第6話 魔女

「へぇ…ここがロボットの内部かぁ!」


 私は『悪魔の左手』の力で、ロボットに穴を開けて侵入した。


 景色が良い。やっぱりロボット内蔵カメラを通して見る景色は実物より素晴らしい気がした。


「このロボットの中でならギリギリ暮らせるなぁ!ふふふ。」

ロボットの中で暮らす未来を夢見る。乗員数5人は軽々入れる大きなロボット…

 ワンルームのアパート位の広さはあった。



 ただひとつ疑問はあった。

 どうして戦車と飛行機とトラックが合体しただけで、このような空間が出来たのかと…


 まぁ…今はそんなこと良いや…

 だってこれから戦うのは魔女だから…


「はぁ…レイア…何でここに来るかな?」

ネメシスが そこにはいた。


「何で?って魔法少女達を救いに。」


「もう彼女達は手遅れよ?」


「ホープズシードがディザイアシードに変化したから?」

私は淡々と答える。


「分かっているなら帰りなさい。この子達は…」


「いずれディザイアシードによる魔女化が始まる。

 もう人間には戻れなくなるから、その前に殺してあげるの?」


「ねぇ?そこまで知っていてどうして?」



「私のさっきの言葉を覚えてる?」


「魔法少女達を救いに…」

その言葉でネメシスは気付いてしまったようだった。


「ねぇ…一緒に帰ろう?マシロちゃん…」

私はネメシスに…いやかつてのパートナーに声を掛ける。


「ああ…あぁぁぁぁぁあ。」

 ネメシスは何もない空間から4人の屍を私の周りに出現させる。


 意識がない屍を動く人間に戦わせるつもりだろう…


「救えるなら救ってみろ!どうせ出来もしないだろう!」



 ビッチイエローは大蛇を召喚する。彼女が先日使っていた縄は、呪いの力で蛇に変わったようだ。

 その蛇は縄の様に私の動きを拘束する。


「感度…1000倍…」

 私は殺気を蛇に向ける。その瞬間蛇は生命の危機を感じたのか、巻き付きが弱くなる。


「どいてくれない?」

 その瞬間蛇は私への拘束を止める。それどころか命令を無視して、私から離れていく。


 赤い髪のドレッドはその隙に私に殴りかかる。拳に炎をまとっていた。


 けれどそれを回避し先程の大蛇で縛り上げる。



「神の右手…感度100倍」

 私は右手でイエローに触れる。


「動くな…」

 私は耳元でささやく。全神経に振動を起こし、相手を強制的に動けなくする。

 仕組み?魔法なのだ。考えるな…感じろ! 


 ヘイズパープルとマジカルアクアと呼ばれていた、2体の屍が風の刃と氷の槍を飛ばしてくる。

「感度0倍」

 その攻撃を私は無効にする。感度0による攻撃の無効化…

 仕組み?以下略…


 そしてトドメの

「神の右手」


 あっという間に屍4人を戦闘不能、体を動かせない状態にして制圧は完了した。


 ネメシスは余裕で4体の屍を制圧する私を見て、唇を噛む。



「ホントに…アンタのそこがキライなんだよ…


私が…私達魔法少女が苦しみながら怪人と戦う中で余裕そうにしやがって!


私がどれだけ苦しんで苦しんで…

痛みさえ…人間らしさも失って…


誰かに助けて欲しくて…

でも誰にも助けて貰えなくて…」


 ネメシスはその場から消えた。逃げたのではない…

 攻撃の為に空間を移動したのだ…



「だから私はアナタを…いや魔女になった人間を助ける方法を探していた。

 だから私は…」


 ネメシスは私の目の前に現れる。色白の肌は近くで見るとまるで死人の様だった。


「キレイ事ばっかりウンザリなんだよ…

才能ある人間に、才能が無かった人間の気持ちは分からない!」

そう言ってネメシスは再び消えた。


バキ


ネメシスの拳が私の顔を思い切り殴りつける。


 そのまま空間を移動し、彼女の姿を確認できないまま私に攻撃する。


 私は彼女から殴る、蹴るなどの暴行を受け、そのまま私は地面に倒れる。


 彼女は馬乗りになり、左右の拳で私の顔を殴り続ける。


「どうした?やっぱり痛くなんてないか?だってアンタは無敵の13人の一人だからね!


どうせ私達の気持ちなんて…」


ネメシスの言葉で私は涙を流す…

どうして彼女を助けられなかったのかと、後悔の念が私を襲う。


 いくらでも機会はあったはずだ…助けを求めるサインは沢山あったはずなのに…



「痛いよ…ずっと痛かった。ずっとマシロ…あなたを…」

 私は泣きながらもマシロの目を見つめる。


「…魔女になる魔法少女を助けてあげられなくて…


 ずっと魔女になった後も…

 魔女という宿命に抗って、魔女になってからも苦しんでいる子達を助けてあげられなくて…」


その言葉で段々とネメシスの拳から力が抜けていく。


「嘘だ!」

ネメシスの力の抜けた拳が私の眼帯を掠める…


眼帯は外れて、私の右目があらわになる。


それを見て、ネメシスはハッとした。驚愕の表情を浮かべた。

 無理もない…


「アンタ…その目は……」

ネメシス…いやマシロは私から離れる。


動揺している様だった。


「ごめんね?マシロちゃん…


私に魔法少女としての才能はなかった…


けれど…私が生きる為には…」

 この前の授業の進化論が何故か頭に浮かぶ…


 私は…生きるためにそう進化した…



「違う…私の知ってるアンタは…

 どんな時も明るくて…まるで太陽みたいで…魔法少女の憧れで…」


 馬乗りになっていたマシロは私から離れる。そして壁にもたれ掛かる。


「なんだよ…その目のディザイアシード…


 いつからだ…いつからアンタは…」


 マシロは動揺しながら私に質問する。


「いつから?私は最初からだよ…

 魔法少女になる時の契約の時からそうだった。


 私はこの世のことわりから外れた存在…」


 私は動揺するマシロに優しく微笑んだ。そう最初からなのだ…

 私は例外…全てにおいてイレギュラーな存在…


「騙していたのか?ずっと…


 まさか…出会った時から…アンタはずっと魔女だったのか?

 私を騙していたのか?最初から魔女になる運命を知りつつ、隣でホクソ笑んでいたのか?」


「殺してやる…殺してやる…殺してやる…」

 彼女は壁にもたれ掛かりながらも立ち上がる。


 空間が歪む。私を殺そうと…空間ごとめちゃくちゃにするつもりだ…

 彼女の存在をかけて…


「ごめんね?マシロ…

 あなたの気持ちは分かる。けれどあなたに構う時間は無いの!」


「結局は私なんて眼中に無いのか…私がどれだけ苦しいか分かるか?

 私の気持ちなんて…」


 私は起き上がる。彼女の全力の力を受け止める。

「私の瞳を見て?」


「は?何を…」

 ネメシスは見てしまった。私の目を…ディザイアシードと目を合わせてしまった。


 その瞬間、彼女の体は石の様に固まり始める。

「クソ…忌々しい魔女め…」


 私は立ち上がり、彼女のもとにゆっくりと近づいていく。


 そして右手で触れて、彼女の耳元にそっと口を近付ける。


「眠れ…」

 私は壁にもたれ掛かるマシロの耳元で囁く。


 その瞬間、彼女は壁を伝って眠りについた。



「ごめんね…でもいつかあなたを助ける。

 けれど…今は彼女達を救わなきゃいけないの…


 誰かの為に戦ってきた彼女達の、未来を終わらせないために…」


 かすかな可能性でも助けられるならば諦めない…

 それが私が憧れた魔法だと信じて…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る