第13話 ねこのこのこのここしたんたん

「「「「ドッキリ大成功!」」」」


「なんだな」


「はあああああ?」


 チカ、カズマ、ヨシノ、キョン子は「ドッキリ大成功!」と書かれた大きな紙を広げていた。ご丁寧にも、わざわざ自分のマンガのキャラ🍌バナナ・パインテール姫がウインクして舌を出しているイラスト付きだ。


「なんの真似ですかこれは!」


「猫池さん、アンタは何者だい?」


 サブロウが聞く。


「なにわけのわからないことを! 私はタイ・イナバウアー・フードの社員! ただのサラリーマンです!」


「異議あり!」


 サブロウがびしっと人差し指を猫池氏に向かって突きつける。


「どこが異議ありなんですか!」


「アンタ、犬飼柴太郎を知ってるのか?」


「本社社長の御親戚で大株主でみなさまのご友人でしょう?」


「チッチッチ。ハズレだ。オレたちの友人なんかじゃない。ごろにゃんこ組長とも無関係だ。で、社長の親戚には違いないが株主ではない」


 嫌みたらしく、人差し指差左右に振りながらサブロウが言う。


「ええっ! どういうことですか⁈」


「犬飼柴太郎はにイナバウアー食品の前身ルーツ、犬飼柴太郎商店を始めた人で、現社長のだ。本社ロビーに目立つ銅像があるからイナバウアーの社員はみんな知ってる」


「なんですと!」


「そもそも『犬飼柴太郎からの依頼』はオレがごろにゃんこ組長のツテで出してもらったフェイクメールだ。あれでイナバウアーの社員が動くはずがない。動くとしたらタイ・イナバウアー・フードの通信を傍受している情報機関だけだ」


「く〜〜〜〜!」


「オレたちはアンタら情報機関と連絡とりたかったんだ。うまく釣れてよかった。ガソリンスタンドのコンビニに寄ったのも、そこでアイスを買いまくったのも、このホテルに誘導するためさ。アンタらと話するにしても拉致られるよりココの方が安全だからね。さあ楽しくお話ししようか」


「私は何も知らない! ただ出迎えるように頼まれただけだ!」


「往生際が悪いなあ。オレたちに睡眠薬入りの飲み物を飲ませて拉致しようとしたくせに」


「宇宙ねこの鼻を見くびっては困るんだな。あのバスの飲み物から睡眠薬の匂いがしたんだな」


「……」


 猫池氏はあきらめたのかすっかり黙り込んだ。


「黙秘かい。じゃあ猫池さんは人質だな」


「人質じゃなくてねこじちなんだな。猫池さんもバステト族なんだな。匂いでわかるんだな」


「ほう。ユーリ、他に誰か隠れていないかい?」


「くんくん。そこのクローゼットの中にもバステト族がいるんだな。部屋の前にはさっきの運転手さんがいるんだな。やっぱりバステト族なんだな」


「ようし、じゃあバステト族の皆さん、出ていらっしゃ~い。でないと宇宙ネコ・ユーリのビックリドッキリメカで猫池さんといっしょにギッタンギッタンにしちゃいます!」


ガチャ


「まさかこっちが最初からだまされていたとはね」


 入り口のドアからサングラスをかけた色黒で長身の運転手が入ってくる。


ギイツ


「まったくだ。すっかり計画が狂っちまった。アンタら何者ナニモンだ? 同業者か?」


 クローゼットからは赤い顔した白人のゴツイ体型の男がのっそり出てきた。


「違うな。オレたちはただのユーリのおともだち、一色サブロウとゆかいな仲間たちさ。さあ、みんなで仲良くアイスを食べながらおしゃべりしよう。聞きたいことがいっぱいあるんだ」


「みんなでなかよくがいいんだな」









**************************************************



 ロシア連邦共和国。かつて冬季五輪が開かれた黒海沿岸の都市ソチ。


 このソチにはロシア大統領別荘があり、そこにも大統領の執務室があった。


 大統領執務室には、大統領を含むごく一部のものにしか知られていない秘密の通路がある。


 そんな秘密の通路をわざわざ通って出入りするのはイワン・プチャーチン大統領本人。そして……


「こんばんは、。お元気ですか?」


 深夜、秘密の出入り口から現れた髪が薄く禿げ上がった男が、大統領の執務机についているやはり髪が薄く禿げ上がった男に向けて声をかけた。


「待たせやがって。ずいぶんとのんびりとしたご登場だな、


 務執机に向かって豪勢な革張りの椅子に座っている男と、隠し通路から現れた男はどこからどう見ても、同じ顔、そして同じ声であった。


「独裁者は時間に従う存在ではない。時間を従わせる存在なのだよ、


「たしかにな」


「「ははははははは」」


 座っていた男は立ち上がると、二人のは笑ってお互いに抱き合った。そしてくるりと位置を入れ替えると、お互いの位置を交代して、後から来た方が執務席の椅子に腰かけた。


「アンタの独裁者ぶりも随分と磨きがかかったじゃないか、


 座った方が立たされた方に向かって言った。


「おかげさまでな。アンタのおかげだよ


「うむ。独裁者は尊大で傲慢でなければならんからな」


「違いない。腰が低い独裁者など不出来なコメディだ」


「そうだな。ところでどうだい、ロシア大統領を暗殺しようだなんてバカどもはまだ寄ってくるかね」


「前ほどではないがね。命知らずがひと月に一人はやってくるよ。今回は国民との触れ合いの最中に、死角から毒針をとばされたよ」


「まったく、無駄なことを。アンタ自身には問題はなかったかね」


「全然、何も」


「ならば、よし。犯人は捕まえたのか?」


「俺にダメージがないのを見て呆然としていたご老人がいたので、SPに言ってゲストハウスにご招待したよ」


「なんだまた年寄りか。その前は退役軍人によるライフルによる長距離狙撃だったな」


「ああ」


「根性のある若い奴は来ないのかい?」


「後先少ない年寄りだからこそ、命を懸ける気になれるのだろうさ。若い奴らには、独裁者の暗殺よりももっと大事なものがあるんだよ」


「たとえば?」


「家族とか、恋人とかだろうな」


「なるほど。アンタもそうだよな」


「もちろん」


「そこは家族のいないオレには共感できない概念だな」


「お互い様だな。家族や恋人の大切さをアンタと共有できないのは残念だ」


「まったくだ」


「話は変わるが、最近、あまりにも完璧に暗殺を防いでいると、かえって不自然な気がしてきたんだが、どう思うかね」


「ふむ。それもそうか。じゃあ、今度はケガをしたことにして、大事をとってしばらく休職というのはどうだ?」


「いいね。とくに休職というのがよい! ここ最近忙しくて仕方がないんだ。採用させてもらうよ。ところで、肝心なアンタの探し物は見つかったのかね」


「いや、まだだ。もっとも最近は捜索よりも工作に忙しかったんだ。おかげで工作は順調だ。あとは探し物だけだ」


「そうか。早く見つかるといいな」


「本心か? アレが見つかってしまったら、オレはおさらばするぞ。アンタはまだ続けたいのかい?」


「タチの悪い冗談を言うな。俺も好きでこんなことをやってるわけじゃない。ほどよいところで上手くトンズラするさ」


「賢明だな。独裁者も最期は悲惨なもんだ。アンタの家族はどうする?」


「もちろん連れて行くさ」


「それがいい。家族は大切だからな」


「アンタ、意味わかってて言ってるのか?」


「いいや。話を合わせているだけだ」


「だろうな」


「じゃあ、腹が減ったからそろそろお暇するよ」


「そうか。どこへ行くんだ?」


「聞いたろ? オレは腹が減ったんだ。わざわざ出向いたんだから、帰りにはゲストハウスで食事をさせてもらうよ」


「そうか」


「じゃあな、なにか探し物の情報が見つかったら知らせてくれ、


「わかったよ


「またな」


「ああ」


 座っていた男は立ち上がるともう一人の男の肩をポンポンと叩いて秘密の出入り口から姿を消した。


 しばらくして一人残された男は残り少ない髪の毛を掻きむしりながらさけんだ。


「糞ッたれ! いつまでこんなことを続けなきゃいけないんだ、あの悪魔め!」





つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

🌌🐈‍⬛宇宙ねこが来たんだなーなーなー 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ