第11話 壊れ始める日常
「今日は変なライダー来てないな…安心安心。」
いつもなら校門の前に立つ暇な男…スメラギはいないようだった。
それもそうか…今日は雨だ。
バイクや車は滑りやすい。視界が悪いため、乗り物は事故の確率が上がる。
平和な午後の時間。眠気を我慢しつつ真面目に授業を聞く。
「ガガガ…」
マイクが入る。何かを放送するようだった。
「えぇっと…マイクテスト・マイクテスト…
この学校は乗っとりました。
もし誰か一人でもクラスを抜け出したら、そのクラスの人間は皆殺しにしまーす!」
(は?)
状況の理解が出来ずにいると、先生の目の前に怪人が突然出現する。
カメレオン型の怪人が突然出現する。
カメレオン型の怪人は、現れるや否や先生の足を銃撃する。逃げられない様に…
「きゃぁぁぁぁあ。」
悲鳴が響く。それもそうだ…状況の理解が私自身できていない。
一般の生徒ならなおさら理解が出来ないだろう。
(カメレオン型か…つまり何人がこの場にいるのかが不明…)
最悪な状況…私の変身を封じられたも同然だ。
変身と共にこの場の敵を殲滅しなければ、他の人間が殺される。
(私がこの学校にいることがバレた?それとも他の魔法少女がいるのか?)
完璧な計画的犯行。この学校だけか…それともこの学校だけか…
席に座りながらも、冷静に考える。まずこの場でするべき事は…
「うわあぁぁぁぁぁ…」
逃げようとする女子生徒を…
「逃げるな!この場から…動くな!」
普段は絶対にあげない声で精一杯に叫ぶ。こんな事をする生徒としては認知されていないけど…
最悪ドアに手をかけた瞬間に、その生徒を制圧する準備もして…
〈ドンドンドンドン〉
他のクラスから銃声が聞こえた…恐らくは…誰かのクラスで…
「おまえがこのクラスのリーダーだな…?」
カメレオン型の怪人は銃を私に向けて私に声をかける。
(いえ…違います…)
けれど…自身に注意を向けてくれるのが一番安全だ。
「は…」
私は口を開けようとする。が…
「はい…そうです!コイツが私たちのクラスのリーダーです!」
いつもは…いつもならばクラスを率いて私に嫌がらせを行うリーダーは…
ここぞとばかりに私をこのクラスのリーダーに仕立て上げた…
「ならば…貴様らが勝手な行動をとれば、このリーダーが真っ先に死ぬことになる!」
最悪だ…けれど幸いだ…
私がこの場の人間を守れる盾の立場に変わった。
こうして私が人質になりながらも数時間が過ぎる。
もう夕方…帰宅時間も近い。
敵は動かなければ何もしないようだった。
乗っ取った割に注意が散漫だった。
本来ならば…ヒーローがとっくの昔に助けに来てくれる筈だ…
窓の外を見るが、ヒーローは助けに来る様子はない。
つまりは何らかの事態が発生しているということだ…
この状況は…自分自身でどうにかしないといけない…
(この状況を打破する方法…不特定多数の怪人を一度に殲滅する…)
「ねぇ?質問なんだけど…この状況はいつになったら終わるの?何が目的?」
私はカメレオン型の怪人に質問してみる。
こういう質問は同意を得る為に仲間に合図を送ることがある。
それによって目線が動くならば、その目線の方向に仲間がいる可能性が高いから…
少なくとも時間が経過するにつれて、ヒーローたちはこの場所にやってくる確率が高くなる。
つまりはそれまでに目的を果たす必要がある。だがこの様子では目的の検討がつかない。
「肝が座った勇敢な嬢ちゃんだ。」
目線は動かないまま…いや…私を観察している。銃を私に向けてトリガーに手をかける。
恐らく私が隙をついてクラスの人間を逃がすとでも思ったのだろうか?
「そうだなぁ…夜になったら帰してやる。その頃には目的は達成しているだろうしなぁ。
逃げるなよ。多分学校が一番安全だ!」
そうか…ヒーローがここに来ない意味…
街に出払っているからだ…ライダーも同じ理由だろう…
今こうしている瞬間にも、街の人々は怪人に襲われている訳だ。急いで街に向かわなければ…
かと言って、街に出向こうと変身すればこの学校の生徒は死ぬ。
「意地が悪い…」
私はつい呟いてしまった。敵が私に与えた問題…
いや…魔法少女に与えられた問題…
『街を見捨てるか?それとも学校の人間を見捨てるか?』
最悪の事態…
ホープズシードを出そうにも、私はこのクラスで見張られている。
万一変身すれば…クラスメイトは無事では済まないだろう…
「ねぇ?この学校にぃ…怪人は何人いるのかなぁ?」
突然甘ったるい声がクラスに響いた。
(この声は…)
「教える訳がないだろう?まぁ知ったところで対処などは出来ないだろうがな!」
「あら…そうなんだぁ…」
「ん?誰だ?誰がこの場にいる?」
「知る必要はないよぉ。」
「ぱっくん。」
カメレオン型の怪人の影が伸びて、その上半身を食べる。
「え?」
クラスのみんな驚いた様子だった。私も驚いていた。
血塗れの怪人の下半身だけが立っている異常な事態。
「きゃぁ ああああああ。」
クラスの女子の悲鳴が響く。
「No.4…『無色の影』」
私は呟いた。世界最強の魔法少女の一人…綾小路 サクヤ
「貸しひとつねぇ…No.13」
そう言いつつも、姿は見せない。
いつの間にかこのクラスに隠れていたカメレオン型の他の2人の怪人も影に食べられる。
ディザイアシードを残して…
影が伸びてそのディザイアシードはひとつに集まる。
怪人のディザイアシードが赤黒く光る。
「時間無いし本気でいくねぇ。生贄魔法・影の晩餐会」
その瞬間、この学校を影が…漆黒の闇が覆い尽くした。
「この学校の怪人は全員食べてしまいましょうねぇ。」
そして実体のないはずの影が、私の身体中を撫で回す。怪人か人間かを選別するかのように…
「ぱっくんちょ。」
一瞬真っ黒だった空間も元通り明るくなる。
下半身だけの怪人の姿も消えた。
生贄魔法はディザイアシードを一回きりで使う荒技だ。
その魔法は魔法少女の奥義と言っても差し支えない。
「はい。終わりねぇ。」
一瞬の出来事だった。影は…この学校の全ての敵を喰らい尽くした。
喰らい尽くした後で、私たちのクラスにゆるふわロングヘアーのスタイルの良いお姉さんが現れる。
助けて貰って言うのもあれだが、私が苦手な人間。
「もう安心よぉ。この学校の怪人は殲滅したからねぇ?」
お嬢様みたいなおっとりした声が耳に張り付く。
それにより助かったと自然と安心感がわく。
その声を聞いてクラスの皆も安心したようだ。
「ファティマの予言でねぇ…No13が身動き取れなくなるからってぇ…」
クラスの女子はざわざわと話している。何を言っているかわからないようだった。
「ねぇクレアぁ?あなたぁ?街の多くの人間より、学校の人間の命を取ろうとしたでしょぉ?
こんな事になるから学校は行くの止めた方が良いって止めたのにぃ…」
私の正体がバラされる。
「クレア……?まさか…」
流石のクラスメイトも私の正体を知ったようだった。
もう隠してはおけないか…クラスの人間と距離をおいても、正体がバレればもうこの学校にはいられない。
また転校をしなければならなくなる。
「みんな…黙っててごめんね?」
「変身」
私は魔法少女に変身した。金髪で…右目に眼帯を着けて…黒いゴスロリの服を着て…
「見ての通り…私は魔法少女なの…だから…」
「おまえが…おまえがここにいるからこんなことが起きたのか?」
リーダーは口を開いた。名前は覚えていない。だってこの学校に来たのも2ヶ月前だから…
「おまえのせいか?私たちがこんな目にあったのは!何なんだよ。何でここに来た?」
「みんな…ごめ…」
私が謝ろうとしたときだった。
「クレアぁ?もう行くわよぉ…あなたが街に向かわないせいで事態は深刻だしぃ…」
サクヤはニコリと私に微笑む。そう言って影の中に消えていった。
去る瞬間に何かを呟いて…
こうして私は街に出向く。より多くの人間を助けるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます