度損傷機体3機、計5機、歩兵自走車両3台損傷あり、設営テント3張り損傷破棄、重装機兵整備固定ラグ2台損傷大使用不可、以上が現時点での被害状況です!」

「尚、現状、技術整備科、通信情報科、第三中隊、第五中隊に士官、下士官に欠員が発生、早急な再編成が必要と具申致します」


 セーヌは報告が終わると敬礼して、強張った顔をして視線を下げる。


 ミーナがセーヌ肩に手を置いって言う。

「あの銀髪のセレーナ大尉がいなかったら。被害はこんなものでわすまなっかだろうな、私の予想では、大隊は壊滅的打撃を受けていたはずだ・・・・・・、帝国はエリー大隊を潰すつもりで精鋭部隊を送り込んで来た。だが、失敗した。死んだ者にはすまぬがこれだけ被害が軽微だったのは奇跡に近い」

 

 ミーナ連隊長は、セーヌを見据える。

「綺麗事を言うつもりはない、私達は軍人であり、そしてここは戦場だ、誰も明日の命などわからん! 明日はお前も私も死んでいるかもしれん! だからやれる事をやって生き残れる方策を取らねばならん。死なないためにな、それが上のものの責任だ!」


 そう言うと、ミーナはセーヌの背中を優しく叩く。「今、やるべき事やれ」


 それを聞いてエリーが慌てて、ミーナの耳元で囁くと、ミーナが顔を一瞬引き攣らせてすまなさそうな顔になる。

「すまない、セーヌ大尉、恋人が戦死したのだな・・・・・・、心中は察するが、上官として言える事はそれだけだ」


「連隊長、お心遣い感謝致します! それでは任務に戻ります!」

 セーヌはミーナ連隊長の顔を見て少し無理した様に微笑んだ。そして、セーヌはミーナ連隊長に敬礼すると、向きを替えテントから出て行った。


「エリー少佐、余計なことを言ったかもしれんが、勘弁してくれ」ミーナ連隊長がすまなさそうに言った。それを見てエリーは機嫌悪そうに言う。

「いいえ、問題ありません。上官としては当然ですが、もう少し優しくお願いします」

 

 エリーはミーナの瞳を見つめ、「死んだ者は、生き返る事はありません。でも、生き残った者も、繋がりのあった者は心に傷を負っています。なので、今後のためにも配慮は必要だと思います」


「わかっている、今後は少し配慮するから勘弁してくれ」

 そう言って、ミーナは、エリーからエマの寝ているベット方に視線を向ける。

「エマ副長は、命には別状は無いとのことだ、重度の貧血状態だそうだ。しばらく職務は無理だろう、それに先の報告の通り、他の士官も戦死者、負傷者が出ている大隊の臨時の編成が必要だ。とりあえず第一大隊と第二大隊から応援は出すが」


 「そうですね。大隊が機能不全のままでは困りますよね、今日中に仮編成しないと」エリーは困った様な顔をして考え込む、何せエリーは承認するだけで、エマ副長に部隊運営は、ほぼ全て任せていた。

(エマさんがいない間、私だけでは無理でしょうね、多分?)


 ミーナ連隊長はエリーの考え込む顔を見て、少し意地悪顔をして言う。

「エリー少佐は文官能力が余り無いから、優秀な副長が必要だな。しかし、幼年学科も士官学校でも首席なのに不思議だな?」


 エリーが目を瞬きさせて、ミーナ連隊長を見て、嫌な顔をする。

「記憶力はかなり良いですけど、細々した事が嫌いなんです。私、これと思ったら周りが見えなくなって一直線なので・・・・・・」


 ミーナ連隊長が笑みを浮かべて、エリーの頭を撫でる。

「だな、エリーはイケイケだからな」



 

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