第2話 魔法少女の日常

私は三角関数の授業を真面目に受ける。数学が苦手だから…


「レイア…怪人がいる。早く出撃を…」

アストラはテレパシーで声を掛けて来た。一般人には見えない。


「パス」


「キミは一般人が心配じゃないのか?」


「アナタは私の将来が心配じゃないの?」


「心配ダヨー」

 白々しい…



<ゴォォォ>


今日は戦闘機が飛ぶ音が良く聞こえる。

それだけ被害が出ているのだろうか?


いつもはこの学校の前で女子を待ち伏せている、イケメンのバイク乗りもいないし…


「今回の件を解決したら、ロボットの導入を考えても良いよ!」



私は立ち上がった。

「先生、早退します!」


ザワザワと女子の陰口が聞こえる。が、知らん顔をした。


いつも通り屋上に行き

「変身!」

私の服装は黒のゴスロリ衣装に変わり、魔法少女となる。


「じゃあ行きましょうか!現場に着くまで状況説明をお願い。」


こうして私は現場に飛び立つ。


◇◆◇


「ハァハァ…キツイなライダーよ…」

赤いヒーローが、上半身が人型ロボット、下半身がバイクのケンタウロスの様なヒーローに話かける。


 得体の知れない3メートル程のスライム型の怪人…

 無数の姿に変形し、武器で攻撃しても全くダメージが入らずに倒せずにいた。


「既に殲滅ロボットの準備は大丈夫か?殲滅ジャーよ!」


「当たり前だライダーよ。住民は避難させ今から殲滅戦だ。

ロボットには既に殲滅ブルーと殲滅ピンクが乗っている。


後は時間稼ぎの俺たちが逃げれば、砲撃により怪人を殲滅出来る!」


「乗りな!」

 ライダーは赤いヒーローに自身のバイク(お尻の部分)に乗るようにポーズを取った。


「恩にきるぞ」


そう言って、レッドはライダーのバイクに乗り込む。

 ライダーに抱きつき、降り落ちない様にしっかりとつかむ。


「ったく…俺は女子に乗られるのは好きなんだがな…

 男も案外イケる口かもしれねぇ…」

 ライダーはそう呟いて、猛スピードで発信する。


「FIRE」


すると遠方から無数の砲撃が怪人に向かって飛ぶ。


「ふははは、これが人類の叡知の力!クズを殲滅せよ!」

 ライダーにしがみつきながら、火の海となる街を眺めて言った。


「さすがロボットの圧倒的な火力!これなら俺たちヒーローに負けは無い!」

 予想以上に圧倒的な光景にライダーも勝ちを確信する。


「ライダー…それはフラグだ!だがフラグを立てても、絶対的な力に負けはないがな!はっはっは」

そう言いながら、レッドはライダーと笑い合う。


 そうして敵は倒される。本来ならば…


「超再生…発動…損傷回復90%」


「コピー・砲撃!」

すると怪人の方から無数の砲撃が殲滅レッドとライダーに飛んで行く。

 それは全方位からの砲撃でとても避けられる攻撃ではなかった。


「ぐあぁぁぁぁぁあ…」

その砲撃で2人は吹き飛ばされて変身が解ける。辺り一帯は火の海と化す。


「よくも2人を!」

巨大なロボットはビームサーベルを持ち、怪人のいた場所に突っ込む。そして怪人を真っ二つにした。


「へへ…やったか?」


「超再生…損傷回復100%」

「コピー・ビームサーベル!」

ロボットが持つビームサーベルの2倍の大きさのビームサーベルを持ち、ロボットを切りつける。


「え?」

ロボットはあっという間に真っ二つに両断された。


◇◇◇


「………何これ?」

 ボロボロの街…そこら中に倒れているヒーロー…

 そして街中を破壊し続けるスライム型の怪人…


「もっと速く来るべきだった…」

 後悔していた。たった一人の怪人に街を壊滅させられた。


 警報が鳴らなかったから、完全に油断していた。


「少女よ…逃げろ…キミ一人では絶対に…絶対に勝てない…」

 殲滅レッドは朦朧とする意識の中、私に声をかける。きっと彼の善意だろう。


 今のままなら死ぬと分かっているからこそ、一人でも多くの人間を助けたいと願うヒーロー。



「マジカル☆ステッキ」

 私は唇を噛み締めながら、左手にマジカルステッキを握る。はらわたが煮えくり返っていた。

 自分自身のふがい無さに…


 私は怪人のもとにゆっくりと歩んでいく。今すぐにでも飛びかかりたい…

 それでもヒーロー達がやられた相手だ。状況を冷静に分析しなければならない。


「砲撃」

 怪人は突如として砲台を無数に召喚し、私目掛けてレーザーや砲弾を射出し続ける。


「効かないわね…」

 マジカルステッキでその攻撃を受ける。

 マジカル☆ステッキの効果で、シード…つまり魔力による攻撃を無効にする。

 周りが焦土と化すほどの強烈な一撃…


 でも…なんて雑な砲撃なのだろう?自分ならばもっとうまく扱うのに…

 まるで扱いなれていないかの様だ。


「ビームサーベル!」

 巨大なレーザーの剣が私を消滅させようと頭上から降り降りる。通常の人であれば、一撃で消滅するだろう。


「効かない!」

 そのビームサーベルをマジカル☆ステッキで両断した。


 にしても、ロボットみたいな攻撃を仕掛けてくるな…

 大多数殲滅型のような…殲滅ジャー達が使っているような…


 私が来て正解かもしれない。他の魔法少女ならば…死んでいた…


「???」

 怪人は何が起きたかわからないようだった。ここまでの強力な攻撃を行えば、大体の敵は倒せたのだろう

 私が怪人の攻撃を耐えているのが理解できないのかもしれない。


<シュッ>


 私は目にも見えない速さで怪人に接近した。今まで歩いていたのは相手を油断させるためもあるがもう十分だ…



神の右手感度100万倍

 私は右手で怪人に触れる。そして左手のマジカル☆ステッキで思い切り殴る。


 つまり感覚を遮断し相手は死ぬ。


「おやすみなさい。」

 決着がついたかのようだった。私は怪人に背を向ける。


 油断していた。いつも通り一撃必殺だと思っていた。


「損傷回復20%」


「気をつけろ!そいつは攻撃が効かない上に、相手の技をコピーする!」


 助言があった。けれど振り向く頃には遅かった。


「回復40%…コピー…神の右手」


「え?」


 私は急いで右手を自身に当てる。


「感度100万倍!触手攻撃」

 敵の怪人はスライムの様に変形し無数の触手を使い、私を葬ろうとしてきた。


「死ね。」


 怪人の鋭い触手は私の体を貫こうとする。貫かれずとも触手に当たれば私の感覚は閉ざされて死ぬ…



「ねぇ?レディには優しくしろって言われなかった?」

 触手は私の体を貫くことはなかった。感度を0倍…つまり攻撃がまったく効かない状態になっていたのだ。


 感度が0でも攻撃は効くと思っている人もいるかもしれない。魔法のお陰だ。

 考えるな…全て魔法が解決したのだ。多分。


 けれどお気に入りのコスチュームは破かれた。ちょっとムカついた。


 これで分かった。今回の怪人は一撃必殺で仕留めなければ、体力が回復し攻撃をコピーする。


「感度…1億倍…」

 急接近した後、私はマジカル☆ステッキで再度相手を殴る。


 感度1億倍で殴った場合…痛みに耐えきれずに相手の神経が爆発する。

 つまり相手は痛みを感じる前に消滅する。


 感度が1億倍でそれはおかしい。と思う人もいるかもしれない。

 魔法なのだ。考えるな!感じろ!


「今度こそ…おやすみなさい。」

 そして相手の怪人は爆散し消滅した。



(大丈夫?よね?)

 ディザイアシードまで今回は砕いたのだ。さすがに消滅から復活することはないだろう。

 こうして私は無事に怪人を倒す。街の被害は甚大だが…


「ありがとう!魔法少女よ!」

 ヒーロー達は私を褒めてくれた。今日は褒める一般人はいない。それだけ避難が必要な強い敵だったのだ。


「ニチアサ枠に敗けはない。正義は必ず勝つ。」


 何を言っているのかわからない。あなた達はニチアサ枠でも、私は深夜枠だ。

 けれどこうしていつも通りの平和な日常に戻るのだ。


 平和じゃないけれど平和な日常。そんな日常はヒーローや魔法少女無しにはありえないのだ。


◇◆◇


「くそ…会心のデキだったスライムベースのキメラがやられたか…」


暗く佇む一室…

円状のテーブルでいかにも凶悪な顔で風格がある老人…総統閣下は呟く。


「超回復能力を持たせた筈ですが、映像を確認するに『No.13』にやられたようです…」


「ナンバーズか…だが今回の件で分かった事がある。」


「分かった事?」


「あぁ。そのナンバーズは学生では無い!学生ならば授業があるからな!」

総統は自信満々に言い放った。


「授業を抜け出したのでは?」


「授業を抜け出す様な不良が魔法少女は嫌じゃ!」


「ですが…街の平和の為なら…」


「街の平和以前に自分の将来の心配をしないならば、人間としてダメじゃろ!


 まず夢を見るな!現実に向き合えと言ってやりたい。」

悪の総統が孫思いのおじいちゃんみたいな事を言ってるんじゃないぞ?とその場の者は思った。


 だが後に凶悪な顔に戻る。

「仮にそやつが学生ならば、学校の友人か街の人々を選ぶか2択を迫りたいのぅ…くっくっく」

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