第5話 ヒーローとの交渉…ロボットを寄越せ!

「ということで、あなた達を魔法少女にするために私は来ました。」

 私は左目を輝かせてヒーロースーツを着ていない殲滅ジャーの隊員に言う。


「いや…でもよ…俺たちは男だぜ…

 魔法少女になんて…」


 筋骨隆々のゴツい男性は私に反論する。だがその返しも想定済みだ。


「最近は男の娘おとこのこという文化が流行しています。


 性別は関係ないです。誰でもなれるんです。魔法少女に!」


 だがヒーロー達は想像する。

 男である自分が、可愛らしいスカート姿を履いて戦う姿を…

 更にはアラサーと言う良い歳の人間が少女と平気で名乗る姿を…


「吐きそう…」「いや…犯罪だろ…」

 隅っこで赤い手紙を破いたりしていた地味な人も会話に入ってきた。


「あはははは…ないない。さすがにこのメンバーじゃ無理だわ。」

 そう言って、ポニーテールの綺麗なお姉さんは私に言った。


「じゃあせめてお姉さんだけでも?」

 上目遣いで訴えかける。


「私さ、もう25なんだよね…魔法少女は無理だね。」


「年齢なんて関係ないです。お姉さんが魔法少女をやってくれれば、世間の注目度は高いです。


 元ヒーロー…憧れの魔法少女に!って感じで!」


「いやぁ…あとちょいでアラサーだしね…」


「お姉さん高校生にしか見えないです!肌もしっかりとケアしてるし、綺麗だし。


 本当にかわいい。どうです?後で私とデートしませんか?」


 私は良い匂いの小柄なお姉さんを壁に追いやって、左手で壁ドンをした。

 あとは右手で彼女に触れて感度を上げてしまえば…



「私も…魔法少女に…?」


「そうです!やりましょう!おねぇさんなら…」


「美奈…」

 リーダーらしき人間は首を横に降る。分かっているだろ?と言わんばかりに…


 一方で事務作業をしている人は、ひたすら赤い封筒を破いている。ストレスでも溜まっているのだろうか?


 ジリリリリリリリ

『魔女出現…魔女出現…現場にはしかばね4体…』


 魔女と言う存在は、レーダー等により出現が確認されただけで警報が鳴る。

 ヒーローが対応出来るように…魔法少女が逃げられるように…


「へぇ…屍が4体とか珍しいな…」


 屍…魔法少女がホープズシードを砕かれてディザイアシードを植え付けられ怪人となった姿…とされる。

 動くモノを襲うゾンビみたいな存在だ…


 4体の屍…嫌な予感がしていた…


「変身」

 リーダー、お姉さん…そして封筒を破っていた事務が、赤・ピンク・グレーのヒーローに変身した。


「じゃあ私たちは行くから…あなたは…に」


「『No.13』の権限により、私も同行します。」

 最強の13人の魔法少女の権限。本来は戦ってはいけない魔女とも戦える。



◇◇◇

 現場についた。やはり私の予想は当たっていた。


 先程まで私の部屋で笑い合っていた少女達は変わり果てた姿と化していた。

 意識が無く、たださ迷う存在…屍…


 意識はない。ただ…生きたいと言う欲求が、彼女達の目にうつる動く生物を傷つけ続ける。



 そしてその4人を眺める様に、1人純白のドレスを着た人間が立っていた。


「久しぶりじゃん…マシロ?いや討伐レートS…魔女ネメシス。」


 討伐レート…それは討伐対象の危険度をざっくり表す指標…

 レートSは上位の魔女だ…


「なんでアンタが…レイア…

アンタには会いたくなかった…」


 血で少し汚れたボロボロのドレス…

 白色のドレスだからこそ、黒いオーラと魔力が滲み出ているのがよく見える。


 そして首元には禍々しく光る赤黒いディザイア・シードが埋まっていた。


「まだ魔法少女なんてやってるの?レイア…いい加減辞めなよ。」

 辞めなよだけは殺気が込められている。


「マシロも魔女なんて辞めたら?」


「辞められると思う?」


「………」

 彼女はもう魔女を辞められない。真実を知っているから…



<ゴオォォォォォォ>

 私の背後に巨大なロボットが駆け付ける。既にこの辺りの住民は待避しているようだった。

 魔女に対しては、ヒーローも生身では戦えない。


「発射ぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

 ロボットの背中の砲台から無数のミサイルが屍とネメシスに向かって飛んでいく。

 だがネメシスに当たることはなかった。見えないバリアが彼女を守っているかのようだった。


「下らない!せっかくお話してたのに…」

 ネメシスは巨大なロボットを睨み付ける。


「入れ替わりなさい」

 すると先程までのネメシスとヒーローの位置が入れ替わる。

 それどころか屍もその場から消える。

 


「どうして?俺たちは…ロボットに乗って魔女と…」


「空間操作…ネメシスの使う魔術…」

 私はヒーローに教える。彼女はヒーローの天敵である存在。


故に危険度の高いレートS



 ロボットが動き回り始めた。恐らく街を破壊するために…


 ヒーロー達が手持ちの銃や武器でロボットに応戦するも全く役にたたない。


 対怪獣・魔女兵器であるがゆえに、怪人向けの武器では力が足りない。


「クソォ!俺たちはどうすれば良いんだ!あのロボットには思い出が詰まっているのに…」



「ここは…他のヒーロー部隊に助けを求めて、あのロボットを壊してもらいましょう…」


「しょうがない…それでも…平和の為に…」


「『No.13 』と言ったな。あのロボットを止められないか?傷つける事なく…」

レッドだけはロボットを諦められないようだった。



「出来る…と言ったら?」

 出来る。だがこの場ではロボットを破壊するのが一番効率が良い。


「何でもする。だから!お願いだ。あれには…」


「何でも?嘘じゃなく?本当に?」

 願ってもない言葉が出てきた。


「あのロボットを傷つける事なく出来るなら…あれは俺の命より大切で…思い出が詰まっているんだ!」


 思い出か…思い出は…消したくないよね…

 私も分かるよ?


「じゃあ…ロボットを寄越せ!って言ったら?」


「それで…済むのか?」


(寄越せは冗談なんだけど…別に借りられれば良いし…)


「えぇ…

 あなた達のロボットは大切に扱う。緊急時はあなた達でも使わせてあげる。」


「それで俺たちの…大切な人から預かったロボットが無事なら…」


 レッドは迷っているが、即決した。それだけ大切なロボットなのだろう。


「例え…ロボットが無くても、俺たちはヒーローであり続ける。


 大切なのはロボットじゃない。人を助けたい気持ちなんだ!」

さすがにリーダーと言うべきか…


「確かにね!」

ピンクはやれやれとポーズを取る。


「無理ならば、容赦なく壊せ!」

グレーは私の身を案じてくれた。


理想的なヒーロー像…

私は過去を思い浮かべてしまう。


『例え魔法少女じゃなくても、私は人を助けたい。』

 昔、命の恩人に対して私自身が言った言葉を思い出す。


だからこそ…

そのヒーローに対して正直で在らねばならない。


「そう…対した覚悟ね…

 でもよく考えてね?私の正体は…」


 私は右目にかかっている眼帯を外した。


「お前…それは……?」

 殲滅ジャー達は全員その場で固まった。


「別に私の正体を知ってロボットを渡してくれなくても良い。

 正体を知ったところで、他の人間に言わなければ私はあなた達に危害は加えない。」


 3人とも固まったままだ…


「なぜ…俺たちに正体を明かす?」


 私は微笑む。

「彼女達を助けるために…

 私には…正体を明かしてでもロボットを必要とする理由があるの…」



 大切なのは形じゃなく心だ。

 私は彼女達を助けたい。だって彼女達も頑張ってきた人間なのだから…


 頑張った人間に…救いがないならば…こんな世界なんていらない…


「それに…」


 私は私が信じる道の為に魔法少女になったから…

 助けて欲しいと願う人間を助けるのが、魔法少女だから…


 私は別に正体がバレるのは怖くない。それで人を助けられるなら…

 みんなが納得して明日に進めるならば…


「ここまで頑張って来た人間が報われる魔法が無いなんて嫌じゃない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る