遠慮

 だいぶゲーム配信も、こなれてきた今日この頃。

 

 

 なんか最近…質問とかが来るようになったんだけど、それ以外にもなぜかオレへの相談が増えた。

 

 

 まぁ、今までもきちんとコメント返しみたいなことをしていたから、返す人と返さない人がいるのは申し訳ないってことで、相談もきちんと返すようにしていた。

 

 そしたら、なんかゲームよりも相談が増えてしまったので、ここはもう別の相談所を設立しようと考えて、リスナー配信することにした。

 

 

 ゲーム配信も、もちろん併用して。

 

 

 そしてこちらもなかなか順調な出だしだ。

 

 

 それから数ヶ月後

 

 

 だいぶこなれたオレは、いつものように配信していたのだが、どうやら外で雷が鳴っていたようだ。

 

 それに気づかず配信していたら、紗希がオレの部屋をノックしてきた。

 

 

 ちょうど配信が終わったので紗希を部屋に招き入れた。

 

 

「どうした?」

 と紗希に聞くと紗希は、

「あのね…雷が鳴ってて…コワイんです。二人きりの家族だから、おにいちゃんにしかこんなことお願いできなくて…」

 なんて恐る恐るオレに訴えかけてきた。

 

「あー、じゃあ今日は特別オレの部屋に一緒に寝るか。にいちゃんは、ここに寝るからベットに寝ていいよ」

 とベットをポンポンすると紗希は、

「ありがとうございます」

 と申し訳なさそに、でも少し嬉しそうに布団へ入った。

 

 紗希、かわいいなぁ。

 

 

 

 

 その時、オレはまったく気づいていなかった。

 

 配信を切ったつもりが切れていなかったことに。

 

 

 ネット上では、

 ,なに?配信切り忘れ?,

 ,わざとじゃね,

 ,…,

 ,違くね,

 ,これガチじゃね,

 と大騒ぎになっていた。

 

 ,二人暮らしって言ってたくね,

 ,オレも聞こえた,

 ,応援したくなってきた,

 ,オレも,

 ,うちも,

 ,あたいも,

 といつのまにかたくさんの投げ銭がポンポンポンポンときていた。

 

 

 それに気づいたのは、朝になってからだった。

 

 

 

 

 そして数日後、なんか学校でもその話題がよく出ていて、声がオレに似てるってなった。

 

 

 ほんとは、オレーー‼︎って言ってみんなを驚かしたい気持ちもあったんだけど、でも…

 

 でも、そんなことすると妬む人とかもいて…もしかしたら紗希に危害が加わる危険性もあったからオレは違うよーと、はぐらかした。

 

 

 

 

 でも、配信のおかげでオレたちの生活は安泰だ。

 

 

 そうこうしている間に紗希は、もうそろそろ中学生になろうとしていた。

 

 

 紗希が中学生なんて、なんか信じられないなー…

 

 

 オレって…もしかして親心がうまれてたりするんかな…。

 

 

 制服を纏った紗希は、ランドセルを背負っているあの光景とは、まったく別のものに思えた。

 

 

 紗希がどんどん大人になっていく…。

 

 

 まだまだ紗希のこと知らないことだらけなのに、知らないまま紗希は…オレの元を去っていくのだろう。

 

 

 そう考えると、なんだか心がモヤモヤした。

 

 

 オレ…もう感情が父親じゃん。

 

 

 おとうさん感が溢れ出るオレをよそに、紗希はお姉さん感が増してきた。

 

 

「紗希、制服よく似合ってるよ」

「あ、あふれしいです」

 と意味のわからない日本語で返された。

 

 あふれしい?

 

「なにその言葉…オレ知らない…」

 と真顔でいうと紗希は、

「嬉しいとありがとうが脳内で混ざってしまいました」

 と恥ずかしそうに俯いた。

 

「あー、そっか。紗希は、かわいいな」

 と頭をくしゃくしゃってした。

 

 そしたら、紗希が

「子供扱いしないでください。危険物と同じくらい子供扱いは、危険ですからね。」

 とムクれた。

 

 危険物って…

 

「ふっ、やっぱり可愛すぎ」

 と頭をナデナデすると紗希は、オレのわき腹をツンってした。

 

「おっ…」

 思わず変な声が出てしまった。

 

 その声を聞いて紗希が少し勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

 

「紗希ー…やりやがったな」

 オレは紗希の勝ち誇った顔を見てお返しのくすぐりをしてやった。

 

 

 そしたら、まさかの

「ふきゃっ♡」

 なんてかわいい声を出したから…オレはめっちゃ恥ずかし気まずくなってしまった。

 

「あ、ごめん…やりすぎたわ」

 

 …

 

「いえ…大丈夫です」

 と微妙な感じな空気になった。

 

 

 だから気を取り直して、ご飯にすることにした。

 

 

 二人で作るのが、もう日課になっていた。

 

 カレーが完成して向かい合い食事した。

 

 

「紗希は、何部に入るの?」

「え、帰宅部です」

 

 まさかのこたえにオレはびっくりした。

 

「なんで⁉︎」

「だって…部活は、お金がかかります。わたしは、朝夕新聞配達するのです。そして高校に行きます。寮のある高校があるんですよ」

 と淡々と話す紗希。

 

「えっ、なんで寮?」

「だって…自立しなきゃです」

 と紗希は、笑った。

 

 でも、心からの笑いじゃないってオレはすぐにわかった。

 

「部活は入りなよ。好きなことして青春しなきゃ、にいちゃん許さないよ。新聞配達はしなくても大丈夫。配信で生活まかなえてるからさ!オレは、紗希のにいちゃんだからな?みくびるな」

 と登録者を見せてやった。

 

 

「すごい…ですけど…」

「いいの!おにいちゃんが働くから紗希は、そのまま青春を謳歌しなさい」

 その言葉に紗希は、やっぱり申し訳なさそうに頷いた。

 

 そしていきなりオレの肩揉みをはじめた。

 

 

 …

 

 え?

 

「なんで?紗希…なんでいきなり肩揉み?」

「だって…おにいちゃんにばっかり背負わせてしまっているので…せめて背中を軽くと思いまして。」

 

 なんて言ってくれちゃうんだよねー…。

 

 まったく紗希は、遠慮深いなぁ。

 

 

 そんな紗希を見れば見るほど愛おしく感じるのでありました。

 

 

 続く。

 

 

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