第10話 まさかの裏切り…返せよ私のロボット!

「ここが練習場…」

 私は殲滅ジャーから貰ったロボットの試運転に練習場に来た。


 ロボット運転の為の国営の練習場だ。夢にまで見たロボット操縦にワクワクしていた。

 一応名目上は私は殲滅ジャーの見習いとして登録されたそうだ。


 これでロボット操縦がバレても違法ではなくなるとの事だった。


 広大な大地…

 怪人型の的…空中に浮いた輪っか等試運転をするための設備が一通り揃っていた。



「嬢ちゃん…とりあえずはロボットを壊さないことだけ気をつけてくれ。」

 殲滅レッドはロボットの操縦室にいる私にアドバイスする。


「了解。」

 この日の為に、学校帰りに毎日基地のシュミレーターで練習をしてきた。

 対策は万全だ。だが実際はシュミレーターよりも操縦が難しいらしい。


 まぁそれは練習していくうちに慣らせば良い。


 まずは実弾演習。複数並んでいる怪人のターゲット目掛けて銃を撃つ作業。


「ターゲットロックオン!&FIRE!」

私は全てのターゲットに外すことなく銃弾を当てる。もはや天才的な才能だと自画自賛したいほどだ。


「うんうん。良い感じだ!だが実践では的は動くからな…」

 殲滅ジャーの人も優しく見守っていてくれる。


「よし…もう一回銃撃の練習だ。」

 ロボット操縦が楽しい。このままずっとここにいたいくらいだ。



 だが悲劇は起きた。


「そこまでだ…登録ヒーロー名:殲滅ジャーだな?」

 私が乗るロボットを囲む様に、ロボットが4体飛んでくる。


「え…はい。どうかしましたか?」

 敵?かと一瞬思ったが、多分違う。

 犯罪を取り締まるタイプのロボットだからだ。


「君たちは今年の税金を払っていないのと、ヒーロー業の届け出をしていないぞ。


 だからロボットを使用しての演習は禁止されている筈だが…」


 知らんけど…そうなの?


「おかしい!しっかりと税金は払った筈だ!まさか…最近流行りの詐欺か?」

 殲滅レッド達は予想外の事に詐欺だと疑っていた。


 それもそうか…税金なんて滞納出来る筈もない。


「いや…詐欺じゃない。私は国家公務員だから安心してくれ。


 税金の滞納を知らせる赤い封筒は見ていないのか?


 最近送っても無視されてムカついていたから、毎日送っていたんだぞ!


 国家権力を乱用して毎時間1通は赤い封筒が届く嫌がらせをしていたのだが…」


 嫌がらせかよ…大人ってやっぱり陰湿だな…



「そんなに届けば気づく筈だ…殲滅グレー?おまえはこの事を…」

 殲滅レッドが殲滅グレーに質問をしようとしていた時だった。


「グレーの気配が…消えた…だとっ?」

 殲滅グレーはいつのまにか消えていた。


「確信犯か…」

 取締りの人も何か悟ったようだった。


「殲滅グレーが逃げた。とりあえず捕まえろ!」

 私たちはその演習場でグレーを探す。が、見つからない。

 ステルスゲームの要領で、隠れられそうな場所を隈無く探したが、奴はいなかった。


 そうして半日が過ぎて、グレーは見つからなかった。ロボットは税金を払うまで没収となった。


◇◇◇


「この日を楽しみにしていたのに…私のロボットが…」

 私は血の涙を流す。この日をどれだけ楽しみにしていたか…


 殲滅グレーは見つけ次第…コロス…


 殺意に満ちながらも、私たちは今後の作戦会議ということで繁華街に向かうことにした。



「うわぁぁっぁぁぁ…くっそぉぉぉぉ…」

 何やらとんでもないヤバイ声が聞こえる。何かトラブルでも発生したのだろうか?

 私たちは声が聞こえる方まで駆けつける。


 するとパチンコ店で、良い歳こいた大人が4人ほどの警備兵に連れられて追い出されていた。


「ちくしょー…フィーバーしない詐欺台に台パンしただけだろ?俺は悪くない!」


 ………殲滅グレーの中の人発見…


「みなさーん…聞いてください。俺はこのパチンコ店に会社の金1000万注ぎ込みました…


 けれど全く還元してくれない詐欺店でーす。気を付けてくださーい。」


 …………殲滅グレーは払うべき税金の分を、どうやらパチンコで溶かしていたようだった。



 殲滅レッドはそれはもう大変怒っていた。カンカンだった。

 殲滅ピンクに至っては、もはやゴミを見ているような侮蔑した表情だった。


 殲滅レッドは警備員から殲滅グレーを引き剥がす。

 そして思い切りぶん殴った。


水平みずだいらてめぇ…探したぞ?」


「え…火村ほむら?どうしてここが分かったんだ?」

 レッド(の中の人)の姿を見た瞬間だった。細かい動作はわからない。



 私でも見逃すくらい素早い動きで、グレー(の中の人)はいつのまにか土下座をしていた。


「悪かった…ギャンブルを辞めようと思っていたんだ…


 けれど…辞められなかった…」

 彼は泣いていた。嘘泣きか本当に泣いているか分からなかった。


「グレー…おまえはもうクビだ。いや…もう俺も疲れたよ。殲滅戦隊も解散しよう。」


「え…待ってくれ…俺は…」


「俺もヒーローを引退する。お互い限界だと思っているだろ?」


「俺は…ヒーローをしたい…」

 殲滅グレーは悲しそうに言う。


「金の為にヒーローやるくらいなら、俺たちはもう終わりにした方が良い。」


「すまないレッド…」


「グレー…ホープズシードを渡せ…それで終わりだ…」



「ま…待ってくれ。基地の金を1億ほどくすねたのは謝る。


 それに払っていない保険のお金は俺が払う。だから…」


「おまえ…その金をどうやって作るつもりだ?」


「え?ギャンブルだけど…」


 当然の様にギャンブルで作ると宣言された。そこは冗談でも臓器を売るくらい言ってくれよ…


 まぁ…レッドとピンクはカンカンに怒っていた。

 私もグレーをボコボコにするつもりだったが、彼らがグレーを殺さぬよう静止するのに必死だった。


 もうね…路地裏に連れ込んでから本当に恐ろしかった。


◇◇◇


「じゃあな…グレー。世話になった。この一万円は退職金だと思ってくれ。」


 そういってレッドはグレーに一万円を渡して去る。

「じゃあおまえ達…帰ろうか…」


 グレーを繁華街に置き去りにして、私たちは基地に戻ることにした。

「その…税金は私が払うから…ロボットだけは…」


「悪いな嬢ちゃん…これは俺たちの問題だ。


 ロボットを売り払って、保険金や税金に充てるつもりだ。」


「いや…私がそのお金払うから…」

 ぶっちゃけ私には金がある。忙しくて(アストラが忙しくするせいで)金が使えないのだ。


「……その金は俺たちに使わないでくれ。自分の為に使ってくれよ…」


 いや…わたしはロボットが欲しいだけだ…

 自分の為に使うつもりだ。


「でも引退なんて…街の人たちの為にしないで欲しい。


 それに魔法少女だったあの子達を支えてあげてほしいの。」


 ヒーローも補助金が出るとはいえ、ほぼ自営業みたいなものだ。

 登録して、街の人たちを助ける。だから解散するもしないも彼らの自由だ。


「まぁ…直ぐは引退しないけどさ…でも…


 でも…嬢ちゃんも分かるだろ?限界かもって思うことがあるって…」


 レッドの背中は哀愁を帯びていた。これ以上は聞けなかった。



 グレーは地面に這いつくばりながらも、レッドとピンクに向かって叫んだ。

「金は絶対返すから。そして俺は絶対におまえ達の元に戻るから!」


 信頼を作るのは難しい。けど信頼を壊すのは簡単だ。

 彼らを見て、私は実感した。


 殲滅レッドもピンクも振り返ることは無かった。そうとう怒っているのだろう。



 まぁ私だけでもグレーのいる方に振り返った。万一の場合はフォローするために…



 振り返ると彼は既にいなかった。辛うじてまばゆい街中へ入るのが見えた。


「救えないなぁ…」


 結局私も彼を引き留めるつもりはない。ボコそうかと思ったけど、呆れてやる気も起きない。



 ギャンブルに走る気持ちはわかる。ヒーローも魔法少女の様にストレスが溜まるのだ。

 酒…タバコ…ギャンブルにキャバクラやホスト…


 何かに支えられなければ、心が折れるのだ。



 誰かの期待に応えなきゃいけない重圧は思った以上にのし掛かってくる。


 最初は軽く感じても、長い年月で積み重なりおもりは呪いに変わる。

 その呪いは私たちを蝕み、いつしか他のモノに救いを求める様になる。



 グレーの救いはギャンブルだった…ただそれだけだ…


 結局、彼がここでヒーローをクビになれて良かったかもしれない。

 壊れるまでヒーローを続けて、人生を棒に振る前に…


「さよなら…私のロボット…」

 彼らが税金を払うまでロボットは返って来ない。実質振り出しに戻った。





「返せよ!俺の一万円…仲間から貰った大切な一万円なんだ!」

 パチンコ店の警備員に路地裏に投げ捨てられた男は叫んだ。

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