ハグしてバグ
もうオレは紗希がかわいいという一心で、恋か家族愛かわからないけど、とにかく紗希が愛おしい。
キモいよな…そんなにいちゃんさ。
まぁ、でもいいんよ。
キモくてもオレは紗希と一緒に暮らせるだけで幸せなのだから。
しかーし‼︎
そんな生活がいつまでも続くわけがなかった。
…
うん。知ってたよ。
だって…紗希…県外の大学行きたいんだもんね…。
ええ、承知してございます。
…
ダメなんていう権利…オレにはないって。
そりゃ…笑顔で送り出すのが家族でしょ。
だから…だからオレは紗希がここの大学に行きたいって申し出てきた時、笑顔で
「おう!いってらっしゃい‼︎」
って…言ったよね。
それから、紗希が引っ越しの日までオレはなんとか必死に笑顔を貫いた。
でもさ…、出発の日紗希は…オレにギュッと抱きついてきたんだよね。
久しぶりにさ。
紗希は、オレの心が読めるのかもしれないな。
なんとも情け無い、にいちゃんです…。
でも、お金は稼げます‼︎
だからさ、成人式に着る着物はオレに買わせてってお願いしたんだ。
そしたら、笑顔で紗希は
「うん、楽しみにしてる!ありがとう。おにいちゃん」
って笑った。
…
あの笑顔をオレは心のアルバムにずっとしまっている。
紗希は、大学生になったのだけれど…
忙しいと思うよ?
でもさ、毎日連絡してきてくれるんよ。
オレたちはカップルか?ってくらいに連絡を取り合っている。
なんなら、たまに待ち合わせして食事したりする。
そんなに近場でもないから頻繁に会うことはできないけどね。
…
こんなにカップルみたいなやり取りしてるってことは…彼氏と別れたのか?
それとも…彼氏とも連絡とりつつオレにかまっていてくれているのだろうか…?
だとしたら、オレってお荷物じゃね?
なので紗希には、そんなにこまめに連絡しなくてもいいんだよ?っていうんだけど…
「いいの!したいの!でも、おにいちゃんが迷惑なら少し静かにします。」
なんていうんだもんなー。
迷惑なわけないじゃんか。
食事をした日は、家の近くまでオレはいつも送るんだけどさ、なんか紗希がどこか寂しげなんだよね。
だからオレは昔、紗希に元気をもらったように紗希を抱きしめた。
手汗握りしめてドキドキしながらさ。
だって、キモいから離れてって言われる可能性大だからさ。
そんなことを覚悟の上で抱きしめてみると紗希は、すんなり受け入れてくれた。
なんなら…ウェルカムだ。
「落ち着く…あったかい。」
と、オレにギュッと抱きついてきた。
紗希…。
そんなこと言われたらオレ…毎回ハグしたくなるじゃん。
なんなら返したくないって心情なんですけど…?
紗希は、いったいどんな感情でそんな寂しい顔してたん?
そして、オレに抱きつかれてなんでそんな純粋そうにしがみつくん?
「紗希…もしかして彼氏とうまくいってない?」
オレは思わずそんなことを口走っていた。
するとオレに抱きしめられたまま紗希は、
「彼氏なんて今まで一度もいたときない」
と少しムクれた。
?
え?
彼氏いないんだ?
なんだかオレはホッとしてしまった。
ただ成長してかわいくなっただけなんだと。
彼氏効果だとずっと思っていたけど、彼氏いないんだ?
マジか?
と安心。
まぁ、紗希は部活と勉強で頑張ってきたからこれからあっという間に彼氏ゲットするんだろな。
そうなったら嫌だなーって親心みたいな変な感情がまた押し寄せた。
「おにいちゃんは?彼女…できました?」
いきなりの質問にオレは驚いた。
オレ⁉︎
まぁ、聞かれたから聞いただけなのだろう。
そもそもオレに彼女ができようができまいが、紗希にはきっとどうでもいいことなのだから。
「いないよ。」
と紗希を抱きしめたまま答えると紗希は、オレにギュッと抱きついて
「よかったぁ」
と小さな声でそう言ったのである。
え?
オレは一瞬勘違いしそうになったよね。
そんなこと普通…好きな人に言われたらさ…そりゃもう男なんて生き物は、野生の動物化してしまいますって…。
でも、オレは…勘違いヤローではないのでなんとか理性を保った。
紗希は、いもうととして安心したのだろう。
うん。そうに決まっている。
…
こうしてオレは紗希に元気を与えるつもりでハグしたのだが、オレの脳がバグしたことは、言うまでもないのでありました。
続く。
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