少女大隊長エリーの日常〜女神様の加護を受けて最前線で無双する〜

かわなかさと

国境北方防衛戦線編

第1話 ベースキャンプ

 ここは、連邦国軍第一特別機動連隊野営地第三ブロック。エリー機兵大隊現地配置2日目夕方。


 ここ北方戦線は、開戦より半年帝国側に押し込まれ、約30km程後退していたが、先の連邦国攻勢により元の国境付近まで押し返していた。

 軍服姿の少女が北側の国境沿いの兵陵部を眺めていた。


 紫髪色のポニーテール、朱色の大きな瞳、顔は小さく整い、幼さを残した顔立ち、身長は165cm、体型は細身だが適度に鍛えられている感じがする。軍服には肩に階級章が付いている。灰色ベースに黒枠、シルバーの線二本に銀星1つ、少佐だ。

 この美少女が国軍特別第一機動連隊、第一機動大隊、通称エリー大隊の隊長、エリーブラウン少佐である。

「動きは無い様ですが、警戒はして置いた方が良さそうですね」


「エマ副長を呼んでください」エリーが伝令の下士官に声をかける。


「はっ! 今連絡します。お待ちください!」


 エリーは、反対側の野営テントの方に歩きながら考えている。(最前線送りとは、私も飛んだ貧乏くじを引いたものだわ、参謀本部はここをどうしたいのかしら?)


 エリーが野営本部テント前に着くと、女性の将校が駆け寄って来る。

 「エリー少佐、御用でしょうか?」


 女性将校はカーキ色の軍服の上にダークグレーの防弾ジャケット着用している。ジャケットの左胸には、機兵章と略式階級章が目立たない色で付いている、黒枠の中に黒線一本、星3つ、階級は大尉だ。


「エマ副長、今晩の警戒は第一中隊にお願いしたいのですけどよろしいかしら」


 エマは、ハットしてエリーを見る。

「それは、エリー少佐も出ると言うことでしょうか!」


「もちろん!」エリーは澄ました顔で言った。

 

 エリー機動大隊は、重装機兵中隊四個、普通歩兵中隊一個の五個中隊編成大隊である。第一中隊はエリー直属中隊でエリーが隊長を兼務している。


 エマは嫌な顔をしてエリーを見る。

「私はミーナ連隊長から、大隊長は大事な戦闘以外極力出すなと、指示を受けておりまして、ですので今回の件、承諾しかねます」


「貴女の直属の上官は誰なのですか」

 エリーは微笑んでエマを見つめる。


「エリー少佐ですが、この命令はミーナ連隊長指示ですので従う事は出来ません」

 エマが厳しい口調で言った。


「エリー少佐は、ご自分の立場をご理解していない様なので言いますが、少佐はこの国の英雄であり、無敵の武神、戦場の女神、勝利の象徴なのですよ! もしも、命を落とす様なことにでもなったら、この戦線は瓦解するでしょう! そして気になる噂もあります、帝国軍で【グランの魔女】討伐専任部隊が編成されたとも」


「大袈裟過ぎると思います」

 エリーが呆れた様に言った。


 エリーは、エマを見ると目が吊り上がり顔の色が真っ赤になっている。エリーは(かなり怒っているみたいね、しょうがない、これ以上はね)

「エマさん、理解しました。では、第三中隊にお任せします、それで、よろしいかしら」エリーが諦めた顔で視線を落として言う。


「はい、それでよろしいかと」

 エマは安堵した表情になり右手を挙げ、伝令を呼ぶ。

「発、エリー大隊長、宛、第三中隊、本日20:00より翌5:00まで警備行動発動! 中隊長以下各員準備任務に当たる様に伝令せよ!」

 伝令下士官が命令書を復唱し、敬礼して機兵整備ブロックへと去って行く。


「エマさん厳しいよね、前みたいに一緒に買い物したり、ご飯食べたりしたいよね、なんかもうエマさん完全に軍人になて・・・・・・、私寂しいなぁ」


 エリーが少し寂しそうな顔で言う。それを見てエマはエリーのそばに寄って肩を抱き寄せる。

「エリーさん、任務なのでしょうがないんです、私だって以前のように笑いながら楽しくやって行きたいです。でも今は、我慢して下さい、お願いします」


 エマはエリーの頬に顔を寄せ、暫く沈黙する。「エリーさんは笑顔が一番ですよ、美少女が台無しです!」


「エマさんありがとう・・・・・・元気出たよ」

 エリーはエマから離れ、テントの中に入る。大隊本部テント内部は二十畳程ある。中央にテーブルが置かれ、テーブルの周りに十脚の椅子が置かれている。一番奥に大隊長専用のテーブル椅子が置かれている。テント入口付近には連絡員用の椅子が二脚、作戦将校用テーブル椅子があった。


「エリー少佐報告が一件あります」

 エマが後ろから言う。

「何でしょう」

 エリーは手前の中央テーブルの椅子に座った。エマもエリーの隣に座り、A4サイズのバインダーをエリーに渡す。

「今回、補充予定の機兵パイロット資料です。今回、士官学校繰上卒業者が一名おりました。2名補充予定になっております」

「でえ、エマさんの見解はどうなのです」

 エリーがエマの顔を見る。


「今回は期待出来そうなのが、一名おりますが、ちょっと問題がありまして・・・・・・」

「どんな問題?」エリーが微笑んでエマを見る。

「それが、外務卿のご息女なのです、機兵搭乗適正ランクは高いのですが、参謀本部からも危険な任務は避ける様にと内々の通達もありまして、厄介な感じです」


「もしかして、アンジェラ様かしら?」

 エリーが嬉しそうに言う。

「お知り合いですか?」


 エマがちょっと驚いている。そして、エマは気を取り直して言う。

「今回のご息女の件は、国民へのプロパガンダも含まれていると思われます。旧上級貴族でも最前線で国のために戦っていると国民へのアピールすることが目的ですね」


「ふうーん、それは厄介だね」


「ちょっと整備ドック行って来るね」

 エリーが椅子から立ち上がり、テントから出て行く。


◆◇◆


 エリーの愛機 魔導重装機動歩兵(通称重装機兵)レンベルが佇んでいる。

 全長16m重量20t秘匿兵器【天空の雷】を搭載している。魔導複合特殊装甲を外装に纏い、塗装は朱色、ショルダー部のシールドが白色に塗装され、機兵撃破マークが表示されているその数128、実に連邦国戦果の1/5を一人で挙げている。


 ただ、この機体レンベルはエリー以外操縦出来ない、機体パイロット認証はもちろんだが、魔力[マナエナジー]適正量が半端なく消費するため、並のパイロットでは起動すら出来ない。通常機体より魔導融合動力炉出力は5倍あるだがパイロットの消費マナエナジー魔力量は二から三倍と大きく、初期起動時には五倍以上の魔力を流せなければ機動すら困難な機体だ。

 

 そして、秘匿兵器【天空の雷】は発動に要する魔力量は実に五百から一千倍、魔力増幅装置付きとはいえ、絶対に普通の人間では困難な領域。

 そして、発動照射すれば、周囲30km四方が焦土消滅してしまう決戦兵器だ。

 

 しかし、発動照射後、エリーは意識を失い十日間以上の眠りについてしまう、魔力マナエナジーの充足期間が必要となる。


 当然ではあるが、【天空の雷】発動には連邦国軍参謀本部、参謀総長承認許可が必要である。


 発動は過去に1回、約1か月前、帝国帝都東部の重工業地帯ヤルトは【天空の雷】により大閃光と共に一瞬にして消失した。帝国側は兵器の詳細は把握し切れていないが、その凄まじい破壊力に驚愕、諜報機関を総動員して情報収集を行なっている。


 愛機レンベルは、通常兵装、魔導弾グラネードランチャー、魔導弾ライフル、魔導ソード装備している。そして、【天空の雷】発動魔導コアは背面バックパック内に格納されている。


 エリーは薄暗い整備ドック内で愛機レンベルを見上げ微笑みを浮かべている。


「嬢ちゃん! 気味悪い笑浮かべて立ってんじゃないよ! 幽霊でも居るかと思ったよ」

 整備ドック入口から男性の声がする。


「ボビーさん、なんてこと言うですか!」

 エリーが声の方向に顔を向けて怒った様に言った。


「レンベルはとんでもない機体だが、整備もとんでもなくシビアだからな、ここじゃ、俺ぐらいしか最終調整出来ないだぜ嬢ちゃん、俺がいなかったらコイツは動かせないんだ。だから、もっと敬えよな!」


 男性は白色の整備用軍装繋ぎ服を着ている左胸には技術兵科章、略式階級章、白地に黒枠、真ん中に黒線一本、星は3つ入り、階級は大尉だ。

 この男性は、エリー愛機レンベル専属整備責任者、ボビー ドルミン技術大尉だ。


「最新型ラムザⅣ型が、うちに2機配備されるらしいんだがどうなんだ。詳細仕様書がまだ到着してないんだ!」


「そんなことは、エマさんにお願いしているので、私は承認サインするだけですからね、把握してないですね」


「嬢ちゃん、副長に頼り切りじゃダメだろー、エマちゃん倒れるぞ!」


 

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